商標のパロディとは、大衆に知られている商標を模倣、嘲笑またはからかいの対象とし、原作の趣旨を伝達するとともに、原作と違ったユーモア、皮肉的または批判的等娯楽性のある模倣作を指し、大衆にすぐ模倣作の商標が原作と関係ないことを理解させなければならないほか、消費者の混同を招くことになるかについても考慮しなければならない。
2024-10-21 2024年
■ 判決分類:商標権
I 商標のパロディとは、大衆に知られている商標を模倣、嘲笑またはからかいの対象とし、原作の趣旨を伝達するとともに、原作と違ったユーモア、皮肉的または批判的等娯楽性のある模倣作を指し、大衆にすぐ模倣作の商標が原作と関係ないことを理解させなければならないほか、消費者の混同を招くことになるかについても考慮しなければならない。
II 判決内容の要約
台北地方裁判所刑事判決
【裁判番号】111年度智易字第14号
【裁判期日】2024年03月13日
【裁判事由】商標法違反
公訴人 台湾台北地方検察署検察官
被告人 黃克誠
被告人 顏伯修
上二名の選任弁護人 高嘉甫弁護士
上記被告人等による商標法違反の件について、検察官により公訴が提起され(台湾台北地方検察署110年度偵字第35299号)及び書簡で併せて審理するよう申立てがあったので(台湾台北地方検察署112年度偵字第37834号)、本裁判所は以下のとおり判決を下す。
主文
黃克誠は商標法第95条第3号の商標権侵害罪を犯したので、6か月の懲役に処し、罰金に換える場合、1日あたり1,000台湾ドルで換算する。
顏伯修は商標法第97条の商標権侵害商品販売罪を犯したので、5か月の懲役に処し、罰金に換える場合、1日あたり1,000台湾ドルで換算する。
付表のすべての押収物品は没収し、本件において押収されなかった顏伯修の不当利得43,110台湾ドルを追徴する。
台北地方裁判所刑事付帯民事訴訟判決
【裁判番号】112年度智附民字第7号
【裁判期日】2024年03月13日
【裁判事由】違反商標法付帯民訴
原告 イギリス企業・布拜里公司(Burberry Limited)
法定代理人 Edward Charles Rash
上二名
送達受取人 楊代華弁護士
訴訟代理人 楊代華弁護士
高訢慈弁護士
呂彥禛弁護士
被告 米斯美客股份有限公司
兼法定代理人 黃克誠
被告 顏伯修
上記被告等による本裁判所111年度智易字第14号商標法違反の件について、原告が付帯民事訴訟を提起して損害賠償を請求したので、本裁判所は2024年1月17日に口頭弁論を終了し、以下のとおり判決を下す。
主文:原告の訴えを棄却する。
一 事実要約
顏伯修及び黃克誠二人はそれぞれ米斯美客公司の董事長と監察人であり、黃克誠はそのデザインした衣服、スーツケース等商品に係争商標に類似する図案を使用したうえ、それ等の商品を被告顏伯修に出荷した。被告顏伯修は米斯美客公司が経営する「MF旗艦店」、及びアカウント「MFSHOPEE売場」(ID:mfofficial.)のSHOPEEオンラインショッピングサイトウェブページで、市場の不特定の消費者に向けて係争模倣商品を陳列して販売していた。警察当局は裁判所により下付された捜索令状をもって「MF旗艦店」及び米斯美客公司電子商取引及び出入荷部門、堅仕徳創意設計有限公司設計部門の共同営業場所を捜索し、前後係争模倣商品計246点押収した。
二 双方当事者の請求内容
(一)原告の主張
1.被告に連帯賠償5,895,000台湾ドル及び利息を請求する。
2.被告による模倣商品の販売を禁止する。
3.押収された模倣商品246点を廃棄する。
(二)被告の答弁主張
原告の訴えを棄却する。
三 本件の争点
(一)刑事判決
被告が「パロディ」を商標権侵害の抗弁とすることには理由があるか?
(二)民事判決
1.被告は原告の商標権を侵害したか?
2.原告の損害賠償請求権は時効が完成しているか?
3.原告による販売禁止及び模倣品廃棄の請求には理由があるか?
