権利不要求部分の中国語「地理名称及び商品名称」(例えば「馬祖高粱啤酒」)を含む商標図案が、商標異議手続きにおいて、先願の商標図案と誤認混同を構成するおそれがあるかを判断するにあたっては、やはり当該商標(権利不要求声明の部分を含む)の全体を比較の範囲としなければならない。
2024-09-23 2023年
■ 判決分類:商標権
I 権利不要求部分の中国語「地理名称及び商品名称」(例えば「馬祖高粱啤酒」)を含む商標図案が、商標異議手続きにおいて、先願の商標図案と誤認混同を構成するおそれがあるかを判断するにあたっては、やはり当該商標(権利不要求声明の部分を含む)の全体を比較の範囲としなければならない。
II 判決内容の要約
知的財産及び商事裁判所行政判決
【裁判番号】112年度行商訴字第22号
【裁判期日】2023年10月19日
【裁判事由】商標異議
原 告 馬祖酒廠実業股份有限公司
被 告 経済部知的財産局
参加人 林建興
上記当事者間の商標異議事件につき、原告が経済部による中華民国112年2月20日付経訴字第11217301530号訴願決定を不服とし、行政訴訟を提起した。本裁判所は、参加人に訴訟への独立参加を命じ、且つ次のとおり判決する。
主文
訴願決定及び原処分をともに取り消す。
被告は、第02176859号「馬祖高粱啤酒及び図案」登録商標の異議申立成立、商標登録取消の処分を下す。
訴訟費用は被告の負担とする。
一 事実概要
参加人は先ず2021年1月25日に「馬祖高粱啤酒及び図案」商標(「馬祖高粱啤酒」文字の商標権の権利不要求を声明)を当時商標法施行細則第19条所定の商品及び役務区分第32類の「ビール、黒ビール、生ビール、ノンアルコールビール」に使用指定し、被告に登録出願した。被告は審査したうえで、第2176859号商標(以下係争商標という。添付番号1の通り)を登録査定したが、原告は係争商標の出願について、商標法第30条第1項第10号、第11号の事情に該当するとして、異議を申し立てた。被告は審査したうえで、2022年8月31日付中台異字第1100659号商標異議決定書をもって、異議不成立の処分を下した。原告は前記の処分を不服とし、訴願を提起したが、経済部が、2023年2月20日付経訴字第00000000000号訴願決定をもって棄却したのに対し、原告は訴願決定を不服とし、本裁判所に行政訴訟を提起した。本裁判所は、本件判決の結果について、もし原処分及び訴願決定を取り消す場合、参加人の権利又は法律上の利益に影響が及ぶと認めたので、やはり職権により参加人に本件訴訟への独立参加を命じた。
二 両方当事者の請求
(一)原告の請求:
(1)訴願決定及び原処分をともに取り消す。(2)被告は第02176859号「馬祖高粱啤酒及び図案」登録商標の異議申立成立、商標登録取消しの処分を下すべきである。
(二)被告の請求:原告の訴えを棄却する。
三 本件の争点
係争商標の出願は商標法第30条第1項第10号、第11号所定の事情に該当するか?
