光ディスクドライブのカルテル訴訟、公平会が敗訴を喫す
2015-11-20 2014年
■ 判決分類:公平交易法
I 光ディスクドライブのカルテル訴訟、公平会が敗訴を喫す
行政処罰の時効切れ等の理由でTSST-K社に対する罰金2500万新台湾ドル取消を命令
■ ハイライト
この行政訴訟は、韓国企業のToshiba Samsung Storage Technology Korea Corporation(以下「TSST-K」社)が韓国企業のHitachi-LG Data Storage Korea, Inc.(以下「HLDS社」)、飛利浦建興數位科技股份有限公司 (Philips & Lite-On Digital Solutions Corporation、以下「PLDS社」)及び日本企業のソニーオプティアーク株式会社(Sony Optiarc Inc.、以下「ソニーオプティアーク社」)等とともに2006年9月から2009年9月までの間、共同でDell社及びHP社の光ディスク調達入札において談合を行い、価格等のセンシティブな情報を交換していたと公平交易委員会(以下「公平会」。訳注:日本の公取委に相当)に認定されたことに始まる。
公平会はこの認定より、TSST-K社等企業の行為は、わが国の光ディスクドライブ市場の需給機能に影響するに足り、公平交易法(訳注:不正競争防止法、独占禁止法などに相当)の連合行為禁止規定に違反しているとして、書簡にてTSST-K社に公平会の行政処分書送達の翌日から直ちに違法行為を停止するよう命令するとともに、該社に2500万新台湾ドルの罰金を科した。
しかしながら、公平会の処分はすでに行政処罰の時効が切れていると裁判所から認定された。
さらに裁判所は以下のように指摘している。2006年9月から2009年2月までの間、世界光ディスクドライブ市場の競合事業者はTSST-K等4社だけではなく、Panasonic社やPioneer社なども含まれており、これら2社はDell社とHP社が同時期に行った一部の光ディスクドライブ調達入札に参加したことがある。
しかしながら公平会はPanasonic社、Pioneer社等がDell社とHP社の光ディスクドライブ調達入札で落札したか、したのであれば、それらに分配された販売量はいかほどか、については調査しておらず、公平会の立証が十分ではないことが分かる。(裁判所は)この認定に合法的根拠があるとは認められない。本件について公平会はさらに上訴できる。(2014年11月14日 工商時報 A22面)
II 判決内容の要約
台北高等行政裁判所判決
【裁判番号】102年度訴字第1062号
【裁判期日】2014年11月5日
【裁判事由】公平交易法
原告 韓国企業Toshiba Samsung Storage Technology Korea Corporation(TSST-K)
代表者 Sangheung Shin
被告 公平交易委員会
代表者 呉秀明
上記当事者間における公平交易法事件について、原告は行政院2013年5月15日院台訴字第1020134697号訴願決定を不服とし行政訴訟を提起した。当裁判所は次のとおり判決する。
主文
訴願決定及び原処分をいずれも取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
一 事実要約
被告は、原告が訴外人である韓国企業Hitachi-LG Data Storage Korea, Inc.(以下「HLDS社」)、飛利浦建興數位科技股份有限公司 (Philips & Lite-On Digital Solutions Corporation、以下「PLDS社」)及び日本企業のソニーオプティアーク株式会社(Sony Optiarc Inc.、以下「ソニーオプティアーク社」)と2006年9月から98年9月までの間に共同でDell Inc.(以下「Dell社」)とHewlett- Packard Company(以下HP社)の光ディスクドライブ調達入札にて談合を行い、競争に関するセンシティブな情報を交換したことは、わが国の光ディスクドライブ市場の需給機能に影響するに十分であり、公平交易法第14条第1項規定に違反していると認定し、同法第41条第1項前段規定により2012年9月19日公処字第101132号処分書(以下「原処分」)を以って原告に原処分送達の翌日から直ちに違法行為の停止を命じるとともに、原告に2500万新台湾ドルの罰金を科した。原告はこれを不服として行政訴願を提起したが棄却されたため、本件行政訴訟を提起した。
二 両方当事者の請求内容
原告の請求:訴願決定及び原処分をいずれも取り消す。
被告の請求:原告の請求を棄却する。
三 判決理由の要約
(一)被告が指摘する原告の参加した上記連合行為に係る管轄権を被告が有するとする原処分の認定に、法(の適用・解釈)における誤りは無い:
公平交易法でいう「事業者」に含まれる対象は、同法第2条第1乃至3号の例示部分における共通特徴をそなえるだけでよく、即ち継続して、独立に経済活動に従事する個人又は団体であればよく、よって許認可を受けていない外国企業はわが国の公司法(会社法)規定により独立法人格を持たないものの、最高裁判所1961年台上字第1898号判例趣旨に基づき、それは非法人団体に該当し、それに商品や役務を提供する取引行為があれば、即ち「継続して」、「独立に」、「経済活動に従事する」という要件を満たし、わが国の公平交易法第2条第4号に規範される事業者となる。調べたところ、原告は韓国で登記設立された企業であり、台湾の許認可を受けて設立されていないものの、本質的には営利社団法人に該当し、かつ光ディスクドライブの販売に従事していることを自ら認めており、継続して独立に経済活動に従事する事実があるため、公平交易法第2条第4号に定められる「その他商品又は役務を提供して取引をする個人又は団体」の要件を満たし、該法に規範される「事業者」となる。