四 判決理由の要約
(一)刑事判決
1.商標法におけるいわゆる「関連消費者に誤認混同を生じさせるおそれがある」とは、行為者の商標が関連消費者にその表彰している商品または製造主体について誤認混同を生じさせるおそれがあることを指す。言い換えれば、行為者の商標が登録商標と同一または類似であるため、関連消費者に同一の商標と誤認させる、または、両商標が同一の商標だと誤認させないとしても、両商標の商品/役務が同一の出所のシリーズ商品/役務だと誤認させる可能性が極めて高い、または、両商標の使用者の間に関連企業、許諾関係、フランチャイズ関係、その他類似の関係があると誤認させることを指す。
2. 学理上いわゆる商標の「パロディ」は、言論、表現及び芸術の自由に対する尊重に基づき、商標権に合理的な制限を与えるものである。但し、商標権は商標権者の利益と消費者の誤認混同を避けるという公共利益に関わるものなので、「商標のパロディ」を容認する前には、著名商標を模倣した商標がユーモア、皮肉または批判等の娯楽性を有しているものでなければならず、並びに対比/矛盾のメッセージを伝えるとともに、「混同を避ける公共利益」及び「自由に表現する公共利益」をもってその兼ね合いを考慮しなければならない(知的財産裁判所103年度刑智上易字第63号判決趣旨を参照)。
3.なお、パロディまたはジョークはその国の言語、文化、社会的背景、生活経験、歴史等と密接に関係しており、本国人は外国人がよく言うジョークの文字通りの意味は理解できても、ユーモアの意味合いまでは理解できないことがある。それにパロディまたはジョークに含まれるユーモアの要素は、聞き手が笑えるポイントを理解するために一定の推理や思考の過程を経る必要がある。商標図形が関連消費者に誤認混同させるおそれがあるかどうかは、関連消費者が商標図形を見た瞬間に即座に反応し(あまり推理や思考をせずに)、他の商品又は役務の出所と同一又は関連する印象を与えるかどうかで判断されることが多い。よって、米国のMOB事件の判決では、「オリジナル作品との関連性がないことを明確に伝えている」且つ「消費者が直ちにパロディであることがわかる」という基準を満たさなければならないと述べており、これは知的財産裁判所108年度民商上字第5号判決趣旨を参照することができる。
4.上記判決を参照すると、商標の使用がパロディに当たると主張するためには、一般公衆に既に知られている商標を模倣、嘲笑、からかいの対象としなければならず、これは原著作物の趣旨、及び原作と異なるユーモア、風刺、批判等娯楽性のあるパロディであることを同時に伝え、両者同時に対比のメッセージを生じ、大衆に直ちにパロディの商標は嘲笑するためのものであり、原作とは無関係であることを理解させるものである。ほかに、商標の使用がパロディに当たるかどうかを判断するために、消費者の混同を招くかどうかと、模倣者の自由表現権の保障という二つの公共利益の衡平を考慮しなければならない。
5.経済部知的財産局が鑑定したところ、知的財産局は本件商品上の表示を、前記の商標権者の登録商標と比較したところ、全体の文言や構成デザインが類似しているため、通常の知識と経験を有する消費者が取引きをする際に、通常の注意を払った場合、これらの商標が同一の出所のもの、または異なっているが関連のある出所のものだと誤認する可能性があるので、これは類似商標を構成し、且つ使用する商品及び役務が同一または類似すると、関連消費者がこれらの商標の商品または役務も同一の出所のもの、またはこれらの商標の使用者の間に許諾、フランチャイズまたはその他類似の関係があると誤認する可能性があり、関連消費者に誤認混同させる可能性があると認定した。
6.商標権者の商標は、国際及び国内市場において、長年にわたって運用されており、相当な名声があり、関連販売ルートを通じて、関連消費者の当該商標図形に対する印象も絶えず強化して深めており、関連消費者に広く知られおり、高い識別性があり、各当該商品の一定の品質又は信用の保証を十分に表彰しているので、これをもって他人の商品と区別することができるので、いずれの関連消費者にも商品の出所を識別する重要な標識とみなされている。よってその商品の知名度も、一般消費者によく知られているレベルに達している。一般社会通念及び市場取引の状況によると、通常知識経験を有する関連消費者は、付表番号1から番号8の本件押収商品の外観写真だけで、それぞれ異なる時点異なる地点に隔離して、全体的に観察した結果、直ちに本件商品と付表番号1から番号8の商標権者が製造販売している商品と、同一の出所のシリーズ商品である、または関連関係、許諾関係、フランチャイズ関係、またはその他類似関係があるとの印象を生じているため、誤認混合のおそれがある。
