公平交易委員会の主張「台塑、台化が独占的地位を濫用」が認められず敗訴確定
2016-04-27 2015年
■ 判決分類:公平交易法
I 公平交易委員会の主張「台塑、台化が独占的地位を濫用」が認められず敗訴確定
■ ハイライト
合一実業股份有限公司(Joint Union Enterprise Co Ltd、以下「合一公司」)は公平交易委員会(以下「公平会」)に対して、台湾塑膠工業股份有限公司(Formosa Plastics Corporation、以下「台塑公司」)と台湾化学繊維股份有限公司(Formosa Chemicals & Fiber Corp.、以下「台化公司」)が20年以上にわたる取引先である合一公司への原料供給を拒絶したとして通報した。同委員会は台塑公司等が市場における独占的地位を濫用したと認定して、それぞれ台化公司に300万新台湾ドル、台塑公司に200万新台湾ドル、合計500万新台湾ドルの過料を科した。台塑公司等が裁判所に提訴した後、公平会は連敗しており、最高行政裁判所の判決で敗訴が確定した。
II 判決内容の要約
最高行政裁判所判決
【裁判番号】104年度判字第53号
【裁判期日】2015年1月29日
【裁判事由】公平交易法
上訴人 公平交易委員会
被上訴人 台湾化学繊維股份有限公司(Formosa Chemicals & Fiber Corp.)
上記当事者間における公平交易法事件について、上訴人は2014年8月28日台北高等行政裁判所103年度訴字第187号判決を不服とし上訴を提起した。当裁判所は次のとおり判決する。
主文
上訴を棄却する。
上訴審訴訟費用は上訴人の負担とする。
判決理由の要約
一.上訴人は通報調査結果に基づいて、被上訴人が合一実業股份有限公司(以下「通報者」)に対する芒硝(訳注:硫酸ナトリウムの 10水塩 Na2SO4・10H2Oの俗称)の供給を打ち切った行為は、独占的事業者による「市場の地位を濫用する行為」に該当し、公平交易法(訳注:日本の独占禁止法や不正競争防止法に相当)第10条第4号規定に違反しているとして、同法第41条第1項前段規定により2013年8月2日付公処字第102118号処分書(以下「原処分」)を以って被上訴人に対し処分書送達の翌日から直ちに前項違法行為を停止するよう命じるとともに、300万新台湾ドルの過料に処した。被上訴人はこれを不服として行政訴願を提起したが、棄却されたため、その後行政訴訟を提起した。原審裁判所は103年度訴字第187号判決を以って訴願決定及び原処分を取り消す決定を行ったため、上訴人は不服とし、その後本件上訴を提起した。
二.原審は以下を以って口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果を斟酌している。
(一)独占的事業者そのものは違法ではなく、独占的事業者の不正行為の類型が公平交易法第10条有4号に規定されている。本件の争点は、被上訴人に原処分で指摘されているような公平交易法第10条第4号に定められる独占的事業者による「その他の市場の地位を濫用する行為」の構成が有るか否かにある。また行政罰の要件である事実の客観的証明責任は行政機関に帰すものである。上訴人はさらに被上訴人が独占的事業者による不正行為禁止規定に違反したとして過料に処している。即ち被上訴人行為が公平交易法第10条の構成要件に該当するか否かを、裁判所が職権により調査してその真偽が不明であった場合、その不利益は上訴人に帰すべきである。
(二)通報者が上訴人へ提出した通報書に基づいて、原処分は、被上訴人が通報者に対する芒硝の供給を打ち切った行為は、独占的事業者による市場の地位を濫用する行為であり、公平交易法第10条第4号の規定に違反していると認定しているが、通報者の通報書と被上訴人の主張を調べたところ以下の事が分かった。
1.通報者は通報書において、それと被上訴人との取引の支払方法は現金振込であり、さらに通報者は商品代を前払いしなければならず、支払い後に被上訴人は納品すると述べており、これは被上訴人が供述している両者の従来の取引方式と合致している。よって長年にわたる取引方式は先に現金振込で商品代を支払い、その後被上訴人が納品するというもので、被上訴人はその他の取引先とも同じ取引条件で行ってきていると述べており、この取引方式には法に合わないところがあるとは認め難い。
2.たとえ2012年7月被上訴人に対して発注しすでに商品代を支払ったにもかかわらず、被上訴人は一部の商品を納品しなかったという通報者の主張が事実だったとしても、被上訴人は通報者と長年にわたって取引があり、かつ被上訴人にはその他に取引先があり、2012年7月27日までに被上訴人はすでに通報者に729トンの芒硝を納品しており、その数量は被上訴人が2012年1月から同年7月までに通報者へ出荷した数量と比べて顕著な減少はなく、2012年7月27日以降、被上訴人は一部の商品(約50余トン)を一時的に通報者に納品できなかったのは事実であるが、これを被上訴人がその芒硝市場における独占的優位を利用し、通報者への供給を打ち切った違法行為であるとすぐに判断するのは、早計の嫌いがある。
3.被上訴人は通報者と長年にわたって取引関係にあり、もし被上訴人が一時的に納品できないならば、民事債務不履行に基づき被上訴人に契約履行を請求するか、又は別途契約履行の継続を要求するかすることができないわけではない。しかしながら通報者は被上訴人が約定通り契約を履行できなかった後も被上訴人に対して契約履行の継続の請求又は商品供給の継続の要求を行っておらず、1ヵ月近い時間が経ってから、即ち2012年8月24日直接上訴人に対して被上訴人には公平交易法違反があると通報している。被上訴人は2012年7月に上記のとおり一部の芒硝を出荷できなかったが、それはわずか一部分にすぎず、さらに被上訴人はそれが出荷できなかった原因が顧客間の出荷量のバランスを考慮したものであると説明しており、なおこれを以って被上訴人の通報者に対する芒硝供給打切りの状況があるとは認定し難い。
