プロットが変更、調整されて大きな違いがあれば、たとえ同じ概念と基本要素が残っていても、脚本における物語の設定、プロット構成及び登場人物設定等の全体的かつ具体的な表現が観る者に感じさせるものの違いにより、変更前後の脚本に同一性はないと認め得る。

2022-10-19 2021年
■ 判決分類:著作権

I プロットが変更、調整されて大きな違いがあれば、たとえ同じ概念と基本要素が残っていても、脚本における物語の設定、プロット構成及び登場人物設定等の全体的かつ具体的な表現が観る者に感じさせるものの違いにより、変更前後の脚本に同一性はないと認め得る。

■ ハイライト
原告は映画「目撃者」の制作準備を行い、被告程偉豪に監督を担当させることを約束し、脚本の変更と映画撮影等の監督の作業に関する討論を行ってきた。その後2012年4月に「目撃者」の脚本(以下「係争脚本」)V6.2版を被告程偉豪に渡し、係争脚本は幾度かの討論を経てV8版に変更された。その後原告は程偉豪と2015年3月13日に利用許諾同意書(以下「係争許諾同意書」)を交わした。ただし、被告程偉豪が「ストーリーの構想」を完全に異なる脚本の作品に書き換えた後、2015年補助金を申請するためだけに使用することに許諾したもので、被告程偉豪が係争脚本を利用すること又は改変して映画とすることは許諾していない。ところが被告程偉豪は係争脚本を被告嘉揚公司に漏洩し、協力して係争映画を撮影した。原告は被告程偉豪、嘉揚公司及びその責任者唐在揚等には故意の権利侵害があったとして、知的財産裁判所に本件訴訟を提起した。知的財産裁判所は審理の結果、原告の訴えを棄却する判決を下した。

 上述の問題について、知的財産裁判所は次のように指摘している:
一、 被告程偉豪が変更した脚本V7.1版と原告が提供したV6.2版を比較すると、確かに大幅な変更がある;また係争脚本はV7.1版以降にさらに多くのプロットが変更、調整されており、V6.2版から大幅な変更を経て、キャラクター、主な出来事及びプロットの配置において大きな違いがある。たとえ原告がいうところの「記者(主役)、編集長、編集長の配偶者(又は浮気相手)、自動車エンジニア、警察官(真犯人)の相関関係、及び記者が交通事故を目撃し、警察で事故について調べたことで、皆それぞれ犯人である可能性があることに気が付く」という概念と基本要素があっても、脚本における物語の設定、プロット構成及び登場人物設定等の全体的かつ具体的な表現が観る者に感じさせるものの違いにより、V6.2とV8が同一性を有するとは言い難い。係争脚本の創作過程及び脈絡を総合的にみると、V6.2版はV8版にとって、オリジナルの構想又はオリジナルストーリーという属性を確かに有する。

二、 係争許諾同意書の示すところによると、被告程偉豪は原告から係争脚本6.2版を改変し、映画を制作することを許諾するという同意を得ており、映画のオリジナルストーリーの著作権は原告の責任者である陳融萱に帰属し、その他一切の映画に関連する及び映画から派生する著作財産権及びすべてのその他の類型の完成品等の版権について、現存する及び将来に派生する映画の著作権及び発行事業等の権益はいずれも程偉豪の所有に帰属する。

三、 原告は係争映画を撮影した著作権者ではなく、しかも被告程偉豪はすでに原告から係争脚本を改変し映画を撮影し制作する同意を得ている。被告が係争脚本を以って係争映画を撮影したことは、原告の係争脚本に関する著作財産権及び著作人格権を侵害するものであると原告が主張し、被告に連帯で損害賠償金を支払い、新聞への謝罪声明を掲載するように請求することには理由がない。

II 判決内容の要約

知的財産裁判所院民事判決
【裁判番号】108年度民著訴字第81号
【裁判期日】2021年6月22日
【裁判事由】著作権侵害に係る財産権の紛争等

原告 華娯國際股份有限公司(Asia Entertainment International Co., Ltd.)
被告 嘉揚電影有限公司(Rise Pictures Ltd.)
兼法定代理人 唐在揚
被告 程偉豪

上記当事者間の著作権侵害に係る財産権の紛争等事件について、本裁判所は2021年5月11日に口頭弁論を終結し、次の通りに判決する:

主文
原告の訴えを棄却し、仮執行宣言申立てを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。

一 事実要約
原告は映画「目撃者」の制作準備を行い、被告程偉豪に監督を担当させることを約束し、脚本の変更と映画撮影等の監督の作業に関する討論を行ってきた。原告は2012年4月に脚本V6.2版を被告程偉豪に渡し、係争脚本は幾度かの変更を経てV8版となった。
被告程偉豪は2015年3月13日に原告の責任者である陳融萱と係争許諾同意書を交わした。その内容は「私は…ここに本件脚本家、監督である程偉豪が撮影の脚本を作成するとともに映画を制作することを許諾することに同意する。しかし本映画の完成した脚本は…独立して発展させた文学脚本であり、私はオリジナルのストーリー構成についてのみ許諾したもので、本映画のオリジナルストーリーの著作権は私に帰属し、その他一切の本映画に関する及び本映画から派生する著作財産権及びすべてのその他の類型の完成品等の版権について、現存する及び将来に派生する映画の著作権及び発行事業等の権益はいずれも程偉豪の所有に帰属するもので、私とは関係ない。ただし2015年度文化部補助金の獲得が確定した場合は、別途15万新台湾ドルのオリジナルストーリー創作費を支払わなければならない」となっている。
原告は、係争許諾同意書では被告程偉豪が係争脚本を利用すること又は改変して映画とすることを許諾していないため、被告程偉豪、嘉揚公司及びその責任者唐在揚等は故意に権利を侵害したとして、知的財産裁判所に本件訴訟を提起した。