7. 被告二名の行為は、付表番号1から番号8の商標権者が長年にわたって運用している商標から生じた波及効果を利用して、自己の商品の販売促進を図る営利を目的とした便乗行為であり、「ユーモア、皮肉的または批判的等娯楽性があり、並びに対比/矛盾のメッセージを伝えるとともに、文化的貢献または社会的価値があり、商標権の保護を犠牲する必要性がある」等の事情があるとは認め難く、パロディの要件は満していない。
8.以上をまとめると、被吿二名の抗弁は採用することができない。本件の事実証拠は明確であり、被吿二名の犯行を十分に認定できるので、法に従って刑罰を論じるべきである。
(二)民事判決
1.被告は原告の商標権を侵害した。
被告による模倣品の陳列、販売行為は、裁判官によって刑事判決で事実証拠が明確であると認定され、被告黃克誠も商標法第95条第3号の商標権侵害罪を犯したとして処罰された。よって、原告が被告等に前記商標権を侵害した事実があると主張し、被告等に対して連帯して損害賠償責任を負うべきだと請求したことは根拠があることである。
2.原告の損害賠償請求権は時効が完成している。
(1)不法行為によって生じた損害賠償の請求権は、請求権者が損害及び賠償義務者を知った時から起算して2年間行使しないとき消滅する。不法行為の時から起算して10年を経過したときもまた同じである。これは民法第197条第1項により明文で規定されている。また、時効が完成した後に、債務者は給付を拒否することができる。これは民法第144条第1項により明文で規定されている。不法行為によって生じた損害賠償の請求権の消滅時効は、請求権者が損害及び賠償義務者を知った時から起算すべきであり、賠償義務者が不法行為により犯罪行為を構成し、検察官によって起訴された、または裁判所によって有罪と判決されたことを知った時から起算するのではない。
(2)内政部警政署保安警察第二総隊は市民が「MFSHOPEE売場」(アカウント:mfofficial.)から係争商標を模倣した被疑侵害品の証拠物を購入し、当該総隊に告発した後、当該総隊がそれ等の証拠物を原告に送り、模倣品に間違いないとの確認を得たので、2021年5月11日午後12時45分頃、上記「MF旗艦店」、及び同日午後2時37分頃、被告米斯美客公司電子商取引及び出入荷部門、堅仕徳創意設計有限公司設計部門の共同営業場所で、前後係争模倣商品246点を押収した。原告が鑑定したところ、係争模倣商品246点は商標権を侵害する商品であると十分に認定できた。原告は2021年5月11日に警察当局が捜索を行った際に、すでに係争商標権が侵害された、賠償義務者が誰かを知っている状態だった。これは原告代理人が上記2021年3月25日付公文書において、商標権者は当該SHOPEE売場アカウント「mfofficial.」及びMF旗艦店の登録者または実際の使用者に対して告訴を提起せず、貴機関(即ち内政部警政署保安警察第二総隊)で職権により処理いただくようお願いする、と明記していることから証明できる。しかし、原告は2023年10月18日になってはじめて書状をもって本裁判所に本件刑事付帯民事訴訟を提起したので、原告の本件損害賠償請求はあきらかに2年の消滅時効が完成しており、被告が本件の提出時効がすでに消滅したと抗弁し、給付を拒否したことには根拠がある。
3.原告による販売禁止及び模倣品廃棄の請求には理由がない。
係争模倣商品計246点は内政部警政署保安警察第二総隊に押収された後、本裁判所により111年度智易字第14号刑事判決で没収を通知したので、被告等はあきらかに本件にかかわる係争模倣商品を継続して保有したり、処分することができない。よって、係争模倣商品計246点を廃棄すべきであり、且つ被告等も継続して係争模倣商品を販売してはならないとの原告による声明は、あきらかに権利保護の必要性を欠いているので、棄却すべきである。