オンラインゲームのプライベートサーバ無断設置で、ゲーム会社の著作権と商標権に対する侵害を構成
2023-04-24 2022年
■ 判決分類:著作権
I オンラインゲームのプライベートサーバ無断設置で、ゲーム会社の著作権と商標権に対する侵害を構成
■ ハイライト
被告人はゲーム会社が著作権を有するゲームソフト(プログラム著作物)を無断でダウンロードし、該ソフトを被告人が設置したプライベートサーバに保存した。ゲームソフトをダウンロードし、アップロードし、他人のダウンロードに供した行為は、著作権法で定める違法に複製した罪、違法複製物を頒布した罪、違法に公衆送信した罪、公衆に複製又は公衆送信をさせることを目的としてコンピュータプログラムを提供した罪という罪名に同時に触れ、またゲーム会社が商標権を取得した商標の文字と図案がゲームソフトに含まれている場合は、上記の行為は商標法の無断で商標を使用した罪にも該当する。
II 判決内容の要約
台湾高雄地方裁判所刑事判決
【裁判番号】110年度審智易字第18号
111年度審智易字第4号
【裁判期日】2022年4月19日
【裁判事由】著作権法違反
一 事実要約
1.台湾高雄地方裁判所110年度審智易字第18号/111年度審智易字第4号刑事判決(併合審理)の判決主文は以下の通りである:曾俊斌は著作権法第91条の1第2項の著作財産権侵害に係る複製物を情を知って頒布した罪について、合計2つの罪を共同して実行したため、それぞれ懲役6月に処し、罰金に転換するときは、1日あたり1000新台湾ドルで換算する。(併合して)執行すべきは懲役10月に処し、罰金に転換するときは、1日あたり1000新台湾ドルで換算するものとする。差し押えられたコンピュータ本体1台は没収する。差し押さえられていない犯罪による利得150万新台湾ドルを没収し、全部若しくは一部を没収することができないとき、又は没収するにあたって不都合があるときは、その価額を追徴する。
2.事実欄一(110年度審智易字第18号):被告人曾俊斌はオンラインゲーム「劍靈(Blade & Soul)」が、その著作財産権をNCsoft Corporation(以下、韓国企業NC社)が有するプログラムの著作物であることを知り、且つ韓国企業NC社が「劍靈」商標(図案)の登録を経済部知的財産局に出願して許可されたことはファイルに記録されていること、且つ商標の専有期間内にある商標であることを知りながら、韓国企業NC社の同意を得ずに、まずは身分不詳の通称「老色批」という共犯者が不詳の時点で無断にダウンロードを行い、並びに韓国企業NC社が創作したゲームソフト「劍靈」を複製した後、該ソフトをそれが設置したプライベートサーバに保存し、曾俊斌は2020年4、5月から公衆がインターネットを通じて他人の著作物を公衆送信し若しくは複製して公衆に著作財産権を侵害するのに供することを目的として、利益を得るための犯意の連絡により、曾俊斌はファイスブックに開設したファンページ、立ち上げたLineグループ、discord、蝦皮賣場(Shopee)等のプラットホームで、韓国企業NC社の許諾を得ずに、「劍靈」の商標図案を使用し、「劍靈」のプライベートサーバを標榜して、不特定のプレーヤーを勧誘し、プレーヤーが該サーバにログインしてオンラインゲーム「劍靈」をプレイできるようにして、ゲームポイントをプレーヤーに販売して利益を得た。
3.事実欄二(111年度審智易字第4号):被告人曾俊斌と氏名、年籍(生年月日、身分証番号、本籍地等)不詳の通称「保哥」という中国籍成年男性はいずれも、オンラインゲームである「TERA」及び「彩虹島物語」がその著作財産権を樂意傳播股份有限公司(英語名:HAPPYTUK CO., LTD.。以下、「樂意公司」)が有するプログラムの著作物であることを知りながら、まずは身分不詳の通称「保哥」が不詳の時点にオンラインゲーム「TERA」及び「彩虹島物語(La Tale)」を無断でダウンロード、複製し、該ソフトをそれが設置したプライベートサーバに保存し、曾俊斌は2020年7、8月の某日から、「保哥」と共同して、公衆がインターネットを通じて他人の著作物を公衆送信し若しくは複製して公衆に著作財産権を侵害するのに供することを目的として、利益を得るための犯意の連絡により、曾俊斌はソーシャルソフトウェアDiscord、ファイスブックのファンページに投稿したり、カスタマーサービスとしてプレーヤーのトラブル解決に協力したり、ポイント販売後にIDとパスワードを提供して、不特定のプレーヤーが該サーバにログインしてオンラインゲーム「TERA」又は「彩虹島物語」をプレイできるようにしたりした。また曾俊斌はプレーヤーからの賛助金を受け取る口座を提供し、さらに曾俊斌は得た金銭を「保哥」と半分ずつに分け合った。