4.通報者は2012年10月17日に内容証明郵便を以って被上訴人800トンの出荷を要求したが拒絶されたため、被上訴人に芒硝供給打切りの状況があったと述べている。しかしながら、該内容証明郵便の内容から、通報者は内容証明郵便において被上訴人に対し商品を注文し、10月19日にはすでに50トンの商品代210,000新台湾ドルをすでに振り込んだことが示されているのみで、双方の取引方式によって行われていなかったことが分かる。つまり被上訴人は通報者が所定の注文書式を使用せず、取引情報が説明されていなかったため、被上訴人は取引内容が不明確である大量注文を受けることができず、内容証明郵便を発送し、生産販売スケジュールの関係で、該商品を提供することができない内容を伝えたことは証拠があると認められる。さらに、通報者が2012年8、9月に発注しておらず、同年10月中旬以降になって従来とは異なる方式で被上訴人に発注し、翌日から出荷することを要求しており、これは従来の取引方式に合致していなかった。さらに通報者は2ヵ月にわたり被上訴人に発注していなかったため、被上訴人には他の生産販売スケジュールがあったことも合理的である。被上訴人が供給に応えられなかったことは正当な理由が無かったとは言い難く、公平交易法保護の立法趣旨に対する違背とは認め難い。よって、上訴人が被上訴人と通報者との取引方式、及び被上訴人が独占的優位を利用して通報者への芒硝供給を悪意を以って打ち切った意図の有無について考慮せず、被上訴人の違法認定を性急に行った事は適法ではない。
(三)被上訴人は、通報者が被上訴人から芒硝を注文する時の取引方式について「発送予定表」に所望の規格、数量、出荷日、顧客名等の資料を記入しなければならず、被上訴人がそれによって始めて需要に応じて受注し出荷スケジュールを入れることを通報者は十分に知っていたと供述している。本件通報者は上訴人が2013年8月2日に行った原処分以降、自ら改めて従来の取引方式に則り「発送予定表」に記入して被上訴人に芒硝を注文しており、「発送予定表」の提出から被上訴人の供述は証拠とすることができる。つまり通報者が2012年10月に内容証明郵便で発注したことは、双方の取引における通常の状況に合致しているとは認め難い。よって原処分は通報者の書面による陳述のみで直接被上訴人に通報者に対する芒硝の供給打切りという市場の地位を濫用する意図と行為があったと直接推論したことは、推測憶測に該当し、証拠法則に反しており、適法とは認め難いことを理由として、訴願決定及び原処分をいずれも取り消す。
三.上訴人の上訴趣旨の内容は概ね以下の通りである:
(一)上訴人が制定した「公平交易委員会の公平交易法第24条案件に対する処理原則(訳注:現行の「公平交易委員会の公平交易法第25条案件に対する処理原則」)」第2点の趣旨からも分かるように、上訴人は「取引秩序に影響するに足りる」という前提があって始めて事業者が契約争議により関わった競争制限や不公正競争の行為に介入できる。上訴人は公平交易法を執行するものであり、事業者の私法契約争議の処理に直接干渉するものではなく、事業者の契約内容と争議が競争制限及び不公平競争の行為に関わるとき、上訴人は公平交易法により行政責任を追及してもよく、公平交易法違反の私法契約効力については、上訴人が処理すべきものではない。さらに独占的事業者の供給打切り行為を認定するときは、独占的事業者に関しては強大な市場の地位を有するため特殊な義務を課して、その契約締結の自由関連の減縮を行うべきであるという競争法の目的を全般的に考慮すべきであり、従来の民事契約法及び私法契約自由原則のみを以って評価すべきものではない。また独占的事業者による正当な理由のない「供給拒絶」行為は、市場競争の秩序に影響する又は損なうに足るもので、明示的、黙示的、又は意思表示をしない場合を問わず、一時的又は長期的な供給拒絶はいずれも供給拒絶行為を構成する。業者が「意思表示をしたことがない」又は「後日の供給する可能性を排除しない」ことを理由として「供給拒絶」を構成しないと認定することはない。本案の原処分が非難する対象は当初から、通報者と被上訴人との間の「芒硝の受渡による債務紛争」という私権争議ではなく、「被上訴人の通報者に対する芒硝供給打切りの行為が独占的事業者による市場の地位を濫用する行為に該当すること」である。しかしながら原判決は民事契約履行の角度からのみ評価して被上訴人に別の生産販売スケジュールがあることは合理的であると認定し、被上訴人の供給拒絶行為は「正当な商業的理由」に該当すると誤認しており、当事者双方の市場における力量が特殊であることを無視し、公平交易法の規範特性及び法理を顧みないものである。また、民事債務の不履行を以って係争の「独占的事業者の供給拒絶」の行為を解釈している。原判決では通報者が従来の取引方式に従わず、取引情報を記載していないため、民法の形式上の契約申込みの概念を以って競争法行為違反を解釈しており、その認定は明らかに「供給拒絶」の意味を誤解していること等は、いずれも法令適用が不適切であるという誤りがある。
(二)被上訴人の通報者にする芒硝の供給打切りは独占的事業者による市場の地位を濫用する行為に該当し、公平交易法第10条第4号規定に違反している。
1.2011年に被上訴人は国内で唯一の芒硝製造者であった。上訴人の産業データベースによると、その販売額が国内市場販売総額(芒硝の輸入総額を含む)に占める割合は76.49%であり、1位だった。一方、被上訴人の原審起訴状内容によると、芒硝の中国大陸地区からの輸入量を加えると、被上訴人の2011年国内芒硝市場における市場シェアは73.26%に達している。(上記の)異なる情報出所に基づいて、国内の芒硝輸入状況を併せて考慮しても、いずれも2分の1以上に上っており、公平交易法第5条の1規定により、被上訴人は2011年に国内芒硝市場において独占的事業者であった。
2.また被上訴人はビスコースステープルファイバー(訳注:芒硝はビスコースステープルファイバー生産時に生じる副産物)減産に対応して、芒硝の生産販売スケジュールを調整しなおす必要があり、一時的に芒硝を通報者に提供できなかった云々と供述している。しかしながら被上訴人の2011年及び2012年の月別芒硝生産量をみると、2012年8月(被上訴人は2012年8月1日から通報者に対する芒硝販売を停止している)から被上訴人の芒硝生産量はいずれも前年同月を上回っており、2012年に被上訴人が芒硝の供給を減少した状況はみられない。また被上訴人は2012年8月1日以後なお芒硝をその他の主な取引相手方に販売し続けており、合禮企業股份有限公司(販売量は2011年比で1,963トン増、つまり25.68%増)、三徳企業股份有限公司(販売量は2011年比で1,438トン増、つまり28.46%増)、台塑生医股份有限公司及び台湾玻璃工業股份有限公司等の事業者が含まれ、その他の取引相手方に対して生産販売スケジュールの調整により芒硝の販売を停止しておらず、通報者に対してのみこれを理由に納品を打ち切ったことは独占的事業者による優位な立場の濫用を具体的に表すものである。しかしながら原判決は「被上訴人がいう生産販売スケジュールの調整という要因を、上訴人は究明していない」とし、また採用しない理由も説明していないため、明らかに法令違背がある。
