初めて知的財産裁判所がアダルトビデオに著作権を認める判決 台大教授が「独創性有り」と鑑定
2015-06-03 2014年
■ 判決分類:著作権
I 初めて知的財産裁判所がアダルトビデオに著作権を認める判決 台大教授が「独創性有り」と鑑定
■ ハイライト
アダルトビデオ(AV)も著作権の保護を受けることができるという。最高裁判所1999年度判決ではAVは著作権の保護を受けることができなかったが、知的財産裁判所は昨日(2014年2月20日)この見解を覆した。台湾大学法学部の黄銘傑教授の鑑定に基づいて、3作品のAVに独創性があり、ストーリーを含み、一般的な「主役の男女が最後の行為まで及ぶ」ようなAVではなく、さらに日本とわが国は同じくWTO(世界貿易機構)の会員であり、その国民のポルノ著作物はわが国の著作権法の保護を受けるものであると認定した。
本判決は知的財産裁判所第二審における判決であり、上訴できないため、知的財産裁判所が設立されて以来、初めて海外の合法AVに著作権があると認定する確定判決となった。
ただし知的財産裁判所の李得灶裁判長によると、本判決はその他の裁判官、合議法廷に対する拘束力はなく、また今後異なる見解が出されたならば、裁判所は法律座談会を開くだろうが、座談会の見解も参考に供するのみで、同様に拘束力はなく、裁判官が類似する事件の審理を行うときには、なおその心証に基づいて異なる判決を下すことができるという。
ポルノ光ディスク販売の男2人に半年の実刑判決
本件のポルノ光ディスク販売の男2人は著作権法違反により6ヶ月の実刑判決が確定した。担当弁護士の薛欽峰氏は、本判決は従来の実務上の見解とは異なっており、他の裁判官が必ずしも同じ見解を持っているとは限らないと述べた。
判決書では以下のように述べられている。張〇震は台北市に「東京熱便利屋」を開店し、2010年に店員の周〇民を雇用してAVディスクを販売していたが、1万枚余りが(当局に)押収された。日本の桃太郎映像出版(株式会社桃太郎)等が海外から告訴を提起し、第一審の台北地方裁判所は前述の最高裁判所判決見解を採用してわが国の著作権法の保護を受けないと認定し、刑事についてはわいせつ物販売罪によりそれぞれ6ヶ月の実刑判決を言い渡した。
ただし、検察は若干の作品には独創性があり、著作権法の保護を受けるべきものであると認定し、その後知的財産裁判所に上訴した。検察側は黄銘傑教授にそのうち最も独創性を有する3作品に対して鑑定を依頼して対抗した。
合議法廷:「ポルノ」の定義は時代とともに変化
判決書によると、女優の青木りんと成瀬心美の主演作品は、童貞による「筆おろし」の旅が描かれたもので、女優の飯倉えりかの主演作品は女性中間管理職者の部下と上司に対する情欲行為が描かれているものだという。
黄教授は、撮影手法、ストーリーの構成のいずれも作者の個性又は独自性を表現するに足り、最低限度の創造性を含んでおり、ドキュメンタリー、インタビューの形式で進行され、エロチカ(性愛を描いた部分)とそれ以外の部分とによるストーリーの挿入と設計がなされており、独創性を表現するに足るものであり、単なる「本番」ビデオとは異なる、と認定した。
合議法廷は以下の見解を示している。「ポルノ」や「わいせつ」の定義は時代とともに変わるものであり、かつて官能小説(ポルノ小説)と位置付けられていた『チャタレイ夫人の恋人』は、現代では女性の情欲をテーマとした重要な文学の名作となっている。またアン・リー(李安)監督の映画作品『ラスト、コーション』も性交の場面によって著作物ではないと認定されたことはない。国家はポルノ著作物を適正に規制することができるが、独創性があるポルノ著作物はなお著作権を有する。(自由時報2014年2月21日‧A1面)
II 判決内容の要約
知的財産裁判所刑事判決
【裁判番号】101年度刑智上易字第74号
【裁判期日】2014年2月20日
【裁判事由】著作権法違反
上訴人 台湾台北地方裁判所検察署検察官
被 告 張〇震
被 告 周〇民
上記上訴人は被告の著作権法違反事件について、台湾台北地方裁判所100年度智易字第75号である2012年5月31日第一審判決(起訴案件番号:台湾台北地方裁判所検察署99年度偵字第21179号)を不服として上訴を提起し、本裁判所は次のとおり判決する。
主文
原判決を取り消す。
張〇震は共同で著作財産権を侵害する光ディスク複製物と明らかに知りながら頒布したため、6ヶ月の懲役に処す。罰金に転換することができ、1000新台湾ドルを1日と換算する。
周〇民は共同で著作財産権を侵害する光ディスク複製物と明らかに知りながら頒布し、累犯であるため、6ヶ月の懲役に処す。罰金に転換することができ、1000新台湾ドルを1日と換算する。
付表に示される押収品はすべて没収する。
事実要約
一. 張〇震は以前、風紀妨害事件で2010年10月6日原審裁判所による99年度簡字第3304号判決を以って30日の拘留が確定し、同年11月9日罰金に転換して刑の執行を完了ており、それは累犯を構成しない。周〇民は風紀妨害事件で2009年7月20日原審裁判所による98年度簡字第2403号判決を以って2ヶ月の懲役が確定しており、その後2009年8月28日に罰金に転換して刑の執行を完了している。
二. 思いがけず張〇震と周〇民はいずれも悔い改めず、わが国が2002年1月1日世界貿易機構(WTO)に正式に加入したことにより、世界貿易機関設立協定(WTO協定)の中の知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)第9條第1項、ベルヌ条約第3条の規定に基づき、わが国はWTO加盟国の国民の著作物に対して保護を与えることを明らかに知っていたはずである。日本はWTO加盟国であり、著作権法第4条第2号の規定に基づき、それが発行する著作物はわが国の著作権法の保護を受けるものである。付表に示される修正処理済みの映画は、桃太郎映像出版を始めとする付表の製造者名欄に示されている製造者が著作権を享有する映画の著作物であり、前述の著作権者の同意又は許諾を得ずに、所有権の移転の方法を以って著作財産権侵害に係る複製物を頒布する、若しくは著作財産権侵害に係る複製光ディスクを頒布を意図して公開に陳列し若しくは所持する等の方法で著作財産権が侵害されている。
