補正下着の競争で、瑪麗蓮の不評流布を委託した維娜斯の責任者に刑事罰
2015-08-04 2014年
■ 判決分類:公平交易法
I 補正下着の競争で、瑪麗蓮の不評流布を委託した維娜斯の責任者に刑事罰
■ ハイライト
維娜斯国際有限公司(Venus' Secret Company Limited、以下「維娜斯公司」)の責任者である葉○伶は、インターネット広告会社に委託して投稿者を探し、ネットの討論サイトにて瑪麗蓮国際実業有限公司(Marilyn Underwear International Co., Ltd、以下「瑪麗蓮公司」)を攻撃するため「私のひどい汗疹をみた夫に、もう着用しないようにいわれた」、「蒸れた感じで、通気性が悪い」等のネガティブなコメントを投稿させるよう従業員の張○蘭に指示した。台北地方裁判所は刑法加重誹謗罪規定違反、公平交易法(不正競争防止法や独占禁止法に相当)違反により葉○伶、張○蘭をそれぞれ3ヵ月の懲役に処し、罰金9万新台湾ドルへの転換を可とし、維娜斯公司には罰金30万新台湾ドルを科した。全案はさらに上訴できる。
II 判決内容の要約
台湾台北地方裁判所刑事判決
【裁判番号】102年度易字第501号
【裁判期日】2014年5月7日
【裁判事由】公平交易法等
主文
葉〇伶と張〇蘭は、事業者は競争の目的をもって他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布してはならないという規定に共同で違反したため、それぞれ3ヵ月の懲役に処し、罰金への転換を可とし、いずれも1日を1000新台湾ドルに換算する。
法人の維娜斯國際有限公司は、事業者は競争の目的をもって他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布してはならないという規定に違反したため、30万新台湾ドルの罰金を科す。
一 事実要約
維娜斯国際有限公司(Venus' Secret Company Limited、以下「維娜斯公司」)と瑪麗蓮国際実業有限公司(Marilyn Underwear International Co., Ltd、以下「瑪麗蓮公司」)は同じくオーダーメイド女性用補正下着を販売する事業に従事し、市場においては競合関係にある。葉〇伶は維娜斯公司の責任者であり、張〇蘭は2011年の時点で維娜斯公司の従業員である。葉〇伶は維娜斯公司と瑪麗蓮公司との競争のために、2011年7月15日に維娜斯公司を代表して、博思公司とネット評判(口コミ)最適化サービス契約を結び、博思公司は2011年8月1日から同年9月30日までの間(その後サービス期間は同年10月まで延長された)に維娜斯公司のために、ネットの討論サイトの補正下着ブランド関連スレッドにおいて、瑪麗蓮公司のブランドに対するネガティブなコメント計60件を投稿し、(維娜斯公司が)1件あたり300新台湾ドルを支払うことを約定している。維娜斯公司が博思公司と契約した後、葉〇伶と張〇蘭は共同で告訴人の競争における信用を毀損する犯意に基づき、並びに博思公司の従業員である陳〇婕、博思公司が雇ったネットへの投稿者である陳〇君、李〇潔と共同で加重誹謗を行う犯意に基づき、公に流布することを意図し、葉〇伶が方針決定を主導し、張〇蘭が陳〇婕に指示、連絡し、陳〇婕が陳〇君と李〇潔に瑪麗蓮公司のブランド製品やサービスに対するネガティブなコメントを作成するよう指示し、陳〇婕がこれらの文章を電子メールで張〇蘭に送り審査、修正及び確認を行い、さらに陳〇君は「豆豆雞」、「karensa」というハンドルネームで、李〇潔は「蝦芙」というハンドルネームで、それぞれコンピュータネットを通じてサイト「Babyhome宝貝家庭親子網」(以下、「宝貝家庭サイト」)にログインして親子掲示板で虚偽の事実を流布、摘示した。これは瑪麗蓮公司の商業上の信用と名誉を毀損するに足るものである(陳〇婕、陳〇君、李〇潔が加重誹謗罪に係わった容疑については、別途台湾台北地方裁判所検察署検察官が起訴猶予処分を下している)。瑪麗蓮公司からの告訴により、台湾台北地方裁判所検察署検察官が取調べ、起訴を行った。