3.また被上訴人は、通報者が2012年10月18日に発送した内容証明郵便の内容に基づいて芒硝800トンを販売しなかったのは、通報者の注文量が多すぎる上、所定の注文書式によるものではなかった云々と主張している。しかしながら被上訴人は2011年に月平均で734.25トンを通報者に販売しており、2012年7月も被上訴人は729トンの芒硝を通報者に販売しているため、800トンの発注量は非合理的ではない。内容証明郵便に芒硝の規格や納品先等の資料が記載されておらず、被上訴人は生産販売スケジュールの調整を理由に受注を一方的に拒絶したが、原判決は「通報者は2ヵ月にわたり被上訴人に発注していなかったため、被上訴人には他の生産販売スケジュールがあったことも合理的である。公平交易法保護の立法趣旨に対する違背とは認め難い」としており、これは公平交易法第10条第4号の独占的事業者の不正行為を禁止する立法趣旨を誤解しているもので、法令適用の不適切及び判決の理由不備という誤りが明らかに有る。
(三)また被上訴人の「供給拒絶」の行為は、通報者が内容証明郵便で納品を要求した時に初めて発生したものではなく、本件被上訴人による供給打切りの行為は2012年7月28日すでに発生している。通報者が2012年10月18日に内容証明郵便で被上訴人に対して芒硝800トンを発注し、被上訴人に対して翌日に出荷するよう要求したのは、通報者が双方の芒硝取引過程に未熟であるということではなく(2012年7月までに双方は27年近く取引している)、通報者は被上訴人が2012年7月28日に電話で一時的に芒硝を提供できないと通知して以来なお出荷を停止しているのか否かを確認するためのものであり、即ち被上訴人の供給拒絶行為に正当な商業的理由があるか否かを論じる時、基準点は被上訴人が内容証明郵便に返信した時点ではない。原審はこの論理の誤りに気付かず、正当な商業的理由、取引の慣例等無関係な理由を本案の事実に誤って適用しており、原判決には明らかに法令適用が不適切であるという誤りがあり、包摂過程も論理法則に違反していること等により、原判決の破棄と、訴願決定及び原処分の維持を請求する。
四.当裁判所が調べたところ、原判決が上訴人の請求を棄却したことは法に合わないところがない。ここに上訴の趣旨について以下の通り論断する。
(一)行政罰要件である事実の客観的証明責任は行政機関に帰す。
(二)商品の売買は双方の意思表示が合致して始めて成立する契約行為である。被上訴人は顧客と芒硝の取引に従事し、顧客は先に現金振込をしなければならない他、所定の書式の「発送予定表」に所望の規格、注文量、出荷日、納品先名称等の資料を記入し、電子メール又はファクシミリで「発送予定表」を被上訴人に提出しなければならず、それによって被上訴人は通報者の要求に基づき受注を確認して出荷スケジュールを組むことができる。上訴の趣旨に、通報者は2012年10月18日に内容証明郵便で被上訴人に対して芒硝800トンを発注し、被上訴人に対して翌日に出荷するよう要求したことは、通報者が双方の芒硝取引過程に未熟であるということではなく(2012年7月までに双方は27年近く取引している)、通報者は被上訴人が2012年年7月28日に電話で一時的に芒硝を提供できないと通知して以来なお出荷を停止しているのか否かを確認するためのものである云々と指摘しており、通報者の上記内容証明郵便が長年にわたる取引方式で被上訴人に対し契約に基づき発注したものではない事実を証明している。さらにこのような被上訴人と顧客との間における芒硝取引で行われる約定及び慣行は、公平交易法第1条に示されている「取引秩序と消費者利益を保護し、公正な競争を確保し、経済の安定と繁栄を促進する」という立法趣旨に違背するものではなく、売り方が独占的な市場の地位にあるからといって、無条件で(契約締結の自由関連の)減縮を強制する理由はない。
(三)係争原処分を参照すると、通報者が主張する被上訴人が2012年7月末現在で通報者に対し相当の価値の化学原料が未納であることについては、当事者間の私権争議であり、司法による解決が望ましく、公平交易法とは関わりがない。被上訴人が通報者に現金振込で商品代を前払いするよう要求することは、事業者の営業の自由の範疇だといえる。さらに調べたところ、前記の「商品代支払い後に出荷」の方法が通報者に対する差別待遇であり、取引条件を濫用する行為があったと認定できる具体的証拠はなく、公平交易法が問うものでもない(原審ファイル29ページを参照)。したがって、通報者が述べる被上訴人の「商品代支払い後に出荷」という要求は、原処分を行う依拠及び理由とはならない。したがって、被上訴人が2012年7月末現在で通報者に対し50トンの芒硝が未納であり、7月27日に電話で一時的に供給ができないと通知したことは公平交易法とは関わりがなく、双方のこの係争に関する主張及び抗弁は原処分とは無関係であり、上訴の理由とすることはできないことを、ここに併せて述べる。