三. 張〇震と周〇民はさらに付表に示される押収光ディスクには男女性器の露出又は未成年との性交等のわいせつな映像を含み、頒布又は人への供覧を行ってはいけないことを知りながら、頒布又は販売を意図して2010年7月から張〇震が台北市○○区○○路1段43巷12号1楼に位置する東京熱便利屋の代表者となり、月給2万5000新台湾ドルで周〇民を店員として雇った。さらに張〇震は、本名と身元が不詳である通称「阿偉」の男から続けて1枚当たり20新台湾ドルの価格で男女性器の露出又は男女の性交、性的暴力、性的虐待等の画面が含まれるわいせつな映像を含み、客觀的に性欲を刺激、満足することができる(修正処理済み)ポルノ光ディスクと、1枚当たり10新台湾ドルで上記内容に類似する無修正ポルノ光ディスクとを仕入れ、いずれも付表に示される通りである。仕入れ後は東京熱便利屋の店内に無修正のディスクを1枚当たり25新台湾ドルで、修正処理済みのディスクを40~50新台湾ドルで公然と陳列し、前記ポルノ光ディスクを不特定者に販売して利益を得た。警察は2010年8月8日16時30分ごろ、台湾台北地方裁判所が発した令状を携えて上記所在地に赴き捜索を実施し、海賊版、つまり付表に示される通り修正処理済み光ディスク5441枚、無修正光ディスク5859枚、合計1万1300枚を押収し、始めて上記状況が判明した。
四. 本件はジャパンホームビデオ株式会社(以下「JHV社」)、株式会社h.m.p.(以下「hmp」)、株式会社KUKI(以下「KUKI」)、株式会社アテナ映像(以下「ATHENA」)、株式会社ディープス(以下「DEEP'S社」)、有限会社プレステージ(以下「Prestige」)、株式会社桃太郎(以下「桃太郎」)、株式会社マルクス兄弟(以下「Marx」)、株式会社タカラ映像(以下「TAKARA」)、株式会社ブリット(以下「BULLITT」)、クリスタル映像株式会社(以下「CRYSTAL」)、株式会社ホットエンターテイメント(以下「HOT ENTERTAINMENT」)が共同で日本の知的財産振興協会(代表者:箱崎泰)、山崎敦、中川勤に委任して告訴し、台北市政府警察局中正第一分局が台湾台北地方裁判所検察署検察官に移送した。
判決理由の要約
壹.被告のわいせつ光ディスク販売罪を認定した理由:
一.付表に示される押収光ディスクはわいせつ物である:
付表に示される押収光ディスクは、その内容に性器官の特写、性器官の接合、複数の者による共同性交、性器への異物挿入等を強調する画面が含まれ、これらの押収されたわいせつ光ディスクは普通人を興奮させたり、性欲を刺激したりするに足るものであり、単に人体の美しさを展示するために女性の乳房や下半身を露出する画像とは異なり、また教育的、医学的な映像とも異なり、その撮影の手法は観る者に羞恥心や嫌悪感を抱かせ、善良な風俗及び性的道徳・性的感情を害するに足る者である。現在の社会観念から判断して、付表に示される押収わいせつ光ディスクは、その他の客観的に性欲を刺激、又はこれを満足させ、かつ普通人に公然陳列に堪えない、又は耐えられないと感じさせ、拒絶させるわいせつな情報又は物品である。
二.被告はわいせつ光ディスク販売罪の既遂犯である:
調べたところ、被告の張〇震、周〇民はいずれもそれぞれ10新台湾ドル、20新台湾ドルの代価で「阿偉」から上記無修正、修正処理済みの光ディスクを仕入れ、店内で無修正光ディスクを1枚25新台湾ドル、修正処理済み光ディスクを1枚40~50新台湾ドルの価格で不特定者に販売したことを自ら認めており、被告の自白は事実と合致し、事実証拠は明確で、確かに認定でき、法に基づいて処罰を論じるべきである。審理したところ、被告の行為はいずれも刑法第235条第1項のわいせつ光ディスク販売罪を犯している。
弐.被告の著作財産権侵害に係る複製光ディスク頒布罪を認定:
一.本件の争点
本裁判所は以下に示す本件の主な争点について審理するものである。(一)ポルノビデオが著作権法第3条第1項第1号でいうところの著作物で、わが国の著作権法の保護を受けるか否か。(二)ポルノ映画は「修正処理済み」と「無修正」の違いによって著作権法保護が異なるか。(三)日本のポルノ著作物はわが国の著作権の保護を受けるか否か。(四)本件の付表に示される押収修正処理済みポルノビデオは著作権法の保護を受けるか否か。(五)被告の張〇震と周〇民の行為は、著作権法第91条ノ1第2項及び第3項に違反するか否か。著作財産権の侵害を明らかに知っていたという主観的要件を満たすか否か。(六)原判決による被告の張〇震と周〇民がわいせつ光ディスクを共同で販売した罪に対する量刑は変更する必要が有るか否か。
二.次の通り論述する:
(一)ポルノ著作物は著作権法第3条第1項第1号の著作物である:
いわゆる著作物とは、文学、科学、芸術若しくはその他の学術の範囲に属する創作物をいい、著作権法第3条第1項第1号規定に明文化されている。よって著作物は知識文化の創作物であり、知識文化の創作物に応用価値が有るか否かはここでは論じない。著作物の品質と美感は創作性を考慮する際の要素ではなく、これは「美學不歧視原則(裁判所は著作物の美観だけで差別しない原則)」の含意である。本裁判所はポルノ著作物が著作権法の著作物で、著作権の保護を受けるか否かについて次の通り検討した:
1.本裁判所は、独創性を有するポルノ著作物は著作権法で保護されるべきであると認める:
(1)最高裁判所は、ポルノ著作物は著作権法の保護を受けないと認定:
最高裁判所88年度台上字第250号刑事判決では、著作権法第3条第1項第1号でいう著作物は、文学、科学、芸術若しくはその他の学術の範囲に属する創作物であり、ポルノ著作物を含まないと認定されている。著作権法の立法趣旨によって個人と法人の知恵である著作物(の権益)を保障し、著作物が大衆によって公正に利用させる以外に、文化の健全な発展(促進)を重視するため、社会秩序の維持を害する又は公共の利益に反する著作物は、国家社会の発展を促すことはなく、かつ著作権法の立法趣旨に反し、既得権の保障は公序良俗の制限を受けるとする原則に基づき、ポルノ著作物は著作権法でいうところの著作物ではなく、著作権法の保障を受けない。よって最高裁判所刑事判決は、ポルノ著作物の内容はわが国の社会風俗を害し、わが国が規定する「限制級」(訳注:日本の「R18+」に相当)の限度を越えており、公の秩序又は善良の風俗に反するため、著作権法の保障を受けないと認定している。
(2)人民の表現の自由という基本的権利は憲法の保護を受ける:
本裁判所は著作権法で定められていない消極的要件を以って、独創性を有するポルノ著作権者が著作権法の保護を受ける権利を禁止、剥奪してはならず、さもなければ憲法が人民に与える表現の自由という基本的権利に適合しないと認める。
(3)わが国はWTO加盟国でありTRIPS協定を遵守すべきである:
わが国はWTOの加盟国であり、また著作権法も国際性を有し、わが国は世界の趨勢に合わせて国際的規定と結合することを目指しているため、TRIPS協定の内容に合わせて著作権法の規定の改正と解釈を行うべきである。わが国はWTOの全加盟国との間で著作権互恵保護関係を有するため、TRIPS協定及びベルヌ条約の国民待遇原則を遵守すべきである。WTO加盟国のポルノ著作物は著作財産権の存続期間において、著作権者による許諾又は同意を得ずに無断で複製又は頒布してはならない。著作権法第4條第2号の規定により、外国著作物はわが国の著作権法の保護を受けるべきである。外国著作物を保護するのであるから、外国とわが国のポルノ著作物も平等な待遇を受けるべきである。
(4)創作性を有する著作物は著作権保護の対象であるべきである:
経済部知的財産局(以下「知的財産局」)は以前、ポルノ著作物が国外において保護を受けているか否かとその他制約が有るか否かについて在外機関に問い合わせたところ、関連する国家はポルノ著作物の頒布等の行為に法的規制が有るが、ポルノ著作物を保護する規定があることが分かった。よって、わが国、外国いずれのポルノ著作物であるかを問わず、著作権法でいうところの著作物であるか否かは、具体的なそれぞれの案件の内容によって決められるべきである。創作性を有するならば、著作権法保護の対象とすべきであり、司法実務上、海賊版ポルノ著作物の複製や販売について刑法第235条の風紀妨害罪を以って行為者に対する刑事責任を課すことにより、すぐにポルノ著作物には著作権法の保護が適用されないと認定しない。
2.釈字第407号で憲法は人民の言論及び出版の自由を保障すると示されている:
(1)釈字第407号の趣旨:
大法官会議釈字第407号解釈では、いわゆる「わいせつ出版物」は客観的に性欲を刺激又は満足するのに足るもので、普通人に羞恥心や嫌悪感を抱かせ、性的道徳・性的感情を害し、社会風紀を害する出版物である。わいせつ出版物と芸術的、医学的、教育的な出版物との区別は、出版物全体の特性とその目的について観察し、当時の社会の一般的観念で決めるべきである。風紀に関する観念は社会の発展、風俗の変化によって常に変わりつつあり、主務機関が示す解釈も憲法が人民の言論及び出版の自由を保障する趣旨を尊重し、善良な風俗と青少年の心身の健康の維持との両方を考慮して、随時見直しと改善を行うべきである。
(2)ポルノ著作物であること自体は、著作権保護を受けないという消極的要件ではない:
①本裁判所は、ポルノ著作物がわいせつ出版物に該当し、ポルノ著作物の頒布、販売、所持及び製造を行う行為者は刑事の追訴を受けるべきであるが、これは著作権保護を受けないという消極的要件とはならないと認める。実際には、比例原則に基づいて、国家は善良な風俗と青少年の心身の健康の維持との両方を考慮し、ポルノ著作物に対しては適正な管制措置又はその権利行使の制限を行うことができるが、独創性を有するポルノ著作物が有するべき著作権を否定してはならない。さもなければ著作権者に対する損害と達成すべき未成年の保護、公序良俗の維持という利益との間において、両者の権益は明らかに均衡を失ってしまう。
②わいせつ著作物は社会の善良な風俗に反するため、各国ではその流通を制限又は禁止し、出版法、刑法等の法律で処罰したり、頒布行為を禁止したりしてもよい。ただし多くの国では芸術とポルノは表裏一体であると考えられており、適度な露出または適正な処理をされたものに対してはいずれも芸術創作物であると認定され、わいせつ物とはみなされていない。
3.釈字第617号解釈で性的言論の表現及び性的情報の流通を保障すると示されている:
(1)釈字第617号の趣旨:
大法官会議釈字第617号解釈で、立法機関は男女が生活の中で性的道徳・性的感情と社会風紀を維持するために法令や規定を定め、憲法解釈者は立法者による社会大多数の共通価値に対する判断を原則的に尊重すべきであると認められている。憲法第11条の人民の言論と出版の自由を保障する本旨を貫徹するため、社会大多数に共通する性的価値の秩序を維持するのに必要な法律による制限以外に、少数の文化民族の性的道徳・性的感情と社会風紀に対する認知に基づいて形成された性的言論の表現又は性情報の流通に対しては保障すべきである。憲法第11条の人民の言論と出版の自由に対する保障は、意見の自由流通を確保する上で、人民が情報と自己実現の機会を十分に得られるようにすることを旨としている。性的言論の表現と性情報の流通は営利目的によるものであるか否かを問わず、上記憲法の言論と出版の自由に対する保障を受けるべきものである。
(2)わいせつ物はハードコアとソフトコアに分けられる:
①釈字第617号解釈では、わいせつ物をハードコアとソフトコアに分けている。前者は暴力、性的虐待又は獣姦等のプロットが含まれ、芸術的、医学的又は教育的な価値を持たないわいせつな情報又は物品である。後者はハードコアを除くもので、その他の客観的に性欲を刺激、又はこれを満足させ、かつ普通人に公然陳列に堪えない、又は耐えられないと感じさせ、拒絶させるわいせつな情報又は物品である。ハードコアの著作物の性質は文学、科学、芸術若しくはその他の学術の価値に属さず、国家の文化発展を促す機能がなく、即ち保護の必要性はない。よってポルノ著作物が著作権法の保護を受けるか否かの検討はソフトコアのカテゴリーに重点を置く。
②釈字第617号は、性的言論の表現と性情報の流通は営利目的によるものであるか否かを問わず、上記憲法の言論と出版の自由に対する保障を受けるべきものであることを示している。法律の明確性の原則に基づき、著作権法はポルノ著作物の保護を排除しておらず、法律適用の理解可能性と予測可能性において、裁判所は憲法又は法律が保障する権利を任意に制限してはならない。よって、ポルノ映像が著作物ではない、又は著作権法の保障を受けないと全面的に否認することは、著作権法における創作物保護原則の違反、法律の保留原則の違反以外に、釈字第617号で述べる人民の言語と出版の自由の保障に適合せず、人民の財産権に対して法律で規定されていない制限を加えるものとなる。