四 判決理由要約
(一)本件係争商標(付図1)と引用商標(付図2-8)の比較を行ったところ、係争商標と引用商標はともに同じく馬祖高粱酒(ソルガムワイン)」の五つの文字があるが、引用商標に使用されている「馬祖高粱酒」の五つの文字について、原告は早くも2006年、2018年から2020年にこれを登録出願し、登録査定を受けている。このため、係争商標が2021年に登録出願された際に、原告は少なくとも前記引用商標を15年あまり登録しており、且つ台湾で高粱酒(ソルガムワイン)を製造する主要な酒類メーカーは 3 社だけであり、原告はその中の一社である。それ故、係争商標に比べて、引用商標は消費者によく知られているはずである。
係争商標は確かに別途「啤」文字を加えた「馬祖高粱啤酒」であるので、引用商標の「馬祖高粱酒」と異なるが、両者の差異は微々たるものである。又、係争商標には別途「丸い外観に、両手の人差し指、親指を触れ合わせ、その真ん中にボールを置く」図案があるのに対して、第1263381号引用商標には別途、毛筆書体の「馬祖」二文字を、絡み合った麦穂図案の真ん中に置いているが、前記図案に視覚的効果があるだけで、発音により区別することができない。ましてや、台湾の消費者にとって、中国語文字を含む商標図案の多くは、その中国語部分を主な識別部分とするので、係争商標と引用商標の二者の主な識別部分は僅かに一文字の差異だけであり、類似程度は当然低くない。
(二)係争商標は第32類の「ビール、黒ビール、生ビール、ノンアルコールビール」商品に使用指定されている一方、引用商標は第33類の酒(ビールを除外する)、高粱酒等酒類の商品に使用指定されているため、両者の商品は高度に類似し、且つ製造者が同一であり、販売ルート及び訴求する消費者も高度に重複するので、二者の指定商品も高度な類似を構成するはずである。
(三)被告は、馬祖が島の名称である地理名称なので、先天的識別性がない云々と抗弁した。しかし、原告は、台湾の三大高粱酒(ソルガムワイン)メーカーであり、また台湾の三大高粱酒メーカーが製造する高粱酒製品はすべて地名、例えば「玉山高粱酒」、「金門高粱酒」及び本件の「馬祖高粱酒」であるほか、原告の引用商標の製品も長年にわたって使用してきており、且つ被告に登録出願し、登録査定を受けており、数回にわたってメディアで報道されたので、後天的識別性があると十分認定できる。よって、被告の前記抗弁は採用できない。
被告は更に、係争商標である中国語の「馬祖高粱啤酒」は、「ビール、黒ビール、生ビール、ノンアルコールビール」商品に使用指定しているので、一般的な社会通念に基づけば、馬祖に由来する高粱の風味又は成分のビールであることを示しているので、これは産地及び成分の説明であり、客観的に商品の出所を十分表彰する標識になりえず、誤認混同を生じない云々と述べた。しかし、調べたところ、係争商標はもとより馬祖に由来する高粱の風味又は成分のビールであると解釈される可能性があるが、「原告が製造する高粱の風味又は成分のビールである」と解釈される可能性も除外することができないため、関連消費者に誤認混同を生じさせるおそれがある。
また、参加人は係争商標の中国語部分、つまり「馬祖高粱啤酒」の権利不要求を声明したが、当該権利不要求部分については、後願の商標が侵害の疑いを構成するかを判断する時のみ、はじめて比較範囲に入れるべきかを検討、斟酌する必要があり、異議手続きにおいて、先願の商標権者が後願商標の出願が誤認混同を生じさせるおそれがあるかを主張したことを判断するにあたっては、やはり後願の商標の全体を比較範囲とすべきであり、且つ権利不要求の声明部分を排除のうえ、比較する状況はない。また、本件参加人の戸籍は連江県にあり、ツアーガイドに従事しており、ビール製造又は輸出の関連業者ではないが、引用商標の存在を知っていたはずであり、その類似程度が低くない係争商標を酒類商品の使用に出願したことは、善意によるものとは言い難い。
前記を踏まえて、本裁判所は、係争商標の主要識別部分が引用商標と類似を構成し、且つ類似程度も低くないほか、係争商標と引用商標を使用する指定商品がともに酒類飲料であり、両者の商品性質が高度に類似していて、製造者も同じで、販売ルート及び訴求する消費者も高度に重複していることを総合的に酌量すると、二者の指定商品は同一又は高度な類似を構成するはずである。それに加えて、引用商標は係争商標の出願当時すでに十年以上登録されており、消費者によく知られており、且つ参加人による係争商標の出願が善意によるものではない等すべての情状を酌量したうえで、係争商標の出願は商標法第30条第1項第10号の規定に違反するものとして、その登録を拒絶すべきであると認定した。よって、訴願決定及び原処分を取り消し、且つ被告機構に、異議申立成立、係争商標の登録取り消しの処分を下すよう命じる。
以上を総じると、本件原告の訴えには理由があるので、改正前の知的財産案件審理法第1条、行政訴訟法第218条、第98条第1項前段、民事訴訟法第385条第1項前段に基づき、主文の通り判決する。
中華民国112年10月19日
知的財産第二法廷
審判長裁判官 彭洪英
裁判官 曾啓謀
裁判官 汪漢卿