(四)被上訴人と通報者との芒硝取引については、2012年7月末被上訴人が通報者に出荷した後、通報者は同年8、9月に被上訴人に対して発注しておらず、その後通報者は2012年10月17日に内容証明郵便で被上訴人に発注し、被上訴人に対して翌日(18日)から800トンの芒硝を供給するよう要求したが、上記の振込による先払いと「発送予定表」における発注の製品規格、出荷工場、納品の期日と場所等の記載という取引方式に則っていなかった。被上訴人は通報者が所定の注文書式を用いず、発注の製品規格、出荷工場、納品の期日と場所を説明していないため、不明確な取引を受理できず、内容証明郵便で生産販売スケジュールを理由に該製品を供給できないと通報者に返答している。さらに通報者は2012年10月23日内容証明郵便で被上訴人に、同年10月19日に210,000新台湾ドルを振り込み、上記800トンの注文の中の50トン分の商品代を支払ったため、被上訴人に出荷するよう請求したが、通報者はなおも上記「発送予定表」を記載する方式を用いておらず、被上訴人も内容証明郵便で別に生産販売スケジュールがあり該注文申込みを受理できないので、その振込額を通報者へ返金すると返答した等の状況は、原判決が証拠調べの弁論結果によって確定した事実である。原判決は、通報者が2012年8、9月いずれも被上訴人に発注しておらず、被上訴人は当然商品を供給できず、通報者が同年10月中旬以降になって以前とは異なる取引方式で発注し、翌日からすぐに供給することを要求したのは確かに従来の取引方式とは異なり、且つ通報者が2ヵ月間被上訴人に発注してことにいないため、被上訴人が別の生産販売スケジュールが入っていると述べることは合理的であり、従って、被上訴人が注文を受けられなかったことに正当な理由がなかったとは言い難く、法に合わないところはない。次に被上訴人が顧客と行っている芒硝の取引を調べると、顧客は明確に所定の書式がある「発送予定表」に所望の規格、注文量、出荷日、納品先名称を記入し、電子メール又はファクシミリで「発送予定表」を被上訴人に提出しなければならないことは前述のとおりである。このような売買契約の要式はすでに長年にわたる取引方式であり、従わない道理はない。上訴人はこれにより被上訴人には通報者に対して芒硝供給を打ち切った状況があると認定しているが、これは被上訴人と通報者の長年にわたる契約自由の本旨に合わないだけではなく、さらにこのような売り手に対する長年の取引方式に合わない契約申込みは先に(売り手が)買い手に補正を請求して始めて供給の義務を拒絶できるという関連の規範を、上訴人が根拠として提出しておらず、上訴人のこの主張は採用できない。
(五)通報者の2012年10月17日及び23日付内容証明郵便による芒硝の注文については、通報者が長年の取引方式に則った注文申込みを行っていない上、通報者は送達の翌日から800トンを納品するよう要求しており、被上訴人には別の生産販売スケジュールが入っていたことにより、上記契約申込みを受理できなかったは前述のとおりである。通報者が確かに2012年8、9月いずれも被上訴人に対して発注していなかったことは争わない事実であることは前述の通りである。上訴の趣旨で述べられているようなその他の主な取引相手方に対する販売量がいずれも増加していることは、被上訴人がいう別の生産販売スケジュールがあることを証明できるもので、虚偽ではない。確かに上訴人が述べるとおり、被上訴人が出荷したその他の対象は主な取引相手先でもある。その地位は通報者と比べて特別ではなく、被上訴人がその他の主な取引相手先に供給するとき、一般的な状況から斟酌して、上記の主な取引相手先も長年の取引方式に則って注文申込みを行わないと、被上訴人は商品供給を承諾しないはずである。上訴人は被上訴人がその他の主な取引相手先に供給するときに被上訴人がその他の取引相手方による長年の取引方式に則らない契約申込みについて特別に供給を承諾したという関連の証拠を提出しておらず、被上訴人が通報者による取引方式に則らない契約申込みに対して商品供給を承諾することを拒絶したことだけで、被上訴人に独占的事業者として市場の地位を濫用する行為が有ったと認定したことには根拠がない。
(六)被上訴人が2012年7月27日通報者に電話で「一時的に芒硝を供給できない」と通知したことは、2012年7月末現在で被上訴人が50トンの芒硝を未納である部分についての返答であり、被上訴人が上記50トンの芒硝を一時的に提供できない状況は原処分によって当事者間の私権争議であると認定されており、司法による解決が望ましく、公平交易法とは関わりがないことだと認定されたのは前述の通りで、被上訴人が市場の地位を濫用したと認定する理由の一つとはできない。通報者が2012年10月18日に内容証明郵便で被上訴人に対して芒硝800トンを発注したことは、被上訴人が2012年7月28日に電話で芒硝を供給できないと通知して以来なお供給を停止しているかどうかを確信するためのものであるということについては、通報者の上記内容証明郵便が長年の取引方式に則り被上訴人に対して契約に基づいて発注したものではなく、且つその真意が契約申込みではなく、通報者は契約申込みを提出していないのと同じであり、被上訴人に商品供給を承諾する義務がないことは明らかで、上訴の趣旨が、被上訴人がこれ以降通報者に対して商品を供給をしないと判断した通報者の主観的憶測を以って被上訴人による市場の地位の濫用に対する論拠とすることは、明らかに採用するに足りない。
(七)最後に被上訴人が通報者に商品を供給せず、通報者は被上訴人の取引相手先から間接的に芒硝を入手し、川下業者に販売し続けたものの、その後芒硝の販売量の減少により通報者の取引コストとリスクが高まり、通報者が国内芒硝市場での競争に参加するのを排除する可能性が大幅に高まったことは、経験の法則から斟酌して信用できる。しかしながらこの結果は通報者が長年にわたる取引方式に則った注文申込みを行わなかったことでもたらされたもので、その原因は通報者自身にあり、被上訴人にその責任を負わせることはできない。被上訴人による取引拒絶は通報者に損害を与えることを目的としたものだという上訴人の指摘は明らかに根拠がないもので、採用できない。
(八)以上をまとめると、本件被上訴人が通報者による従来の取引方式に則らない契約申込みに対して後日の「供給打切り」行為を行っておらず、通報者による従来の取引方式に則らない契約申込みに対して「今回の契約申込みに対して供給を拒絶する」とのみ意思表示したものであり、上訴人の原審における主張がいかに採用できないかの証拠の取捨判断等については、原判決はいずれも詳細に論断しており、その法規の適用と本件が適用すべきものに違背はなく、判例解釈とも抵触がなく、法規の不適用や適用法規の不適切という法令違背の状況はない。上訴人の上訴は原審において提出したが採用されなかった主張を繰り返すもの、又は自己の異なる法律見解であり、理由がなく、棄却すべきである。