二 判決理由の要約
(一)刑事訴訟法第159条第1項規定における「被告以外の者の審判以外における口頭又は書面での供述」には「非供述証拠」が含まれない。本件の以下に列挙する引用(付表に示された宝貝家庭サイトにおけるコメント内容の印刷資料、及び被告張〇蘭のアカウント000000-00000@umail.hinet.netと陳〇婕のアカウント000000.0000@togather.com.twの2011年7月にやり取りされた電子メールを含む)はいずれもコンピュータのサイトに表示される画面を直接コンピュータの印刷機能で印刷出力した文書であり、本件被告等が共同で文字で虚偽の事実を流布した構成要件を認定するのに用いた。また被告の張〇蘭が陳〇婕との契約締結と執行について行った交渉討論の事実行為は「被告以外の者の審判以外における口頭又は書面での供述」の範囲に入らない。
(二)陳〇君、李〇潔は宝貝家庭サイト掲示板の各スレッドにおいて、第一人称の角度からネット上の不特定の閲覧者に対して告訴人のブランド製品を自ら購入、着用した後、サービスの不手際や使用後に発生した生理的に不快な症状があったと流布、摘示した。弁護人は被告に代わり、多数の消費者が告訴人のブランド製品を着用、使用した後、確かに湿疹、アレルギー等の症状が発生しており、且つ告訴人が提供するサービスにも多くの不手際があったため、上記言論が示す状況は客観的事実に合致する真実であり、告訴人の名誉及び商業上の信用を害する又はそれらに影響するには至らない云々と抗弁した。さらに本件の共同被告である洪〇聆(本裁判所により別途結審している)の診断証明書、発疹の写真、及び被告の維娜斯公司が市場調査員を派遣して作成した匿名市場調査アンケート、市場調査結果報告書等の文書を証拠としている。ただし調べたところ、証人の陳〇君は法廷で、自分は実際に告訴人のブランドの商品を購入し着用したことがなく、それらのコメントの内容は自分が博思公司に在職している時、博思公司から提供された上記ハンドルネームを利用し、維娜斯公司から提供された告訴人のブランド製品を使用した後の不快な体験を記載したテキストファイルに基づき、自分自身が告訴人のブランド製品の着用体験を有するふりをしてネットに書込んだもので、自分が発表した内容が虚偽であると知っていたと証言している。また李〇潔は法廷で、自分も告訴人のブランド製品を実際に購入し試着したことがなく、これらのコメントの内容は自分が博思公司に在職している時、博思公司から提供された上記ネット上のハンドルネームを利用し、陳〇婕から提供された告訴人のブランド製品を使用したネガティブなコメントが記載されたアウトラインと見本原稿に基づき、自分が改編した後ネットに書込んだもので、自分が発表した内容が虚偽であると知っていたと証言している。従って、陳〇君と李〇潔が行った第一人称の角度からの告訴人のブランド製品のサービスの不手際や使用後に発生した生理的に不快な症状に対する摘示はいずれも発言者である陳〇君と李〇潔の2人が実際に体験したものではない。行為者は刑法第310条第3項の規定により、その誹謗の事項を罰しないとする「真実」であるか否かについては、該行為者自身が自らの体験であるか否か、又はすでに相当の査証義務を尽くしているか否かを以って判断し、行為者の実際の状況を無視して、第三者の平均的な体験だけから認定すべきではない。況してや被告の維娜斯公司と告訴人が販売する補正下着は、購入者の体型によってオーダーメイドされる必要があり、個人の体質によって製品に対する適応度も異なり、受ける販売サービスの状況も販売員によって異なり、普遍的な真理がすべてに適用できるという絶対的な真実の状態であるとは認定できない。よって陳述者が一般的な状況について事実を述べる場合を除き、自身の立場で立論するという前提で告訴人のブランド製品を使用、着用した状況を陳述して、始めて自らの実際の体験であるだけで「真実」であるといえる。
