従業員が業務執行中に他人の営業秘密を使用して社内プレゼンを行うことについて、会社が違法行為防止のために必要な措置を講じなかったのは、「防止・回避に尽力していない」ものである。

2026-04-23 2025年

■ 判決分類:営業秘密

I 従業員が業務執行中に他人の営業秘密を使用して社内プレゼンを行うことについて、会社が違法行為防止のために必要な措置を講じなかったのは、「防止・回避に尽力していない」ものである。

■ ハイライト
李〇が業務執行で行った行為は、営業秘密法第13-1条第1項第2号に定義される、営業秘密を保有しているときに、許諾を得ずに当該営業秘密を複製し、使用した罪に該当する。宜特公司が職員李〇による犯罪発生の防止に関する行為に尽力しなかったことについては、営業秘密法第13-4条前段の規定に基づき、営業秘密法第13-1条第1項に規定の罰金を科さなければならい。
(一)いわゆる「防止行為に尽力する」とは、事業者が違法防止に必要な措置を講じるべきであり、仮に事業者が一般的、抽象的な注意、警告措置を行うのみでは不十分であり、違法行為発生の効果的な防止に十分な具体的措置を講じるべきであり、それで初めて免責を主張することができる。
(二)李〇が宜特公司に入社した後まもなく、「PSI」文字の表記がある昇陽公司の内部資料をもって宜特公司でプレゼンを行ったことがあるのにもかかわらず、宜特公司はこれについて警戒せず、前職の経歴により告訴人昇陽公司の内部情報に接触したことがある李〇が機密保持誓約書及び雇用契約書条項を遵守しているかについて、実質的な審査を行わなかったので、明らかに事実確認の責任を果たしておらず、監督不行き届きに該当するはずである。宜特公司が被告人李〇に対して講じた他人の営業秘密侵害防止の措置は、形式的なものだけであり、積極的、具体的及び効果的な防止行為ではないので、自ずと営業秘密法第13-4条但し書きの規定に基づき免責を主張することができない。

II 判決内容の要約

台湾新竹地方裁判所刑事判決
【裁判番号】110年度〔2021年度〕智訴字第1号
【裁判期日】2025年06月30日
【裁判事由】営業秘密法違反

検察官 台湾新竹地方検察署検察官
被告人 李〇
被告人 宜特科技股份有限公司

上記被告人による営業秘密法違反事件につき、検察官が公訴を提起したため、本裁判所は下記のとおり判決を下す。

主文
一、李〇は営業秘密法第13-1条第1項第2号に規定の営業秘密を保有していたとき、許諾を得ずに当該営業秘密を複製、使用した罪を犯したため、李〇を懲役1年に処し、120万台湾ドルの罰金を併科する。もし罰金を服役に代える場合は、罰金総額と1年の日数の比率で換算する。
二、宜特科技股份有限公司に対しては、その被用者の業務執行に関し、営業秘密法第13-1条第1項第2号の罪を犯したことにより、500万台湾ドルの罰金を科す。
三、押収物及びその中に保存の電磁記録をいずれも没収する。

犯罪事実
李〇は2017年3月10日まで「世界先進公司」でエンジニアを務め、ウェーハ製造プロセスの加工役務を提供する協力川下メーカー「昇陽公司」との連絡窓口を担当し(以下、係争プロジェクトという)、昇陽公司のウェーハ薄化製造プロセスの関連情報を管理していた。李〇は、昇陽公司から世界先進公司に提供した情報が秘密性及び経済的価値を有しており、また、当該情報について合理的な秘密保持措置が講じられており、昇陽公司の営業秘密に該当することを明らかに知悉していたにもかかわらず、自己の不法な利益を図り、及び昇陽公司の利益に損害を与えることを意図し、営業秘密を保有していたときに、許諾を得ずに当該営業秘密を複製、使用する接続的犯意に基づき、世界先進公司の公務用コンピュータに保存されていた情報を自己のUSBメモリに複製した。李〇は退職して宜特公司の技術部経理に就任した後、無断で世界先進公司から前記USBメモリを持ち出し、宜特公司の業務執行の際に公務用ノートパソコンに前記USBメモリ内の情報を読み込み、これを公務用ノートパソコン内へ転送・複製して当該営業秘密を参照・使用したため、昇陽公司に損害を与えた。