五.以上の次第で、本件上訴には理由がない。行政訴訟法第255条第1項、第98条第1項前段により、主文のとおり判決する。
2015年1月29日
最高行政裁判所第四法廷
裁判長 侯東昇
裁判官 江幸垠
裁判官 沈應南
裁判官 楊得君
裁判官 闕銘富
III 判決内容の要約
最高行政裁判所判決
【裁判番号】104年度判字第54号
【裁判期日】2015年1月29日
【裁判事由】公平交易法
上訴人 公平交易委員会
被上訴人 台湾塑膠工業股份有限公司
上記当事者間における公平交易法事件について、上訴人は2014年8月28日台北高等行政裁判所103年度訴字第223号判決を不服とし上訴を提起した。当裁判所は次のとおり判決する。
主文
上訴を棄却する。
上訴審訴訟費用は上訴人の負担とする。
判決理由の要約
一.上訴人は以前の通報調査報告に基づいて、被上訴人は合一実業股份有限公司(以下「通報者」)に対して苛性ソーダを販売する原料メーカーであり、国内苛性ソーダ市場における独占的地位を利用して、正当な商業的理由なくして通報者に対する苛性ソーダの供給を一方的に打ち切ったことは、独占的事業者による「市場の地位を濫用する行為」に該当し、公平交易法第10条第4号規定に違反するため、同法第41条第1項前段規定により2013年8月2日付公処字第102119号処分書(以下「原処分」)を以って被上訴人に対し処分書送達の翌日から直ちに前項違法行為を停止するよう命じるとともに、200万新台湾ドルの過料に処した。被上訴人はこれを不服として行政訴願を提起したが、棄却されたため、その後行政訴訟を提起した。原審裁判所は103年度訴字第223号判決を以って訴願決定及び原処分を取り消す決定を行ったため、上訴人は不服とし、その後本件上訴を提起した。
二.原審は以下を以って口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果を斟酌している。
(一)独占的事業者そのものは違法ではなく、独占的事業者の不正行為の類型が公平交易法第10条有4号に規定されている。本件の争点は、被上訴人に原処分で指摘されているような公平交易法第10条第4号に定められる独占的事業者による「その他の市場の地位を濫用する行為」の構成が有るか否かにある。また行政罰の要件である事実の客観的証明責任は行政機関に帰すものである。上訴人はさらに被上訴人が独占的事業者による不正行為禁止規定に違反したとして過料に処している。即ち被上訴人行為が公平交易法第10条の構成要件に該当するか否かを、裁判所が職権により調査してその真偽が不明であった場合、その不利益は上訴人に帰すべきである。
(二)通報者が上訴人へ提出した通報書に基づいて、原処分は、被上訴人が通報者に対する化学原料の供給を打ち切った行為は、独占的事業者による市場の地位を濫用する行為であり、公平交易法第10条第4号の規定に違反していると認定しているが、通報者の通報書と被上訴人の主張を調べたところ以下の事が分かった。
1.通報者は通報書において、それと被上訴人との取引の支払方法は現金振込であり、さらに通報者は商品代を前払いしなければならず、支払い後に被上訴人は納品すると述べており、これは被上訴人が供述している両者の従来の取引方式と合致している。よって長年にわたる取引方式は先に現金振込で商品代を支払い、その後被上訴人が納品するというもので、被上訴人はその他の取引先とも同じ取引条件で行ってきていると述べており、この取引方式には法に合わないところがあるとは認め難い。
2.被上訴人は、通報者との取引方式は従来どおり四半期毎に契約を締結しており、通報者は近年(契約で約定した量に対して)実際に履行(消化)した量が深刻に不足していることについては、いずれも被上訴人と通報者の間で締結された販売確認書で確認でき、被上訴人の供述には根拠があると認定できる。即ち被上訴人の主張の採用の可否については、上訴人による調査、審査、認定が必要であるが、上訴人は更なる査証をせずに被上訴人が係争化学材料の供給を拒絶した行為は明らかに正当な商業的理由がないと認定している云々、と主張している。これは事実認定が証拠に基づいていないという誤りがあり、さらに行政程序法(行政手続法)第9条及び第36条に違反している。また通報者が確かに(契約量を)十分に消化していないのであれば、被上訴人が商業的な考慮から、すでに締結した契約を履行した後、第4四半期に一時的に通報者と契約を継続しないと決定することは公平交易法の立法趣旨に違背しているとは言い難い。さらにファイルには通報者が被上訴人に対して提出した2012年度第4四半期契約書の証明書類がなく、被上訴人は第3四半期の契約満了が間近であるときに通報者は従来どおり翌四半期の契約申込みを行わなかったということであり、被上訴人は言うまでもなく承諾できず、よって被上訴人が第4四半期により適当な販売業者を捜したり輸出を計画したりすることは、正常で合理的な商業的考慮であり、市場の地位の濫用ではなく、合理的である。
3.通報書において、通報者は2012年10月17日に内容証明郵便で被上訴人に対して苛性ソーダ(フレーク状)300トン、苛性ソーダ(液体)50トン、及び苛性ソーダ(ビーズ状)50トンを発注し、翌日出荷するよう要求し、さらに同月23日に再び内容証明郵便で被上訴人に同月25日に出荷するよう要求したが拒絶され、被上訴人には供給打切りの状況があると述べている。しかしながら、該内容証明郵便の内容から、通報者が双方の定めている予約注文方式に則って行っておらず、2012年第4四半期が始まる前月の14日以前に提出しなかったため、被上訴人は内容証明郵便で双方の契約関係は2012年9月30日(即ち第3四半期販売確認書の期間満了時)に消滅しており、別に生産販売スケジュールがあるため、一時的に製品を通報者に供給する計画はない云々と返答しており、これは合理的であり、採用すべきである。