さもなければ、一部の使用者だけがある種の個別体験を有する時、この体験を有しない人が自らの体験として摘示、伝述すれば、読者に該体験が多数者の普遍的な共通現象であると誤認させ、言論市場における認知の混同と錯誤をもたらしてしまい、これは言論の自由が求める保障の範疇ではない。よって弁護人の上記答弁は根拠がないものである。
(三)言論自由は憲法が保障する基本的人権であり、法律は最大限の保護を与えるべきである。ただし悪意を以って風説を流布し、虚偽の言論を伝播すれば、憲法で保障される基本的人権が逆に侵害されてしまうため、憲法第23条に基づき合理的な制限を与えるべきである。また司法院釈字第509号解釈では、たとえ行為者がその言論の内容が真実であると証明できなくとも、その言論内容が真実であると確信できる相当な理由があると証明できる相当な証拠資料を提出できるのならば、犯罪の故意の欠落により、すぐに誹謗罪で罰してはならず、すなわち「現実的悪意の法理」を採用する。したがって行為者が情報の虚偽をすでに知悉していた又は知り得たが、なお虚偽の言論を伝播した場合、又は合理的に疑わしいが故意に真相を回避し、言論の自由の名を借りて、悪意を以って攻撃した場合、処罰の正当性が有り、免責を主張し難い(最高裁判所97年度台上字第998号判決要旨を参照)。被告の張〇蘭は被告の維娜斯公司と博思公司との間の契約における「口コミの拡散」項目の執行について、陳〇婕から提出され博思公司の人員である陳〇君、李〇潔によって書かれた告訴人のブランドに対するネガティブなコメントがそれらの自ら体験したものではなく虚偽であると明らかに知りながら、チェック、修正した後にネットでコメントを書き込み、不特定者の閲覧に供するために渡した。公に流布する意図があることが認められる他、前述の説明に基づいて現実的悪意に該当し、競争目的の信用毀損及び告訴人会社の誹謗という故意が有った。被告の葉〇伶も被告の維娜斯公司の責任者であり、維娜斯公司を代表して博思公司と契約を結んだ他、該契約の進行は自らが方針を決定した後、張〇蘭に執行を任せ、張〇蘭が該契約に基づき執行される各事項についてそれ(葉〇伶)に報告し、同意を得ていたこと等の事実を認めており、被告の葉〇伶は主導、方針決定を行い、張〇蘭にネガティブなコメントを書き込む「口コミ拡散」項目の執行を指示したものであり、被告の張〇蘭と同じく前記の公に流布する意図及び競争目的の信用毀損及び告訴人会社の誹謗という故意があり、いずれも陳〇婕、陳〇君、李〇潔が告訴人の商業上の信用と名誉を毀損するに足る虚偽の事実を流布、摘示した行為について共同責任を負うべきである。
(四)被告の葉〇伶、張〇蘭は同一の競争目的の信用毀損及び加重誹謗の犯意に基づいて、時間的に接近して同一の寶貝家庭サイトの親子掲示板において、陳〇婕の指示で陳〇君、李〇潔に虚偽の事実を流布、摘示させた複数の挙動はいずれも告訴人の名誉と商業上の信用を毀損することを目的とした同一の所為であり、告訴人の同一の法益を侵害し、各挙動の独立性は弱く、一般的な社会観念に基づき分離し難いため、包括一罪として接続犯に該当すると判断すべきであり、一罪を以って論じる。また被告の葉〇伶、張〇蘭の所為は一行為で二罪に抵触し、観念的競合となり、最も重い罪で論じるべきであるため、公平交易法第22条規定違反については同法第37条第1項で罪を処断する。