(二)独創性を有するソフトコアポルノ著作物は著作権の保護を受ける:
1.「ポルノ(原文:色情)」と「エロチカ(原文:情色)」は区別することが難しい:
いわゆる「エロチカ」は性的意味を有する描写であり、それと「ポルノ」との主な相違点は、エロチカは必ずしも感覚的に刺激することを目的としておらず、時には性で概念(例えば、哲学、芸術の概念)を表現したり、又は性関連の内容を描写して社会を反映したりしている。一方、ポルノは人類の性欲を刺激することを主な目的としている。両者には密接な関連があるため、それらの境界線は曖昧であり、区別することは難しい。
2.「ポルノ」と「わいせつ(猥褻)」の定義は時代とともに変化する:
ポルノとわいせつの定義は、時代や世相によって異なる。「わいせつ」という言葉は不確定な法律概念であり、その認定基準はそれぞれの時代や地域の道徳基準、風習、生活習慣等によって決まる。著作権法は知的創作への投入を保護するためのもので、道徳や風俗を審査するものはなく、著作権を取得するか否かは知的創作を有する著作物であるか否かによってのみ決まり、それが保護の判断基準となる。風俗を害するか否か又は頒布権があるか否かは、刑法又は関連する法律で規定されるものであり、著作権法が処理すべき法的事項ではない。
3.任意に著作権法で規定されていない制限を加えてはならない:
ポルノ素材であることは著作権の保護を受けない消極的要件ではない。著作権の保護が過度に道徳化されるのは好ましくなく、すぐに公序良俗という公益を理由としてポルノ著作権者の権利行使を不当に制限してはならない。さもなければ、すべての公序良俗が係わる事項については、主観的認定が著作権の私益より重視され、公序良俗を濫用する状況が発生してしまい、法の安全性と取引の安定に深刻な影響を及ぼすおそれがある。さらには任意に法律に規定されていない制限を加え、独創性を有するポルノ著作物は著作権を取得できず、他人のポルノ著作物の複製についても著作権侵害を構成しないと直接認定することは、明らかに法律適用違背の事由があり、民事訴訟法第467 条、刑事訴法第377条規定に基づき、第三審裁判所への上訴事由を構成する。
4.平等原則と明確性の原則:
釈字第407号、第617号の趣旨はいずれも、ポルノ著作物が著作権法でいうところの著作物であることを否定し、著作権の保護を受けないとするものではない。事実上、憲法第7条の平等原則は国家機関に対して物事が本質的に同じである事件には同じ処理を行うよう要求するものである。平等原則は恣意性排除の原則を導き出し、国家機関が決定を行う際に、憲法の基本精神と事物の本質に違反することを排除する。つまり、著作権法で規定されていない著作権取得の消極的要件を以って、任意に又は独断で個人の主観的な公序良俗により、ポルノ著作物が享有すべき著作権を保護しないとしてはならない。況してや法律の明確性の原則に基づき、著作権法はポルノ著作物の保護を排除しておらず、法律適用の理解可能性と予測可能性において、裁判所は規定されていない制限を加え、ポルノ著作物が(著作法でいうというころの)著作物ではないと全面的に否認し、すぐにポルノ著作物は著作権保護の対象ではないと認定してはならない。
(三)日本のポルノ著作物はわが国の著作権保護を受ける:
1.米国法制はポルノ著作物の著作権を保護:
(1)公序良俗と著作権保護の均衡を図る:
米国連邦第5巡回区控訴裁判所によるMitchell Bros. Film Group v. Adult Theater 事件(1979年)と、米国連邦第9巡回区控訴裁判所によるJartech, Inc. v. Clancy 事件(1982年)では、ポルノ著作物が著作権法の保護を受けると明確に認定され、米国裁判所のポルノ著作物の著作権保護を否認する従来の見解を覆した。米国憲法の前文では、著作権の保護を受けるいかなる著作物も実質的に科学又は有用な技芸の進歩に資するべきである、と要求されていないため、創造力を強化する最良の方法は、政府が任意に著作権の客体を制限してはならないとすることである。つまり、政府が意のままに干渉することを禁止することにより、政府の行為が潜在的な著作者に対して萎縮させる効果をもたらすことを回避できるだけではなく、主務機関又は裁判官による著作物の有効と無効の判断における誤りを防止できる。米国憲法は著作物がすぐに身体の必要を満足できる有用性を有することを要求していないため、著作物にわいせつな内容(obscenity)があるからといって、憲法はその著作権の保護を阻止するものではない。況してや第三者が許諾を受けずに某著作物を複製又は利用するという事実によって、該著作物が有用性を有するものであると判断でき、つまり著作権の保護範囲はわいせつな著作物にも及ぶ。ゆえに第三者が同意を得ずに無断で他人のわいせつ著作物(obscene articles)を複製した時、それがわいせつな内容であることを理由として著作権が侵害されていないと抗弁してはならない。たとえわいせつ著作物が積極的に頒布、利用を行う権限が無かったとしても、一部の著作権さえあれば、著作権法において消極的に他人の侵害を排除する権限を有するため、わいせつ著作物は著作権保護力が比較的弱い著作物であるとはいえるものの、それが著作物であることを否認することはできない。況してや公序良俗や道徳基準の違反の有無は創作物認定の要件ではない。公序良俗は不確定な法律概念であり、それは社会文化の発展とともに変化し、審理する者個人の主観的認知や道徳基準のみに基づいてはならず、国家はポルノ著作の頒布制限又は処罰によってのみ、公序良俗と著作権保護とが衝突する苦境において均衡を図ることができ、ポルノ著作物が受けるべき著作権法の保護を全面的に否定して、ポルノ著作物の創作性有無を審査しないということがあってはならない。
(2)公序良俗違反は著作権取得の消極的要件ではない:
公序良俗は常に当時の文化と道徳による拘束を受けており、公序良俗違反は著作権取得の消極的要件ではない。よってポルノ著作物についてこれを理由に著作権法の保護を与えないことがあってはならない。実際には、絵画や美術の価値鑑定について、法学の教育訓練しか受けていない者に最終判断を委ねることは危険であり、天才の著作物は極端な状況にあることにより評価できない可能性があり、社会が作者の表現する言語 (new language)を理解するようになった時に始めて裁判官は非凡なイノベーションを受け入れることができる。原告の権利を顧みずにポスターを複製しようと意図されたならば、それはポスターが価値のあるものだということを示すものとなり、該ポスターは著作権の保護を受ける価値がある。よって、創作物は美感を有する必要はなく、大衆芸術(low art)やポルノの要素があるものであっても、その実用性や商業性が高くないことを理由に、すぐにそれが創作物であることを否認してはならない。
2.中国大陸地区法制はポルノ著作物の著作権を保護:
中国大陸地区の改正著作権法第4条の立法趣旨を参照すると、ポルノ著作物が中国大陸地区の憲法及び法律に違反せず、公益を害していないならば、法によってポルノ著作物の出版又は頒布が禁止されているものの、なお著作権の保護を享有することができる。
3.ドイツ法制はポルノ著作物の著作権を保護:
ドイツ著作権法は第5 条で公文書が著作権法の保護を受けないと規定している以外、保護を受ける著作物の内容に対していかなる制限もなく、著作権法の保護要件を満たし、文学、科学又は芸術という人の精神的な創作物であれば、すべて保護を受けることができる。ドイツでは若干のポルノビデオに係わる係争事件で、ポルノ著作物であることを理由に保護しないとの判決が出されている。最も代表的な事例は、1984年のVideo Intim事件である。ハンブルグ高等裁判所は、ポルノ映画は原始的な性愛の過程を表現しているだけで、通常は人の精神的創作性を有さないと認めた。しかしながら原告の成果の保護権はポルノ著作物であることの影響を受けるものではなく、著作権法では違法の著作物又は善良な風俗に反する著作物は著作権保護の客体ではないとは規定されていない。たとえ違法又は善良な風俗に反する著作物が完全な著作権や成果の保護権を享有できない可能性があり、利用の権利がなくても、第三者がその同意を得ずに複製又は頒布することを禁止する防衛権はある。つまり、ポルノ著作物はその内容が善良な風俗に反することで頒布を禁止されても、権利者は防衛権を行使して、第三者が同意又は許諾を得ずにポルノ著作物を利用することを排除することができる。
4.日本法制はポルノ著作物の著作権を保護:
(1)日本著作権法第2条第1項第1号及び第13号:
文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する著作物は、保護を受けない対象を除きすべて著作権法の保護を受けることができる。ポルノ著作物は保護を排除される対象ではないため、日本の著作権法はポルノ著作物に受けるべき保護を与えている。ポルノ著作権が直接的な商業的又は経済的な利益を取得できるだけではなく、より多くのポルノ著作の創作を推進、奨励し、日本はポルノ著作物の創作王国となっている。
(2)日本はWTO加盟国:
わが国はWTOに加盟しているため、著作権法第4条第2号の規定に基づき、わが国はWTOのすべての加盟国と互恵保護原則を適用すべきであり、WTO加盟国全ての国民の著作物はいずれも保護を受ける。TRIPS協定が合理的で有効な知的財産権保護制度の必要性を開示していることに鑑みて、加盟国に知的財産権を確保する措置を要求することは、合法的な貿易障壁とはならない。つまり、同じくWTO加盟国である日本国民のポルノ著作物はわが国著作権法の保護を受けるべきである。
(四)起訴状付表番号126、600、696の光ディスクは著作権保護を受けるものである:
当事者、告訴人は、本件起訴状における付表番号126、600、696の光ディスクを、本件に著作権侵害があるか否かの検証対象とすることに同意した。これらの光ディスクには獣姦や性器露出の画面がないもので、性交の部分にはモザイク処理が施されており、その性質はソフトコアポルノ著作物である。つまり本裁判所は本件起訴状付表番号126、600、696の光ディスクについてのみ、いかなるタイプの著作物か、独創性は有るか否か、客観的な表現方法が有るか否か、及び保護を受けない著作物であるか否か等の事項をここで以下の通り検討する。
1.起訴状付表番号126、600、696の光ディスクは「映画の著作物」である:
起訴状付表番号126、600、696の光ディスクの客観的表現方法を調べたところ、これらは著作権法第5条第1項第7号でいう映画の著作物である。
2.起訴状付表番号126、600、696の光ディスクには独創性がある:
(1)検察官起訴状付表番号126の光ディスクには独創性がある:
①本作品はドキュメンタリーに類似した撮影手法を用いて、女優が5人の童貞と性行為に発展する過程を4シーンに渡って描いている。映画の冒頭では、まず女優をインタビューして、童貞の筆おろしに対する考えを訊ね、女優が童貞の筆おろしの旅に協力して美しい思い出づくりに協力したいと述べ、映画の最後には女優に今回の筆おろし計画実行の感想を訊ね、エンディングとしている。それぞれのシーンのプロットで、作者は5人の童貞の筆おろしの旅に対する緊張と羞恥心を表現しようと試みている。さらに女優がインタビューの形式で男性の気持ちをリラックスさせ、いかに女性の性欲を呼び起こさせるのか、いかに女性と性行為に入るのかを徐々に指導していく。第2シーンのプロットでは、童貞が指導と誘惑を受けても、うまく勃起して性行為を行うことができないというもので、本作品で最も写実的な部分となっている。第4シーンのプロットでは、2人の童貞が女優と同じ部屋で同時に性行為を行うというもので、第1、第3のプロットとは大きく異なっている。これは同じテーマではあるが、具体的な進行過程において、異なるプロットが発展しており、これにより本作品は独自性を有するものとなり、作者の個性及び独自性が十分に表現され、最低限度の創造性を有するという創作性の要件を満たしていると認定できる。
②本作品の撮影手法、プロット作り、女優と各童貞とのやりとり、童貞が期待しながらうまくいかない等の表現から、童貞との情欲行為に関連する部分において、童貞の性愛行為に対する期待と情欲に対する考えを伝えようとしていることが分かり、わが国の著作権法第3条第1項第1号でいう著作物である。よって、本作品の表現内容、エロチカとそれ以外の部分の撮影手法、プロット作りのいずれも作者の個性と独自性を表現しており、最低限度の創造性を有するという創作性の要件を満たしている。