二 両方当事者の請求内容
検察官は被告人曾俊斌を著作権法、商標法違反で起訴し、被告人は起訴事実を認めており有罪である。
三 本件争点
企業が著作権を所有するオンラインゲームであるプログラムの著作物を利用してプライベートサーバを設置することは、違法行為を構成するのか。
1.ゲームソフト(プログラムの著作物)のダウンロードを提供:著作権法第87条第1項第7号(公衆に公衆送信又は複製を目的とするコンピュータプログラムを提供した罪)
2.著作権法第91条第1項(無断複製により他人の著作財産権を侵害した罪)
3.著作権法第91条の1第2項(著作財産権侵害に係る複製物を情を知って頒布した罪)
4.著作権法第92条(無断で公衆送信することにより他人の著作財産権を侵害した罪)
5.商標法第95条第1号(商標権者の同意なく、同一の役務において登録商標と同じ商標を使用した罪)
四 判決理由の要約
1.被告人曾俊斌は:①事実欄一の行為(「劍靈」プライベートサーバの設置)は、著作権法第87条第1項第7号違反による著作権法第93条第4号に抵触する罪、著作権法第91条第1項違反の無断で複製することにより他人の著作財産権を侵害した罪、著作権法第91条の1第2項違反の著作財産権侵害に係る複製物を情を知って頒布した罪、著作権法第92条違反の無断で公衆送信することにより他人の著作財産権を侵害した罪、及び商標法第95条第1号違反の商標権者の同意なく、同一の役務において登録商標と同じ商標を使用した罪が成立し、②事実欄二の行為(「TERA」及び「彩虹島物語」のプライベートサーバの設置)は、著作権法第87条第1項第7号違反による著作権法第93条第4号に抵触する罪、著作権法第91条第1項違反の無断で複製することにより他人の著作財産権を侵害した罪、著作権法第91条の1第2項違反の著作財産権侵害に係る複製物を情を知って頒布した罪、著作権法第92条違反の無断で公衆送信することにより他人の著作財産権を侵害した罪が成立する。
2.被告人は通称「老色批」の人物とは事実欄一の犯行について、通称「保哥」の人物とは事実欄二の犯行について、それぞれ犯意の連絡と行為の分担があり、いずれも共同正犯を以って論じるべきである。
3.刑事法における若干の犯罪行為の態樣は、本質的に反復的、持続的な実行という特徴を有し、行為者は概括的な犯意に基づいて、接近した一定の時間と場所で持続的に実行した複数の行為は、社会通念上、客観的に反復性、持続性のある行為という観念に該当すると認められるならば、刑法の評価において、一罪のみが成立する。被告人は事実欄一において、2020年4月某日から2021年8月5日に警察が検挙するまで、持続的、反復的にゲームポイントを販売して、不特定のプレーヤーに韓国企業NC社の著作権を侵害するオンラインゲーム「劍靈」のプライベートサーバへのログインを提供した。事実欄二において、2020年7、8月某日から2021年4月21日に警察が曾俊斌に説明するよう通知するまで、持続的、反復的にゲームポイントを販売して、不特定のプレーヤーに樂意公司の著作権を侵害するオンラインゲーム「TERA」、「彩虹島物語」のプライベートサーバへのログインを提供した。それは密集した時間内に同じ方法で持続的に行い、中断することなく、即ち反復的、持続的な実行という特徴を有し、行為の概念上、たとえ複数回にわたって行われたとしても、なお各評価はいずれも包括一罪の集合犯と認めなければならない。
4.被告人は事実欄一において、一つの行為が上記5つの罪名に同時に触れており、事實欄二において、一つの行為が上記4つの罪名に同時に触れており、いずれも観念的競合となり、刑法第55条前段により、最も重たい「著作権法第91条の1第2項の著作財産権侵害に係る複製物を情を知って頒布した罪」を以って処断する。
5.被告人は事実欄一、二という2回の犯行において、犯意がそれぞれ異なり、行為も互いに異なるため、量刑を分けて論じた後、併合罪としなければならない。