(五)公訴理由ではさらに、被告の葉〇伶、張〇蘭は公平交易法違反の犯意に基づき、並びに陳〇婕、陳〇君、李〇潔と共同の名誉毀損の犯意に基づき、陳〇婕からの指示で陳〇君、李○潔がそれぞれ「係わる虚偽の事実」欄に示される以外の部分についても文字による内容を流布して告訴人の名誉を毀損したため、被告等のこの部分の発表内容も刑法第310条第2項の加重誹謗罪及び公平交易法第22条、第37条の罪を犯した疑いがあると認められると述べられている。しかしながら「意見の表現」と「事実の陳述」は異なる。「意見の表現」は個人の主観的な評価の表現であり、真実であるか否かは問題ではなく、また民主的な多元的社会は様々な価値や主張を容認すべきで、言論の自由の市場システムにより真理は語られるほどに明らかとなり、より優れたものが選別される効果が達成される。その間には個人の名誉を毀損する可能性があるが、言論の自由において自己実現、コミュニケーション、真理の追求及び各種政治又は社会活動の監督という機能に基づいて、より高い価値を有し、国家は最大限の保障を与え、必要に応じて個人の名誉に譲歩を行わせ、言論の自由に対する個人の名誉の譲歩の程度を考慮するとき、自らの意思で公の領域に入った公人、又は公の事務領域に係わる事項はより高い程度の譲歩が必要である。行為者が公の論評を受けることができる事に対して適当な論評を行うことは、たとえ批評の内容や用いられる字句が厳しいものであり、批評を受けた者に不快な思いやその名誉への影響を与えたとしても、刑法第311条第3号の規定に基づき、誹謗罪の違法性は阻却される。つまり、憲法は「意見の表現」である言論を「公正な論評の法理」で保障しており、即ち善意ある言論の発表を以って公の論評を受けることができる事に対して公正で、適切な論評を行う場合は、刑法第311条第3号の規定により、誹謗罪の違法性を阻却してもよい。該論評が「善意」であるか否かは、意見を表現する者が公共の利益に関する事項について行ったものであるか否か、その動機が論評される者の名誉を毀損することが唯一の目的であるか否かを調べ、ある種の論評が「公正」又は「適切」であるか否かの判断も、その表現される字句又は形容詞が論評を受ける者に不快を与えるか否かを見るのではなく、その論評の内容及びその根拠がすでに大衆に知られているものであるか否かを見るべきであり、市場のチェックと評価に供してもよい。調べたところ、陳〇君、李〇潔は「(商業上の信用及び名誉の毀損に)係わる虚偽の事実」欄の部分の内容が自ら体験していない虚偽の事実に該当し、被告の葉〇伶、張〇蘭及び陳〇婕と共同で犯罪を構成している外、その他の部分の記述内容、又は告訴人の名誉及び商業上の信用を毀損していない中立的な事実の記述、又は陳〇君、李〇潔2人が自らの体験に関係ない部分については、告訴人のブランド製品の材質、使用又は着用の主観的な評価に関する意見の表現であり、告訴人は補正下着に関して市場である程度の規模をすでに具えており、ブランドも相当な名声を有しているため、その製品の品質とサービスの優劣は公の事務の領域に属する事項であり、公の論評を受けるものであるため、陳〇君、李〇潔の2人が行った意見の表現部分については、たとえ用いた字句に軽蔑や皮肉のニュアンスが含まれていても、また消費者に注目や留意を促す機能があっても、告訴人の名誉を貶めることを唯一の目的としているとは認められず、公正で適切な論評に該当する。よって被告の葉〇伶、張〇蘭のこの部分に関する言論についても、誹謗罪又は公平交易法の刑事責任を以って罰し難い。
以上の次第で、刑事訴訟法第299条第1項前段,公平交易法第37条第1項、第38条,刑法第11条、第28条、第310条第2項、第55条、第41条第1項前段,刑法施行法第1条の1第1項、第2項前段により主文の通り判決する。
2014年5月7日
刑事第十一法廷裁判官 林呈樵