理由
(一)いわゆる営業秘密とは、営業秘密法第2条に規定の「秘密性」、「経済性」及び「すべての保有者が既に合理的な秘密保持措置を講じた」の3つの要件を満たすものでなければならない。
1.「秘密性」とは、「公衆の基準」ではなく、「業界の基準」であり、即ち、当該情報が一般公衆が知らないのみならず、当業者も知らないものであり、それで初めて該当する(最高裁判所110年度台上字第2100号、112年度台上字第229号刑事判決趣旨参照)。また、「秘密性」は、発明特許において備えるべき「絶対的な新規性」(先行技術の一部を構成しない)及び「進歩性」(当該発明の当業者が出願前の技術に基づき容易に完成できるものではない)の要件とは異なる(最高裁判所108年度台上字第36号民事判決趣旨参照)。 
2.「経済性」とは、生産、製造、経営、販売に用いられる情報であり、即ち、経済的利益又は商業的価値を生み出す情報を指す。
3.営業秘密の保有者が講じた機密保持措置が合理的な程度に至っていたかについては、当該営業秘密の種類、事業の実際的な経営状況及び社会の一般的コンセンサス又は通念を酌量し、個別案件の具体的な状況に基づき判断しなければならず、もし客観的に一般人が正当な方法で容易に探知できないようにしている場合は、「合理的な秘密保持措置」に当たらないとは言い難い(最高裁判所108年度台上字第36号民事判決趣旨参照)。
告訴人昇陽公司から世界先進公司に提供した生産、販売又は経営に用いることができる情報は、既に上記の3つの要件を満たしているので、自ずと営業秘密法にいう営業秘密に該当する。
(二)被告人李〇は許諾を得ずに告訴人昇陽公司の営業秘密を複製、使用した:
1.被告人李〇は、世界先進公司に就職した際に既に「知的財産権及び機密保持同意書」に署名し、即ち、営業秘密の使用は、甲に勤務する期間中の職務遂行上の必要な場合に限り、且つ甲の場所で行わなければならず、他の場所へ持ち出してはならないことになっていた。李〇は通知書にも署名したが、「知的財産権及び機密保持同意書」には双方の雇用関係の終了により失効することはないと明記されていた。また、世界先進公司と昇陽公司間で締結された共同機密保持契約に基づき、世界先進公司は自ずと当該情報について守秘義務を負い、被告人李〇もそれについて守秘義務を負っていた。
2.被告人李〇は、当該情報の「複製」行為があったことを認めた。営業秘密法にいう「使用」とは、営業秘密の経済的価値を実現できる利用行為があるだけで、いずれも「使用」を構成するものであり、製造プロセスに組み込む必要はなく、又は剽窃行為とも限らず、閲覧、参考、研究、対比又は編集等の行為だけでも、いずれも「使用」態様に該当する。「アプリケーション」にも限らず、当該情報に対する如何なる閲覧、分析ひいては編集、整理も該当する。
(三)被告人李〇には、自己の不法な利益を図り、及び昇陽公司の利益に損害を与える意図があった:
告訴人昇陽公司が当該情報を開示した際に既に資料自体又は電子メールに機密情報と表示していたにもかかわらず、被告人李〇は依然として無断で複製し、更に被告人宜特公司に勤務していた期間中に無断で転送、使用したため、主観的に告訴人昇陽公司の利益に損害を与える意図は明らかである。更には、被告人李〇が被告人宜特公司に入社した際にも機密保持誓約書に署名し、知悉していたことは明白であるので、主観的に自己の不法な利益のための意図があったと十分に認定できる。
(四)被告人宜特公司は防止行為に尽力していなかった:
いわゆる「防止行為への尽力」とは、一般的、抽象的、宣言的規定のみ求められるのではなく、積極的、具体的、効果的な違法防止措置が必要であり、一方、事業者が必要な防止措置を講じたとは、客観的に効果的な違法行為の発生防止に対する十分かつ具体的な措置を指すものであり、それで初めて免責を主張することができる。
1.被告人宜特公司が配布した公務用ノートパソコンはUSBメモリの保存装置の規制がなく、被告人李〇に対する情報セキュリティ及び他人の営業秘密侵害防止の教育訓練も実施していなかったので、被告人宜特公司が既に監督・防止の義務を尽くしたと認定するのは困難である。
2.被告人李〇は被告人宜特公司に就職した際に「機密保持誓約書」及び「雇用契約書」に署名したが、これは一般的、抽象的、宣言的規定のみであり、積極的、具体的及び効果的な防止行為ではない。また、告訴人昇陽公司と被告人宜特公司はともにウェーハ製造プロセスサービス提供の分野であり、両者は同業競争の関係である。被告人宜特公司は当然、競合他社の情報に接触し、又は取り扱ったことのある従業員による営業秘密の不正使用のリスクをできる限り回避する必要があることを知悉していたはずである。
3.被告人李〇は被告人宜特公司に転職後、確かに被告人宜特公司の社内で告証55のプレゼン報告を行ったことがあり、当該プレゼンの内容において随所に「PSI」、「Phoenix Silicon International Corporation Confidential」文字が出現していたにもかかわらず、被告人宜特公司はこれを看過し、被告人李〇が前記機密保持誓約書及び雇用契約書の条項を遵守しているかについて、実質的な審査を行わなかったため、明らかに事実確認の責任を果たしておらず、監督不行き届きに該当するはずである。