(2)検察官起訴状付表番号600の光ディスクには独創性がある:
①本作品はドキュメンタリーの撮影手法を用いて、製作会社が童貞とプロのAV女優を募集し、筆おろしの旅を行ったことが述べられ、作品全体は合計3人の男性による初体験で構成されている。各シーンは童貞との対話から始まり、このイベントへの参加を応募した理由、過去における女性経験、現在の心境、今回の体験後の将来の性行為に対する期待などをインタビューで訊ねた。第1、2シーンは女優ができるだけ男性の恋人のふりをして、抱擁や接吻等一般の恋人同士の親密なしぐさから始め、初体験の男性の緊張やぎこちない気持ちを徐々に解きほぐそうとする。男性が過度に緊張しすぎて硬さが足りず、うまく女性の性器に挿入できない時、女優は様々な方法で励ましたり、鼓舞したりして、男性が初体験を完了できるようにしている。第3シーンではかつて参加に応募し、初体験に失敗した童貞が再挑戦する。この男性は先ず前回得たことと今回の体験への期待を朗読するところから始まり、過程においては過度の緊張と期待のため次々とおしゃべりやふざけた挙動を繰り返した。女優も男性の性格によって前の2人の男性に対してとは異なる役柄や方法で、本シーンのプロットを発展させて示そうとしており、前の2シーンとは表現方法と内容が大きく異なっている。各シーンにおいて映画は童貞の初体験に対する期待と体験を通じて、視聴者、特に童貞の渇望と共鳴を呼び起こそうとしていることが見て取れる。
②本作品の撮影手法、プロット作り、出演する男性役の選抜、女優が男性の個性によって異なるやりとりを発展させていること、童貞の期待、羞恥、ぎこちなさ等の表現から、童貞との情欲行為に関連する部分において、作者は童貞の性愛行為に対する期待と情欲に対する考えを伝えようとしていることが分かり、作者の個性又は独自性を十分に表現し最低限度の創造性を有していると認定でき、わが国の著作憲法第3条第1項第1号でいう著作物である。これによって、本作品の表現内容、エロチカとそれ以外の部分の撮影手法、プロット作りのいずれも作者の個性と独自性を表現しており、最低限度の創造性を有するという創作性の要件を満たしている。
(3)検察官起訴状付表番号699の光ディスクには独創性がある:
①本作品は広告会社の水着広告企画を巡って展開され、女性中間管理職者とその部下及び上司との情欲行為を描いている。ストーリーは、水着モデルが水着企画案発表の途中で突然辞めてしまい、急には代わりのモデルが見つからず、広告会社の女性中間管理職者が自分で水着を着て企画の発表を終えるというものである。その部下と上司が女性管理職者の水着姿と体型を見た後、それぞれ妄想する。上司はその権力と昇進という誘因を使って女性管理職者に対して半強制的に性行為を迫ることを妄想する。さらに女性管理職者も水着を身に着けた後、自分の姿に見とれ、大人のおもちゃで自慰を行う。これによって広告会社の場面設定、水着広告企画のプロット展開、女性管理職者が急遽水着モデルの代役となった後の自らの身体に対する自信、部下や上司の女性管理職者に対する性的妄想等から、本作品は会社員が仕事を通じて情欲の念を持つことを表現しようとしていることがわかり、本作品が表現するものは独自性があると認定できる。
②本作品のシーン設定、プロット作り、ストーリーの流れ、上司による権力を利用したセクハラ、男性部下による女性管理職者に対する妄想行為及び女性管理職者の水着を着たことによる欲情等項目から、作者は女性管理職者と部下や上司との情欲が発展する過程の特色や独自性を作者が伝えようとしていることが分かり、作者の個性又は独自性を十分に表現し最低限度の創造性を有していると認定でき、わが国の著作権法第3条第1項第1号でいう著作物であるといえる。これによって、本作品の表現内容、エロチカとそれ以外の部分の撮影手法、プロット設計のいずれも作者の個性と独自性を表現しており、最低限度の創造性を有するという創作性の要件を満たしている。
3.検察官起訴状付表番号126、600、696の光ディスクには客観的な表現方法がある:
これら映画の性行為の画面にはいずれもモザイク処理が施されていることを参酌した上で、著作物は人の思想と感情を一定の形式で外部に表現しなければならず、これが著作権を保護する著作物の客観的表現形式である。本件で押収された映画光ディスクはいずれもプロが企画したものである。先ずは脚本家が異なる内容のストーリーと文案を編纂、設計し、脚本とセリフを書き、続いて監督が役者に対して演技指導を行い、プロのカメラマンが撮影し、さらにフィルムの編集とポストプロダクション及び広告マーケティングのプランを立て、多くのコストを費やして製作しており、これは独自性を有する人の精神の創作物であると認められ、製作チームの個性と独自性が十分に表現されている。これらの映画の性交の画面にはいずれもモザイク処理が施されており、獣姦や性器露出の画面がないことを参酌して、それは独創性を有する映画の著作物であり、わが国著作権法の保護を受けるものである。さらに国内で公開上映された映画「3D肉蒲団之極楽宝鑑」はポルノ映画であり、その内容と画面はこれら光ディスクの本質に合致し、これについてはウィキペディアの関連資料がファイルされており調べることができる。該映画に出演した女優の原紗央莉は日本のAV女優で、主演した映画も本件の押収された光ディスクに含まれている。よって、検察官起訴状付表番号126、600、696の光ディスクの著作者は構想又は概念を利用し、抽象的な思想及び情感そのものを、具体的に映画や撮影等の媒体を用い、客観的な方法でポルノ著作の内容を表現している。
4.検察官起訴状付表番号126、600、696の光ディスクに消極的要件は無い:
(1)公の秩序又は善良の風俗の違反は著作権を享有できない消極的要件ではない:
ポルノ著作物は法令又は公文書ではなく、法令又は公文書の翻訳物又は編集物でもない。ポルノ著作物は標語や記号ではなく、その創作の目的は単純な事実の伝達ではなく、かつその性質又は内容は、法令により行われる各種の試験問題及びその予備用の試験問題ではないことは明らかである。よって、ポルノ著作物は著作権法が消極的に保護しない対象ではない。わが国の専利法(特許法、実用新案法、意匠法に相当)第24条第3号、第105条、第124条第4号及び商標法第30条第1項第7号等規定を参酌すると、いずれも公の秩序又は善良の風俗に違反するときは、専利法又は商標法の保護を受けることができない。一方、著作権法は関連の規定がなく、立法者が故意に規定していない。公の秩序又は善良の風俗の違反は著作権を享有してはならない消極的要件ではないことが認められ、ポルノ著作物は著作権法の保護を受けるものである。さらにTRIRS協定第27条第2項にも、加盟国は、人類、動物、植物の生命又は健康の保護若しくは環境を深刻な破壊を回避することを含めて、公の秩序又は善良の風俗を守るという必要に基づき、商業的な実施を自国の領域内において禁止する必要がある発明を専利(特許、実用新案、意匠)の対象から除外することができる。したがって、公序良俗に反するものを除外する条項は,専利(特許、実用新案登録、意匠登録)請求の範囲に適用されるが、著作権を保護しない対象ではない。
(2)著作権法と刑法の規定趣旨は異なる:
ポルノ著作物が著作権保護の対象となるか否かは、著作権法第3条の創作物の要件と第1条の公益及び文化発展との関係を検討すべきである。いわゆる「わいせつ著作物」とは、不道徳で、色情的な文学、芸術又は映画の作品を指す。これらの作品は社会の善良な風俗に反し、青少年の心身を害するため、各国ではその自由な流通を制限又は禁止し、出版法、刑法等の法律で頒布者を処罰している。言い換えれば、ポルノ著作物がわいせつ物か否か、その製造、陳列、頒布、伝送及び所持等の行為が刑法又はその他の法令の制限、規定を受けるか否かは、各該法令に基づいて決定されるもので、著作権には影響を及ぼさない。著作権は著作物に独創性があるか否かのみを規定し、創作物の品質がいかなるものかは問わない。もし著作物の要件を満たすならば、著作権法の保護を受けるべきであり、他人による違法な侵害を排除できる。人民には創作の自由があり、たとえそれが一般的な社会道徳や法律の基準に受け入れられない作品であったとしても、該創作物が著作物であることを否認することはできない。さらに刑法のわいせつ物頒布罪が成立するには、頒布した物品がわいせつ物であるだけでよく、社会的法益を守ることをその規定の趣旨としているのに対して、著作権法第91条ノ1では被害者に合法著作権が存在することを前提としており、その立法趣旨は人民の財産権を保護することにあり、両者の犯行構成要件が同じではなく、立法趣旨が異なっていることが分かる。
(五)被告に著作権法第91条ノ1第2項、第3項の罪が成立する:
1.告訴人は起訴状付表番号126、600、696光ディスクの著作者である。
2.著作権法第91条ノ1第2項、第3項の客観的要件を満たしている:
起訴状付表番号126、600、696光ディスクは独創性を有する映画の著作物である。被告は告訴人の同意又は許諾を得ずに無断で複製する、又は所有権を移転して著作物の正規品又は複製物を頒布する、又は著作財産権侵害に係る複製物を頒布を意図して公開陳列又は所持する等の方法で著作財産権を侵害したため、被告の犯行は著作権法第91条ノ1第2項、第3項の客観的要件を満たしている。
3.被告は著作財産権侵害を明らかに知っていたという主観的要件も満たしている:
(1)被告はポルノ光ディスクの違法販売・頒布を業としている:
被告はわいせつ光ディスクの違法販売・頒布を業としており、本件以前にわいせつ物販売で摘発された犯罪記録が多数ある。
(2)被告は付表に示される修正処理済み映画に著作財産権があることを明らかに知っていたはずである:
被告は長期にわたってわいせつ光ディスクの販売・頒布を生業としており、被告の経歴とポルノ映画取引の商習慣を考慮した。前述の国内で公開上映された映画「3D肉蒲団之極楽宝鑑」はポルノ映画であり、その内容と画面は本件で押収された修正処理済み光ディスクと同様に、性愛を描いた映画であり、前者はわが国の著作権保護を受けており、任意にその著作財産権を侵害することはできない。況してや付表番号126、600、696光ディスクの表現内容は、エロチカとそれ以外の部分の撮影手法、プロット設計のいずれも作者の個性と独自性を表現しており、最低限度の創造性を有するという創作性の要件を満たすものであり、それは一般的な映画の著作物が独創性の要件を満たすのと全く異なるところがなく、被告は海賊版光ディスク(販売)を生業としていたことから考えて、付表に示される修正処理済み映画が著作財産権を有することを知悉していたはずである。
(3)被告は日本がポルノ著作物の著作物を保護していることを知悉していたはずである:
日本がポルノ著作物の著作権を保護しているため、ポルノ映画の製作とマーケティングが促進され、日本国内の重要産業となっている。告訴人はいずれもポルノ映画を経営する企業であり、異なる内容のストーリーと文案に関する脚本づくり、編纂、設計を行い、その後脚本とセリフを書き、続いて監督が役者に対して演技指導を行い、プロのカメラマンが撮影するなどにコストを費やしており、創作物が完成した後は日本での著作権保護を受けるポルノ著作物となり、マーケティングを行い市場で利益を得ている。被告はポルノ光ディスクの販売で利益を得ているため、上記事情を知らないということはありえない。よって被告が付表に示される修正処理済み映画が著作財産権の保護を受けていることを明らかに知っていた。
参.論罪の説明:
一. 著作財産権侵害に係る複製光ディスクであることを明らかに知っていながら頒布した罪とわいせつ物を販売した罪:
被告の行為は、著作権法第91条ノ1第3項前段、第2項の著作財産権侵害に係る複製光ディスクであることを明らかに知っていながら頒布した罪と刑法第235条第1項のわいせつ物を販売した罪を犯した。著作財産権侵害に係る複製光ディスクであることを明らかに知っていながら所持、又は頒布を意図して公開陳列を行うという「低度の行為(訳注:罪がより軽い犯罪行為)」はいずれも頒布という「高度の行為(訳注:罪がより重い犯罪行為)」に吸収されるため、別途論罪しない。著作権法第91条ノ1第3項は同条第2項の量刑加重規定であり、その罪刑はいずれも独立している。これは刑法にかんがみて立法された例であり、第2項を併せて引用してはならない。被告は販売を意図してわいせつ光ディスクを所持し、販売行為を行っており、所持という低度行為は販売という高度行為に吸収されるため、これも別途論罪しない。
二. 著作権法第91条ノ1第3項前段と刑法第235条の接続犯:
被告は単一の意思決定に基づいて、同一の地点で継続的にわいせつ光ディスクの販売等を多数回行った行為はいずれも同類の法益を侵害するもので、時間的に接近しており、地点が同じであるため、分けることは難しく、複数挙動の接続実行であると見なすべきで、評価をより妥当なものとするため、包括一罪の接続犯として論ずるべきである。
三. 被告に共同正犯が成立:
被告は上記犯行について犯意を連絡し、行為を分担したため、共同正犯が成立する。
四. 被告の犯行は観念的競合:
被告は2010年99年7月から同年9月8日の警察による摘発までの期間、(他人が)著作財産権を有する海賊版光ディスクを頒布した行為とわいせつ光ディスクを販売した行為は、時間が完全に重なっており、行為の場所も同じであり、社会観念上、二つの異なる行為として分割し難いため、一行為が複数の罪を犯した観念的競合に属し、罪がより重たい著作権法第91条ノ1第3項前段に定められる著作財産権侵害に係る複製光ディスクであることを明らかに知っていながら頒布した罪を以って論じる。
肆.量刑の説明:
一.本件は刑法第16条但書に基づきその刑を軽減できる:
(一)被告の犯行は刑法第16条本文の規定に適合しない:
被告はわいせつ光ディスクを違法に販売・頒布することを業とし、本件で摘発される以前すでにわいせつ物販売で摘発された犯罪事実が多数あり、被告による本件犯行は刑罰法令を知らなかったとはいい難く、さらにその行為は悪質で、正当な理由があって回避できなかったとは認定できず、刑法第16條本文で規定される刑事責任が免除され、犯罪の成立が阻却されるものには該当しない。
(二)被告の非難可能性は通常の違法性認識より低い:
被告の違法性の過誤は不可避の程度にいたっていないが、上記の最高裁判所がポルノ光ディスクは公の秩序と善良の風俗に反するため、著作権法で保護する著作物とは認め難いと認定した等の状況があり、かつ被告は多数回にわたってポルノ光ディスクを販売しているがいずれも著作財産権の侵害という犯行があったとは論断されたことがなかった。よって、被告の行為の悪質さと一般的社会通念に基づき、非難可能性は通常の違法性認識より低く、刑法第16条但書の刑を軽減できる要件を満たしている。本裁判所が減刑するか否かは、これらの行為の悪質さと一般的社会通念によって正当であるか否かで判断し、必ずしも減じる必要はない。
二.本院が参酌する量刑の要素:
(一)被告の張○震の部分:
被告の張○震は代表者であり、被雇用者つまり被告の周○民に比べて罪状は重く、本件の主導的地位にあり、主要な犯罪収益取得者であるため、本裁判所は刑法第16条但書による減刑を認めない。さらに、被告の張〇震が販売したわいせつ内容を含み(他人が)知的財産権を有する光ディスクは社会の善良な風俗に反し、知的財産権を侵害しており、以前にわいせつ物販売罪と同質の犯罪前歴があり、それが悔い改めているとは認めがたい。但し、犯行後に一部犯行を認めており、態度は悪くはなく、その知識の程度、犯罪の動機、目的、手段等のすべての情状を酌量し、本判決主文第2項に示す刑に処し、罰金に変換する換算基準を宣言した。
(二)被告の周〇民の部分:
1.被告の周〇民に係る量刑の要素:
被告の周〇民が販売したわいせつ内容を含み(他人が)知的財産権を有する光ディスクは社会の善良な風俗に反し、知的財産権を侵害しており、以前にわいせつ物販売罪と同質の犯罪前歴があり、それが悔い改めているとは認めがたい。
2.被告の周〇民に係る刑の加重及び減軽の事情:
被告の周〇民には犯罪事実欄に記載されているような犯歴があり、それが有期懲役の執行終了後5年以内に故意に本件の有期懲役以上の罪を再び犯したため、累犯となり、刑法第47条第1項の規定に基づきその刑を加重すべきである。被告の周〇民が犯した上記の罪は、刑法第16条但書の規定に適合し、かつ被告の張〇震に雇用され、犯罪状況がより軽く、行為の悪質さと一般的社会通念を参酌して、本裁判所はその刑を減軽することができ、法によって先に加重した後減軽した。さらに、犯行後に一部犯行を認めており、態度は悪くはなく、その知識の程度、犯罪の動機、目的、手段等のすべての情状を酌量し、本判決主文第3項に示す刑に処し、罰金に変換する換算基準を宣言した。
三.没収を宣告する:
没収規定に関して、その他の法律又は刑法分則で特に規定されている場合は、刑法総則第38条の没収規定に優先して適用する。「義務没収主義」(訳注:必要的没収に相当)は「採職権没収主義」(訳注:裁判所の裁量による任意的没収に相当)に優先して適用される。つまり、著作権法第98条規定は刑法第38条第1項第2号に優先して適用されるが、著作権法第98条は採職権没収主義であり、没収するか否かについて裁判所に裁量権がある。釈字第617号解釈によると、わいせつ物はハードコアとソフトコアに区分され、本件の付表に示される押収わいせつ光ディスクは、修正処理の有無、著作財産権の有無を問わず、刑法第235条第3項には、わいせつ物は犯人に属するか否かに拘らずすべて没収を宣言すべきであると規定されているため、義務沒收没収主義は採職権没収主義に優先され、刑法第235条第3項の規定を適用する。
四.別途無罪を宣告しない:
以上をまとめると、公訴人が提出した証拠は、起訴状付表番号126、600、696光ディスクを除き、裁判所に被告が他人の著作権を侵害した光ディスクを販売したと確信させることは難しい。況してやファイルされている現有の事実証拠を全体的に見て再び調べたところ、被告が確かに公証人の指摘するこの部分の犯行を証明できるその他の積極的な証拠はなく、元来無罪を宣言すべきだが、この部分は前記の論罪と科刑を行ったわいせつ光ディスクの販売と著作財産権侵害と明らかに知りながら光ディスク複製物を頒布した犯行とは裁判上一罪と接続犯等の関係があり、別途無罪の宣言は行わないことを併せてここに説明する。
以上の次第で、刑事訴訟法第369条第1項前段、第364条、第299条第1項前段,著作権法第91条ノ1第2項、第3項前段、第98条,刑法第235条第1項、第3項、第11条前段、第16条、第28条、第38条第1項第2号、第41条第1項前段、第47条第1項、第55条、第71条第1項,刑法施行法第1条之1第1項、第2項後段により主文のとおり判決する。
本件は検察官覃正祥が職務を執行した。
2014年2月20日
知的財産裁判所第二法廷
裁判長 陳忠行
裁判官 熊誦梅
裁判官 林洲富