(三)通報者は2012年11月から上訴人による原処分の処分日(2013年8月2日)までの間に被上訴人に対して苛性ソーダを注文しておらず、ファイルにも被上訴人がこの期間内に通報者に対する苛性ソーダの販売を拒絶したという如何なる事実証拠もなく、通報者は被上訴人が再び供給しないと主観的に判断して発注しなかったため、確かに被上訴人に供給拒絶の意図と行為があったとは認め難い。被上訴人が2012年10月1日から通報者に対する苛性ソーダの販売を中止し、原処分まで供給を再開しておらず、その期間は10ヵ月に及ぶ等と上訴人が認めたことも根拠がない。さらに被上訴人は、通報者との苛性ソーダ取引方式は「販売確認書」及び取引情報を記入することになっており、それによって被上訴人は受注及び出荷を確認でき、通報者はそれを熟知しているはずである。しかしながら通報者は2012年第3四半期契約が満了となる以前に第4四半期の契約を結んでおらず、2012年10月に内容証明郵便で直接被上訴人に対して発注し、すぐに出荷するよう要求しており、双方の正常な取引状況であるとは確かに認め難く、被上訴人の拒絶が公平交易法第10条第4号規定に違反しているとは認め難い。原処分は通報書のみによって行われ、被上訴人の主張の採用の可否を調査して明らかにせずして、被上訴人が通報者に対する苛性ソーダの供給を拒絶したという市場の立場を濫用する意図と行為があったと推論しており、これは推測に該当し、証拠法則に反し、適法とは認め難いことを理由として、訴願決定及び原処分をいずれも取り消す。
三.上訴人の上訴趣旨の内容は概ね以下の通りである:
(一)独占的事業者の供給打切り行為を認定するときは、独占的事業者に関しては強大な市場の地位を有するため特殊な義務を課して、その契約締結の自由関連の減縮を行うべきであるという競争法の目的を全般的に考慮し、従来の民事契約法及び私法契約自由原則のみを以って評価すべきものではない。また独占的事業者による供給拒絶の行為、特に長期に取引がある既存の顧客に対する供給拒絶の行為は、独占的地位を濫用する行為と推定されるべきであるため、先進各国では立法上及び法執行上のいずれにおいても「供給拒絶」又は「取引拒絶」を以って独占的事業者が市場の独占的立場を濫用する典型的な反競争行為として厳格に規範されている。また独占的事業者による正当な理由のない「供給拒絶」の行為は、市場競争の秩序に影響する又は損なうに足るもので、明示的、黙示的、又は意思表示をしない場合を問わず、一時的又は長期的な供給拒絶はいずれも供給拒絶行為を構成し、業者が「意思表示したことがない」又は「後日の供給する可能性を排除しない」ことを理由として「供給拒絶」を構成しないと認定することはない。本案の原判決が民法の概念を以って競争法に違反する係争行為を解釈することは、即ち競争法の「独占的事業者の供給拒絶」行為が規範される意味と認定に対して誤解がある。また形式上の契約申込みの存否のみを以って被上訴人の供給拒絶行為を否定することは供給拒絶の意味を誤解するもので、適用法令の解釈に誤りがある。さらに原判決は、被上訴人の供給拒絶行為が「正当な商業的理由」に該当すると誤認しており、公平交易法の規範特性及び法理を顧みないものであり、事実認定は論理法則に反し、いずれも法令適用が不適切であるという誤りがある。
(二)被上訴人は原審の調査過程において、「通報者が(契約で約定した量に対して)実際に消化した量が不足していること等の要因により2012年10月1日から苛性ソーダ(フレーク状)、苛性ソーダ(ビーズ状)、苛性ソーダ(液体)の販売を停止することを『決定』した」という供述事実を認め、関連の事実証拠を提出しており、これから被上訴人が「自ら」供給を拒絶したことを証明でき、被上訴人がその後述べているように通報者の契約申込みを受け取っていないため契約の成立に至らなかったということではない。しかしながら原判決はこれを斟酌しておらず、明らかに判決の理由不備と重要証拠を斟酌していないという誤りがある。
(三)さらに訴外人の台湾化学繊維股份有限公司は2012月7月27日から通報者に対する芒硝の販売を停止しており、訴外人の台塑生医科技股份有限公司は同年8月1日から通報者に対するスルホン酸、スルホン酸ナトリウム及びSLES等化学原料3品目の販売を停止している。本案被上訴人は同年10月1日から通報者に対する苛性ソーダ(フレーク状)、苛性ソーダ(ビーズ状)、苛性ソーダ(液体)、プラスチックペレット、炭酸カルシウム、TAICAL(炭酸カルシウムマスターバッチ)等6品目の化学原料の販売を停止している。訴外人の南亞塑膠工業股份有限公司は同年10月1日から通報者に対する可塑剤の販売を停止している。また、本案被上訴人、台湾化学繊維股份有限公司、台塑生医科技股份有限公司、南亞塑膠工業股份有限公司等は同じく台塑グループの事業群メンバーであり、これらの事業者は近い時期に通報者に対する係争化学原料の販売を停止しており、通報者が長期にわたって化学原料を主な販売品目としてきたため、通報者自身が短期期間に契約継続を中止したり、自ら商機を断ち切ったりする理由があるとは考え難い。原判決はこれを察せず、直接契約申込書の存否という一つの事実だけを以って被上訴人の供給拒絶の事実を否定しており、さらに上訴人が提出した証拠を斟酌しておらず、重要な証拠の審理不尽、判決の理由不備という違法と事実認定の論理則及び経験則の違反がある。
(四)本件被上訴人の「供給拒絶」行為は、通報者が内容証明郵便で出荷を要求した時に初めて発生したものではなく、すでに2012年第3四半期に発生している。被上訴人の供給拒絶行為に正当な商業的理由があるか否かを論じる時、基準点は被上訴人が第4四半期に内容証明郵便に対して返信した時点ではない。通報者は2012年10月17日に内容証明郵便で被上訴人に対して発注し、被上訴人に対して翌日に出荷するよう要求しており、通報者は同月23日に内容証明郵便で被上訴人に同月25日に出荷すること等を要求している。また通報者が双方の苛性ソーダの取引過程に未熟であるということではなく(双方は26年近く取引している)、通報者が被上訴人になお出荷を停止しているを確認するために行ったものである。原判決はこの論理の誤りに気付かず、取引の慣例に違反していること、別に生産販売スケジュールがあること等の無関係な理由を本案の事実に誤って適用しており、(原判決には)明らかに法令適用が不適切であるという誤りがあり、包摂過程も論理法則に違反していること等により、原判決の破棄と、訴願決定及び原処分の維持を請求する。
四.当裁判所が調べたところ、原判決が上訴人の請求を棄却したことは法に合わないところがない。ここに上訴の趣旨について以下の通り論断する。
(一)行政罰要件である事実の客観的証明責任は行政機関に帰す。