被告は、原告がHLDS社、PLDS社及びソニーオプティアーク社(以下「その他被処分者3社」)とともにDell社とHP社の光ディスクドライブ調達入札で談合を行い、競争に関するセンシティブな情報を交換し、光ディスクドライブ価格に硬直化をもたらした可能性があり、連合行為(共同行為)を構成するものであり、かつ原告がその他被処分者3社と該連合行為に従事し、Dell社とHP社に光ディスクドライブを販売することで、相当な数量をわが国に販売してわが国市場に直接的、実質的かつ合理的に予期できる影響をもたらしたという結果を以って、それらがわが国の領域内で公平交易法第14条第1項前段規定に違反したと認めるべきであり、被告は同法第41条第1項規定に基づき処罰することができる。
(二)被告が、原告とその他被処分者3社には2006年9月から2009年9月までの間に公平交易法第7条第1、2項に定める連合行為が有ったと認定し、原処分を以って原告を処罰したことは、法に合わない:
1. Dell社及びHP社が2006年9月から2009年2月までの間に行った光ディスクドライブ調達入札の部分:
公平交易法第7条第1乃至第3項規定から、該法でいうところの事業者の連合行為とは、水平競争関係にある企業が、その共同利潤の極大化を謀り、競争による不確定性を回避するため、合意を以って共同行為を採用し、かつ需給に関わる市場機能に影響するに足るものをいう。法による行政における行政の合法性及び要件充足性という要求に基づいて、行政罰の要件である事実の客観的立証責任は行政機関に帰す。つまり被告は、原告がその他被処分者3社とHP社及びDell社の上記光ディスクドライブ調達入札において見積価格と獲得したい順位等に関する情報を交換し協議した行為が競争の制限を招き、需給に関わる市場機能に影響をもたらした結果は、公平交易法第7条第2項の連合行為の構成要件を満たすという事実に対して、立証責任を負うべきであり、さもなければ裁判所が職権で調査した結果により、この事実の真偽が不明であるとき、その不利益は被告に帰すべきである。いかに事業者の行為が(需給に関わる)市場機能に影響するかを確定するかは、市場範囲の特定に関わる。原告とその他被処分者3社が、2006年9月から2009年2月までの間のHP社及びDell社の光ディスクドライブ調達入札において見積価格等情報を交換し協議した期間に、光ディスクドライブは100%がHP社やDell社のようなブランドPCメーカーに販売されてPCに取り付けられたわけではなく、小売業者に販売されたものもあり、後者の比率は光ディスクドライブ販売総量の少なくとも10%以上を占めており、光ディスクドライブ販売量とPC販売量は同じではない。被告が直接、HP社及びDell社が上記光ディスクドライブ調達入札を行った期間におけるわが国PC市場での市場シェアのデータを、原告とその他被処分者3社が前記の光ディスクドライブ販売価格、入札順位を対象とした情報交換の行為がわが国光ディスクドライブ市場の需給機能に与えた影響の程度を算出する基礎としたことは、それが制定した結合届出案件処理原則第4点にある市場シェアの計算は限定された特定市場範囲(本件ではわが国光ディスクドライブ市場)における販売量を基礎とすべきであるという規定に合わず、正確ではない。次に、原処分事実の第2項(2)記載によると、被告が指摘する原告が連合行為に参加した期間に、世界の光ディスクドライブ市場における主な競合者は、原告とその他被処分者3社以外に、Panasonic Precision Devices Co. Ltd(以下「Panasonic社」)とPioneer Digital Design and Manufacturing Corporation(以下「Pioneer社」)がおり、2006年9月から2009年2月の間に世界光ディスクドライブ市場で競合する事業者は原告とその他被処分者3社だけではなく、Panasonic社とPioneer社も含まれ、かつ該2社はかつてHP社とDell社が該期間に行った一部の光ディスクドライブ調達入札に参加したことがある。しかしながら被告は、Panasonic社、Pioneer社等が前述光ディスクドライブ調達入札で落札したか、したのであれば、それらに分配された販売量はいかほどかについては調査せず、該期間にHP社とDell社が行ったオンライン入札の光ディスクドライブすべてを原告とその他被処分者3社が落札したと見なし、HP社とDell社が述べたオンライン入札方式で調達した光ディスクドライブの割合(90%乃至95%)と前記の該2社の2006~2009年台湾PC市場におけるシェアが約10%前後であるというデータから直接、原告とその他被処分者3社が上記光ディスクドライブ調達入札価格について連合行為を行ったと推測して、わが国に対する影響は「少なくともわが国PC総数の9%乃至9.5%を占める」(原処分の理由第6項(4)、本裁判所ファイル一第47頁を参照)としたことは、HP社とDell社が前述光ディスクドライブ調達入札で購入し、PCに取り付けてわが国に販売した光ディスクには、原告とその他被処分者3社以外の競合事業者から調達されたものである可能性があることを明らかに無視したものであり、それが指摘する連合行為とは関係ないとすることにも誤りがある。