二 両方当事者の請求内容
(一) 原告の声明:
1、 被告嘉揚電影有限公司(以下「嘉揚公司」)はそれぞれ被告程偉豪又は唐在揚と連帯で原告に200万新台湾ドル、並び唐在揚を被告に追加する書状送達の翌日、即ち2019年7月12日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2、 被告は共同で添付資料に示す謝罪声明を、20ポイントの字体で半面(幅35.5㎝、高さ26㎝)の紙面を用い、聯合報、中國時報、自由時報、蘋果日報の全国版第一面にそれぞれ一日掲載せよ。
3、 原告は担保を立てるので、声明第1項の仮執行宣言を申し立てる。
(二) 被告の答弁声明:原告の訴えを棄却し、仮執行宣言申立てを却下する。不利な判決を受けたとき、被告は担保を立てるので、仮執行免脱宣言を申し立てる。

三 本件の争点
(一) 「目撃者」の脚本V7.1乃至V8版(係争脚本)について著作権は原告にあるのか。
(二) 原告による本件訴訟の提起は、著作権法89条の1及び民法第197条の時効が成立しているのか。
(三) 原告が著作権法第85条第1項、第88条第1項、第2項第1号、第3項,民法第184条第1項前段、第195条第1項の規定により、被告に連帯で200万新台湾ドルの賠償金及び法廷遅延利息を支払うよう請求することに理由はあるのか。
(四) 原告が著作権法第85条第2項、第89条の規定により、被告に連帯で費用を負担し、添付資料のような謝罪声明を新聞紙面に掲載するよう請求することに理由はあるのか。

四 判決理由の要約
(一) 被告程偉豪が変更した脚本V7.1版と原告が提供したV6.2版を比較すると、確かに大きな違いがあり、数少ないオリジナルのシーンはその順番が調整されており、しかもオリジナルのシーンは比喩や細部の具体的な表現においても異なる様相を呈している。さらに、係争脚本はV7.1版以降にさらに多くのプロットが変更、調整されており、V6.2版から3回の大幅な変更を経て、キャラクター、主な出来事及びプロットの配置において大きな違いがある。たとえ原告がいうところの「記者(主役)、編集長、編集長の配偶者(又は浮気相手)、自動車エンジニア、警察官(真犯人)の相関関係、及び記者が交通事故を目撃し、警察で事故について調べたことで、皆それぞれ犯人である可能性があることに気が付く」という概念と基本要素があっても、脚本における物語の設定、プロット構成及び登場人物設定等の全体的かつ具体的な表現が観る者に感じさせるものの違いにより、V6.2とV8が同一性を有するとは言い難い。係争脚本の創作過程及び脈絡を総合的にみると、V6.2版はV8版にとって、オリジナルの構想又はオリジナルストーリーという属性は確かにある。

(二) 係争許諾同意書の示すところによると、被告程偉豪は原告から係争脚本6.2版を改変し、映画を制作することを許諾するという同意を得ており、映画のオリジナルストーリーの著作権は陳融萱に帰属し、その他一切の映画に関する及び映画から派生する著作財産権及びすべてのその他の類型の完成品等の版権について、現存する及び将来に派生する映画の著作権及び発行事業等の権益はいずれも程偉豪の所有に帰属する。ゆえに原告と被告程偉豪の脚本秘密保持契約及び監督に関する契約の約3年後に係争脚本について行った係争許諾同意書の上記約定によって、係争脚本の著作権帰属については係争許諾同意書を以って以前の合意に取って代わるため、原告は係争映画を撮影する際に用いる係争脚本の著作権者ではない。

(三) 係争許諾同意書を交わす前に、原告と被告程偉豪の双方の間には、係争脚本は被告程偉豪が脚本家、陳融萱がオリジナルストーリーの作者であることについて、相当な共通認識があったはずであり、被告程偉豪が係争許諾同意書を交わした後、係争許諾同意書の約定に基づき、係争脚本の改変を継続し、被告嘉揚公司と協力して係争映画を撮影し、係争映画のクランクインと撮影関連情報を告知したことに対して、陳融萱には異議がなく、双方が係争脚本を以って映画を撮影した可能性はなく、先に交わした脚本秘密保持契約と監督に関する契約の締結目的はすでに存在せず、係争脚本の著作権帰属については、双方が係争許諾同意書を以って以前の契約書に取って代える合意があったことから、原告が脚本秘密保持契約書で定めたところを以って主張することは上記の事情とは一致せず、採用できない。

(四) 原告は係争映画を撮影した係争脚本の著作権者ではなく、しかも被告程偉豪はすでに原告から係争脚本を改変し映画を撮影し制作する同意を得ている。被告が係争脚本を以って係争映画を撮影したことは、原告の係争脚本に関する著作財産権及び著作人格権を侵害するものであると原告が主張し、被告に連帯で損害賠償金を支払い、新聞への謝罪声明を掲載するように請求することには理由がない。本件原告の請求には理由がないため、請求権の時効を審理する必要はない。

(五) 本件事実証拠はすでに明らかであり、本件のその他の争点については、双方のその他の攻撃防御方法と提出された証拠を本裁判所が斟酌した結果、判決の結果には影響がないと判断したため、逐一詳細に論駁する必要はない。

結論:原告の訴えには理由がなく、知的財産事件審理法第1条、民事訴訟法第78条により、主文の通り判決する。

2021年6月22日
知的財産裁判所第三法廷
裁判官 陳端宜
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