(二)商品の売買は双方の意思表示が合致して始めて成立する契約行為である。通報書によると、通報者は1985年から被上訴人と苛性ソーダの取引に従事してきた。通報者は先に商品代を現金振込しなければならない他、従来どおり四半期毎に契約を締結し(即ち、四半期開始日の前月14日以前には、翌四半期の販売確認書という契約申込みを提出しなければならず、それに毎月の契約量を記載して被上訴人が承諾するか否かの審査に供し、それによって被上訴人は始めて貨物を供給するものである。被上訴人が原審にて提出したそれと通報者との間で交わした2012年6月11日付販売確認書を調べると、通報者が被上訴人と約定した商品名規格、内容、価格、配送条件、配送期限、包装等が明記され、さらに「遅くとも6月14日までに返送していただきたい」等内容が記載されている。被上訴人はその他の顧客とも販売確認書を使用している事実を斟酌し、原判決では、通報者が被上訴人から苛性ソーダを購入したければ、先に現金振込を行い、かつ従来どおり四半期毎に契約を結ぶ必要があることは信用でき、法に合わないところはないと認定された。このような被上訴人と顧客との間における苛性ソーダ取引で行われる約定及び慣行は、公平交易法第1条に示されている「取引秩序と消費者利益を保護し、公正な競争を確保し、経済の安定と繁栄を促進する」という立法趣旨に違背するものではなく、売り方が独占的な市場の地位にあるからといって、無条件で(契約締結の自由関連の)減縮を強制する理由はない。
(三)係争原処分を参照すると、通報者が主張する被上訴人が2012年7月末現在で通報者に対し相当の価値の化学原料が未納であることについては、当事者間の私権争議であり、司法による解決が望ましく、公平交易法とは関わりがない。被上訴人が通報者に現金振込で商品代を前払いするよう要求することは、事業者の営業の自由の範疇だといえる。さらに調べたところ、前記の「商品代支払い後に出荷」の方法が通報者に対する差別待遇であり、取引条件を濫用する行為があったと認定できる具体的証拠はなく、公平交易法が問うものでもない。したがって、通報者が述べる被上訴人の「商品代支払い後に出荷」という要求は、原処分を行う依拠及び理由とはならないことを、ここに併せて述べる。
(四)調べたところ、被上訴人と通報者との間で交わされた2012年第3四半期契約履行期間は2012年7月から9月までであり、被上訴人はいずれも契約どおり納品していることは、ファイルに附されている販売確認書で証明できる。さらに上訴人の訴訟代理人は原審の審理において、「通報者は9月以前に原告(ここでは被上訴人)が供給を拒絶した証拠を提出しておらず、被告(ここでは上訴人)も提出できず、通報者が原告にとってそれらの化学原料の取引相手方であり、原告から購入する需要があり続けるだろうと被告は推論している」こと等を認めている。これに基づき通報者が2012年8月24日通報書を以って被上訴人がそれに対する苛性ソーダ供給を打ち切ったと通報した事、及び原処分で述べられている通報者が2012年9月15日にはすでに被上訴人がそれに対する苛性ソーダの販売を停止することを知っていた事は、被上訴人が上記期日において通報者に対する苛性ソーダ供給をなおも提供し続けていた上、通報者が上訴人に通報した時、被上訴人と通報者は第3四半期にあり取引進行中でもあったため、被上訴人が苛性ソーダの供給を打ち切った状況は発生していない。
(五)次に調べたところ、通報者が2012年第3四半期の契約が満了となる以前に、約定期限内に被上訴人に対して署名した2012年第4四半期契約書を提出していないという証明資料について、上訴人の訴訟代理人は原審での審理において、「通報者は第4四半期の販売確認書を提出したと述べているが、原告は第4四半期の販売確認書を受け取っていないと主張しており、双方の主張が食い違う中、被告は通報者が原告にとってそれら化学原料の主な取引相手方であり、それには原告から購入し続ける需要があると推論できる」等と述べている。この種の推論は通報者が被上訴人に対して2012年大四半期に苛性ソーダ購入の契約申込みを提出した証拠とすることはできない。被上訴人は通報者が従来のスケジュールどおり、四半期開始前月の14日以前に翌四半期の契約申込みを提出しておらず、被上訴人は言うまでもなく承諾できず、よって被上訴人がより適当な販売業者を捜したり輸出を計画したりすることは、正常で合理的な商業的考慮であり、市場の地位の濫用ではない等と原判決が認定したことは、調査により法に合わないところはない。上訴の趣旨は被上訴人と通報者の取引期間が26年に達しており、通報者がスケジュールどおり販売確認書を提出したか否かを勝手に判断することは無関係の推論であり、根拠がないものである。
(六)さらに調べたところ、通報者は2012年10月17日に内容証明郵便で被上訴人に対して苛性ソーダ(フレーク状)300トン、苛性ソーダ(液体)50トン、及び苛性ソーダ(ビーズ状)50トンを発注し、翌日出荷するよう要求し、同月23日に再び内容証明郵便で被上訴人に同月25日に出荷するよう要求している。しかしながら、該内証明郵便の内容から分かるように、通報者が従来の取引方式で行っておらず、2012年第4四半期開始の前月14日以前(2012年9月14日以前)に販売確認書を提出しなかった。原判決は、通報者のこの行為は完全に被上訴人がすでに定めていた当月の生産販売計画を全く配慮しておらず、被上訴人は通報者に返答した内容証明郵便で、それと通報者との間では四半期毎に販売確認書を以って取引を行っているが、双方の契約関係は2012年9月30日(即ち第3四半期販売確認書の期間満了時)に消滅しており、別に生産販売スケジュールがあるため、一時的に製品を通報者に対して供給する計画はない云々と記載しており、これは合理的であり、採用すべきである。被上訴人が供給に応えられなかったことに正当な理由がなかったとは言い難く、商慣習において注文の申込みを拒絶する正当な理由があったと認められ、法に合わないところはない。前述の被上訴人が通報者に返信した内容証明郵便は2012年10月17日及び23日に従来の取引方式で行わなかった注文の申込みのみを拒絶したものであり、通報者が後日提出する個別の注文を排除すること又は供給を打ち切ることを表明したものではなく、つまり被上訴人が通報者の内容証明郵便による注文を拒絶したことは、単に通報者が従来の方式で購入申込みをしなかったことにより供給を「停止する」意思表示にすぎず、なおもこれを被上訴人が「供給打切り」を行った証拠とは認められず、被上訴人には通報者に対する苛性ソーダ供給打切り行為があったと原処分がにわかに認定したことには独断の嫌いがある、と原判決は認定しており、調査した結果法に合わないところはない。