さらに行政罰法第27条第1、2項規定「(第1項)行政罰の処分権は3年の経過により消滅する。(第2項)前項の期間は、行政法上の義務に違反する行為終了時から起算する。但し、行為の結果が後で発生したときは、結果が発生した時から起算する。」により、原告とその他被処分者3社が前述のHP社及びDell社の光ディスクドライブ調達入札において価格及び入札順位等の情報を交換し協議した行為は2009年2月に終了しており、被告は該行為が公平交易法第14条第1項規定に違反していると認定し、2012年9月19日になってから原処分を以って原告を処分したため、明らかに行政罰法第27条第1項に定める3年を越えており、原処分はこの部分について前記行政罰法規定に違反するという誤りがある。
2. Dell社が2009年5、6月に行った光ディスクドライブ調達入札の部分:
原告とその他被処分者3社が2009年5、6月のDell社による光ディスクドライブ調達入札においても見積価格と落札順位等の情報を交換し協議して、競争を制限したと被告は認定しており、被告証拠20乃至25の書類証拠、原告の訴願書及びリニエンシー・ポリシー申請者が2012年8月24日に被告機関で陳述した記録をその依拠としている。ただし調べたところ、前述の各書類証拠は、いずれも原告とその他被処分者3社が2009年5、6月のDell社による光ディスクドライブ調達入札において、入札順位と価格等情報を交換し協議して競争を制限した状況が有ったと認定するには不十分である。被告がリニエンシー・ポリシー申請者による原告とその他被処分者3社に不利な一方的陳述のみを根拠として、原告には該回の調達入札において公平交易法第7条第1項で定める行為が有ったと認定することには、事実認定が証拠に基づいていないという違法がある。
一歩譲り、たとえ原告とその他被処分者3社が2009年5、6月のDell社による光ディスクドライブ調達入札において、被告が指摘する競争に関するセンシティブな情報の交換、協議の状況があったとしても、原処分におけるこの部分の事実認定の方法には以下の誤りがある。つまり被告は、HP社及びDell社のわが国PC市場における市場シェアを以って、被告が指摘する前述光ディスクドライブ調達入札における原告とその他被処分者3社の連合行為がわが国光ディスクドライブ市場の需給機能に対して及ぼした影響を算出したことには、誤りがある。また前述の内容に基づいて、Dell社が2009年5、6月に行った光ディスクドライブ調達入札に参加した事業者は、原告とその他被処分者3社以外にPioneer社がおり、被告はPioneer社が該回調達入札で落札したか、もし落札したのなら、その落札と配分された調達量はいかほどかを調べておらず、該回の調達入札のすべてを原告とその他被処分者3社が落札したと直接認めていることも正確ではない。さらに、被告証拠23、25の電子メールには、Dell社の今回の光ディスクドライブ調達はオンライン調達ではなく、双方の価格交渉によるもので、被告が、Dell社においてオンライン調達が同社の光ディスクドライブ調達源の90%を占めているとDell社自身が述べたことを根拠とし、被告が指摘している該回調達入札における原告とその他被処分者3社の連合行為がわが国にもたらす影響は「少なくともわが国PC総数の9%乃至9.5%を占める」と推算したことには同じく誤りがある。
さらに、被告が指摘している原告とその他被処分者3社が2009年5、6月のDell社による光ディスクドライブ調達入札において行った協議と競争制限については、たとえそのような事があったとしても、遅くとも調達入札の終了時である2009年6月には(上記の協議と競争制限も)終了しており、被告は2012年9月19日に原処分を以って処分した時、すでに3年の処分権有効期限を越えていたため、行政罰法第27条第1項の規定に違反している。
交易法第7条第1、2項に基づき、同一の生産、販売の段階において競争関係を有する水平事業者間で契約、協議又はその他の方式で、競争制限と事業活動の相互拘束の合意が達成され、且つこの合意が生産、商品の取引或いは役務の需給に関わる市場機能に影響するものであるとき、連合行為が成立する。これは同法第14条第1項前段に定められる事業者が連合行為を行ってはならないという行政法上の義務であり、その違反は、実際の市場機能への影響という結果が発生することを要件としていない。被告は該違法行為の処分権期間を、事業者間における公平交易法第7条第1項で定める違法行為が終了した日から起算すべきである。Dell社が2009年5、6月調達入札の落札価格を以って同年9月に原告とその他被処分者3社から光ディスクドライブを調達した時から処分権期間を起算すべきであると被告が主張することには、連合行為の要件ではない市場への影響の結果発生を処分権期間の起算点とするという誤りがあり、前述説明からみて採用できない。
以上の次第で、本件原告の請求には理由が有り、行政訴訟法第98条第1項前段に基づき、主文のとおり判決する。
2014年11月5日
台北高等行政裁判所第六法廷
裁判長 蕭惠芳
裁判官 陳姿岑
裁判官 鍾啓煒