他人の代理で荷物を受け取り、商品の代理発送を担当したとき、商標権侵害物品を販売した罪と認定できるのか。
2024-12-20 2024年
■ 判決分類:商標権
I 他人の代理で荷物を受け取り、商品の代理発送を担当したとき、商標権侵害物品を販売した罪と認定できるのか。
■ ハイライト
検察官は、被告人が中国大陸からの商品が、商標専用権者の同意を得ずに、無断で同じ商品に同じ商標と類似の包装を使用したもので、十分に消費者に誤認混同させるコピー商品であると知りながら、商標法違反の犯意に基づいて、2020年7月、8月に、李建賦が経営する和漢薬局に赴いて、200新台湾ドルで商標模倣品を李建賦に販売し、その後商標権者である宏緯生物科技有限公司(以下「宏緯公司」)が呂紹聖弁護士に委託して告訴したことを以て、被告人を商標法第97条前段の商標権侵害物品を販売した罪で起訴した。台湾桃園地方裁判所は刑事判決にて被告人に無罪判決を下したため、検察官は知的財産及び商事裁判所に上訴した。本件は知的財産及び商事裁判所で審理された後、なお検察官の上訴は棄却された。
上述の問題について、知的財産及び商事裁判所は判決において次のように指摘している。
一、被告人は警察での取調べ、捜査及び原審の審理において、自分は中国大陸地区の人物が台湾に送った商品を受け取り、さらに中国大陸地区の人物の代理で注文した購入者に発送したと、繰り返して供述している。証人鄭雅憶は警察の取調べにおいて、自分は中国大陸地区の人物が経営する蝦皮(Shopee)アカウントで商品を出荷するのを手伝うことを副業としており、被告人と自分は同業者である等と供述している。このことから、被告人が中国大陸地区の人物の指示により、台湾で荷物を受け取り、注文した購入者に商品を代理発送したことが分かり、本件商品の販売者ではないという被告人の供述は訴訟において捏造したものではない。
二、証人李建賦による警察での取調べ及び本裁判所の審理における供述は、(被告人が)売り込んだ商品の種類並びに友人と一緒に被告人の桃園の倉庫を参観したことがあるか否かについて、確かに齟齬があり、前述の供述が一致しない状況から、その供述は信じることができない。況して、本件証人李建賦による一つの証言を除いて、ほかにはその証言の信ぴょう性を裏付けるに十分な補強の証拠がなく、とくに前述のなお疑わしい供述だけで、被告人に本件の商標権侵害物品を販売する犯行があったと直ちに認定することはできない。
II 判決内容の要約
知的財産及び商事裁判所刑事判決
【裁判番号】112年度刑智上易字第25号
【裁判期日】2024年3月5日
【裁判事由】商標法違反
上訴人 台湾桃園地方検察署検察官
被告人 劉競輝
主文
上訴を棄却する。
一 事実要約
検察官の上訴趣旨は概ね以下の通りである。
(一)被告人は警察の取調べにおいて、2020年7、8月に、中国大陸の顧客の指示で、マスクを購入者である和漢薬局に2回自ら届けた等と供述しており、警察の取調べ及び訊問における証人李建賦の供述である、被告人が和漢薬局を訪れて商品を売り込んだという状況と一致しており、被告人がその後審理中に「ivenor夜塑崩」という商品を李建賦に訪問して売り込んだり、販売したりしたことはなく、単に中国大陸企業の代わりに出荷、発送等をしていたと供述したことは、「避重就輕(訳注:重大な点を避けて枝葉な点ばかり採り上げること)」にすぎない。
(二)証人李建賦は警察の取調べにおいて、被告人は2020年7、8月に自ら薬局を訪問して保健食品と化粧用品の模倣品を売り込み、 李建賦は証拠を集めるために、被告人からマスク1箱と「ivenor夜塑崩」1箱を購入するふりをしたところ、その場で被告人はマスク1箱を渡し、数日後になってやっと「ivenor夜塑崩」1箱を渡したこと、また2020年8月に、李建賦は友人の呉友源とともに、被告人に招待されて、被告人の倉庫を参観したこと等を供述した。さらに李建賦は被告人とのLineのチャット記録及び被告人の写真を証拠として提出した。被告人の原審の審理中における供述は明らかに訴訟において捏造したものであることが分かり、採用するには十分ではない。
二 判決理由の要約
(一)被告人は警察での取調べ、捜査及び原審の審理において、被告人は中国大陸地区の人物が台湾に送った商品を受け取り、さらに中国大陸地区の人物の代理で注文した購入者に発送したと、繰り返して供述している。証人鄭雅憶は警察の取調べにおいて、自分は中国大陸地区の人物が経営する蝦皮(Shopee)アカウントで商品を出荷するのを手伝うことを副業としており、被告人と自分は同業者であり、証人鄭雅憶が中国大陸地区の人物「韋磊」と提携関係を終結したいため、「韋磊」は被告人に荷物を被告人に送るよう要求したこと等を供述している。このことから、被告人が中国大陸地区の人物の指示により、台湾で荷物を受け取り、注文した購入者に商品を代理発送したことが分かり、本件商品の販売者ではないという被告人の供述は訴訟において捏造したものではない。
(二)証人李建賦による警察での取調べ及び本裁判所の審理における供述は、(被告人が)売り込んだ商品の種類並びに友人と一緒に被告人の桃園の倉庫を参観したことがあるか否かについて、確かに齟齬があり、前述の供述が一致しない状況から、その供述は信じることができない。況して、本件証人李建賦による一つの証言を除いて、ほかにはその証言の信ぴょう性を裏付けるに十分な補強の証拠がなく、とくに前述のなお疑わしい供述だけで、被告人に本件の商標権侵害物品を販売する犯行があったと直ちに認定することはできない。
以上の次第で、改正前の知的財産事件審理法第1条、刑事訴訟法第373条、第368条の規定により、主文のとおり判決する。本件は、検察官呉宜展が公訴を提起し、検察官雷金書が上訴を提起し、検察官羅雪梅が法廷にて職務を執行した。
2024年3月5日
知的財産第五法廷
裁判長 蔡慧雯
裁判官 彭凱璐
裁判官 李郁屏