さらに本件通報者が2012年11月から上訴人による原処分(2013年8月2日)までの間、被上訴人に対して苛性ソーダの発注をしていないことは、双方が争うところではなく、原判決が確定した事実である。また、被上訴人が2012年11月から2013年8月までの間に通報者に対する苛性ソーダ販売拒絶を行ったいかなる証拠もなく、被上訴人が2012年10月1日に通報者に対する苛性ソーダ販売を停止し始めてから上訴人が本案について処分を行うまでの間に供給が再開されず、10ヵ月以上に達した、とする上訴の趣旨における主張も証拠がない。
(七)被上訴人と通報者の間の「販売確認書」には毎月の出荷量が記載され、売買双方はいかなる事情があろうとも契約により契約量をすべて提供・消化しなければならないと約定されているが、通報者の契約量の未消化の状況は年々悪化し続け、(未消化の割合は)2010年の14%から2012年の21%へ上昇し、他社の4%未満と比べると、通報者の未消化の状況は被上訴人のすべての取引相手方の中で最も深刻なものであり、企業統治原則に基づき、在庫と値下がりのリスクを回避するため、通報者との販売確認書の内容を検討して経営効率を高める必要があったこと等の状況があった。しかし調べたところ、契約に基づいて苛性ソーダが注文されなかったことは、被上訴人は寧ろ苛性ソーダをその他の顧客に提供してもよく、通報者に提供したくない主な要因だったが、通報者は2012年10月1日から原処分日まで被上訴人に対して30年来約定してきた取引方式に基づき苛性ソーダを注文しておらず、被上訴人は通報者に対してその注文の義務と可能性を一方的に請求していない。したがって上訴人は、通報者による苛性ソーダの契約購入量が未消化だったという被上訴人の主観的嫌悪の意思を以って、被上訴人と通報者の間で2012年10月1日以降苛性ソーダの取引がなかったのは、即ち、被上訴人が供給を打ち切るという市場の地位を濫用したものであると上訴人が認定したことは、相当の因果関係を示す証拠が欠けている。いいかえると、もし通報者が2012年10月1日から従来の取引方式で被上訴人に対し苛性ソーダを注文して、通報者がかつて契約に基づいて苛性ソーダの購入量を消化しなかった記録を理由に被上訴人供給を拒絶したならば、それは市場の地位を濫用するものといえる。上訴人が通報者の主観的憶測のみに基づいて被上訴人がこのために供給を停止したことに正当な商業的な理由はないと直ちに認定しており、その事実認定は証拠を根拠としていない誤りがあり、被上訴人に有利な事項については査証を行っていないことが行政程序法(行政手続法)第9条及び第36条に違反していると原判決が認定したことは、調べたところ法に合わないところはない。
(八)以上をまとめると、被上訴人が2012年10月1日から通報者に対して苛性ソーダを提供していないのは、通報者が従来の取引方式に則った契約申込みを提出しなかったため、つまり2012年第4四半期開始前の(9月)15日の時点で「販売確認書」を記入して被上訴人に対し第4四半期分の苛性ソーダを注文しなかったためであり、被上訴人が通報者による従来の取引方式に則った購入に対して、通報者が以前に契約に基づく購入量を消化しない状況が深刻であったことを理由として、被上訴人が一方的に通報者に対する供給を承諾しなかったというものではない。通報者はさらに被上訴人から入荷しておらず、それら化学原料の販売量の減少により通報者の取引コストとリスクが高まり、通報者が国内苛性ソーダ販売市場での競争に参加するのを排除する可能性が大幅に高まったことは、経験の法則から斟酌して信用できる。しかしながらこの結果は通報者が長年にわたる取引方式に則った契約申込みを行わなかったことでもたらされたもので、その原因は通報者自身にあり、被上訴人にその責任を負わせることはできない。
(九)公平交易法第10条第4号に規定される独占的事業者は、該事業者が特定の市場において無競争の状況にあるか否か、圧倒的地位を有するか否か、競争を排除する能力を有するか否かがその法定要件となっている。台塑生医科技股份有限公司によるスルホン酸、スルホン酸ナトリウム及びSLESの販売、南亞塑膠工業股份有限公司による可塑剤の販売についてはいずれも「独占的事業者」ではなく、台湾化学繊維股份有限公司の通報者に対する芒硝の販売停止も、当裁判所から市場の地位を濫用するものではなかったと認定され、別件判決がファイルに記録されている。つまり、台塑関連企業の各事業グループの責任者は異なり、それが生産する製品とシェアを占める特定市場も異なり、買い方との約定も異なる。各関連企業が市場の立場を濫用する行為を構成しているか否かも、それぞれの案件の状況によって論断すべきであり、公平交易法にも関連企業の事業体に市場地位を濫用するおそれがあるとき、その他の事業者にも市場の地位の濫用があると推論するに資する規範はない。上訴人の前述の主張も採用するに足らない。
(十)以上をまとめると、本件被上訴人が通報者による従来の取引方式に則らない契約申込みに対して後日の「供給打切り」行為を行っておらず、通報者による従来の取引方式に則らない契約申込みに対して「今回の契約申込みに対して供給を拒絶する」とのみ意思表示したものであることは明らかである。上訴人の原審における主張がいかに採用できないかの証拠の取捨判断等については、原判決はいずれも詳細に論断しており、その法規の適用と本件が適用すべきものに違背はなく、判例解釈とも抵触がなく、法規の不適用や適用法規の不適切という法令違背の状況はない。上訴人の上訴は原審において提出したが採用されなかった主張を繰り返すもの、又は自己の異なる法律見解であり、理由がなく、棄却すべきである。
五.以上の次第で、本件上訴には理由がない。行政訴訟法第255条第1項、第98条第1項前段により、主文のとおり判決する。
2015年1月29日
最高行政裁判所第四法廷
裁判長 侯東昇
裁判官 江幸垠
裁判官 沈應南
裁判官 楊得君
裁判官 闕銘富