4.被告人宜特公司が明らかに防止・回避の義務を尽くしていないため、既に防止行為に尽力したと認定するのは困難であり、自ずと営業秘密法第13-4条但し書きに基づき免責を主張することができない。
(五)被告人のその他の抗弁を採用しない理由:
1.行為者は他人の製品を分析し、又はリバースエンジニアリングを行うことで他人の営業秘密を入手することができる。しかし、行為者が合法的な方法を通じて他人の同一の営業秘密を入手することができるとしても、そのこと自体は他人の営業秘密に影響しない。いわゆる「リバースエンジニアリング」(Reverse engineering)は、公開で入手することのできる既知製品について、第三者が相当程度のマンパワー及び物力を投じなければならず、それで初めてその中の情報を獲得することができるのであり、一方、簡単に入手することができないものについては、当該情報は秘密状態にあると認定すべきである(知的財産及び商事裁判所109年度刑智上重訴字第4号刑事判決趣旨参照)。
2.前記説明によると、第三者はリバースエンジニアリングを通じて「一部の」製造プロセスの情報を獲得することができるが、やはり告訴人昇陽公司が保有している営業秘密自体の存在には影響しない。営業秘密の「一部の」内容について、他のルートを通じて獲得することはできるが、やはり収集のために相当程度の時間及び労力が必要であり、一方、「全体的な」総合内容から見て、当業者が知悉していて公開のルートから簡単に獲得できるものには該当しないと認定するに足りるものは、やはり秘密性を有する(知的財産及び商事裁判所109年度刑智上重訴字第4号刑事判決趣旨参照)。
3.技術内容の秘密性については、特許の「絶対的な新規性」とは異なり、営業秘密の秘密性は相対的な概念であり、最低限の新規性のみが求められ、即ち「当業者が通常知り得ないもの」であればそれに該当する。したがって、ある営業秘密が、一般知識・技法より技術的にわずかな先進性を有するだけである、又は通常の常識をわずかに超える程度のものに過ぎないものであり、原則的に複数の先行技術の技術内容を組み合わせることで、ある技術情報の秘密性を否定することは許されるべきではないので、特許に「進歩性」はないことの無効抗弁とは異なる。
4.被告人李〇及び宜特公司は、当該情報の多くに「機密」又はこれに類する文字が表示されておらず、機密情報に該当しないため、世界先進公司は守秘義務を負わず、被告人李〇もこれにより守秘義務を負わない云々と抗弁したが、告訴人昇陽公司は電子メールの下側に「Confidentiality」等の警告を表記する方法で行っていたため、被告人の事後の前記抗弁は自ずと採用することができない。
5.経済的価値には実質的及び潜在的な経済的価値が含まれるので、未だ商業的に利用されていないものであっても、潜在的な経済的価値を有する可能性がある。
6.告訴人昇陽公司は「機密公文書及び資料は、電子メールで伝送してはならない」と規定していた。係争プロジェクトに参加した告訴人昇陽公司、世界先進公司の人員が情報交換のために電子メールの方法を採用したのは、告訴人昇陽公司と世界先進公司が既に共同機密保持契約を締結し、関連人員も既に機密情報について互いに守秘義務を負うと認識している前提で、合意した資料伝送方法であるので、これは業界の通念に合致するもののはずである。被告人が前記の一般的情報セキュリティ規則のみに基づき、告訴人昇陽公司が合理的な秘密保持措置に尽力していないと指弾したことは、自ずと採用することができない。
7.被告人宜特公司は更に、同会社の機械設備、ブランド及び品番は告訴人昇陽公司が使用しているものと完全に異なっているので、告訴人昇陽公司の情報を使用する必要はない等と抗弁した。しかし、いわゆる「使用」とは、必ずしも製造プロセスに組み込む必要はなく、上述のとおり、これは既に「使用」を構成し、この両社の機械設備が同一か否かとは実に何ら関わりがない。
8.また、被告人李〇は、「知的財産及び商事裁判所113年度刑営抗字第6号刑事決定」主旨をもって、半導体業界の急速な入れ替わりにより、本案件に関わる2016年から2018年にわたる期間から既に2年も経過したため、半導体チップ製品及び仕様ももはや従来のものと異なっており、経済的価値は一切ない云々と主張したが、営業秘密法第13-1条違反の犯行は「即成犯」であるため、侵害された客体が要件を満たすかについての判断は、「行為時」に準ずるべきであり、そもそも事後の技術的進歩又は製品の入れ替わりに基づきその経済的価値を否定してはならない。

罪責・刑罰
被告人李〇の犯罪後の犯罪行為否認、及び告訴人昇陽公司間で和解・賠償に至らなかった犯罪後の態度等のすべての情状を酌量し、主文第一項のとおり刑を量定する。なお、被告人宜特公司の被用者、即ち、被告人李〇が業務執行中に営業秘密法第13-1条第1項第2号の罪を犯したため、宜特公司の事業規模、資本金及び収益状況、被告人李〇の前記営業秘密法違反の犯行により獲得できた経済的な利益及び監督義務違反の情状と程度等のすべての情状を酌量し、主文第二項のとおり罰金を科す。

2025年6月30日
刑事第一法廷 裁判長裁判官 廖素琪
裁判官 楊恵芬
裁判官 江永楨
書記官 陳家洋

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