台湾房屋が不動産情報を「住通搜尋」サイトに利用され、公平交易法違反で提訴、権利侵害が認められ賠償金30万新台湾ドルの支払命令判決
2017-01-26 2015年
■ 判決分類:公平交易法
I 台湾房屋が不動産情報を「住通搜尋」サイトに利用され、公平交易法違反で提訴、権利侵害が認められ賠償金30万新台湾ドルの支払命令判決
■ ハイライト
不動産業界で有名な物件検索システム「住通搜尋系統(app.houseflow.tw)」は住通科技股份有限公司(以下「住通科技」という)が設置したサイトで、会員に国内の大手不動産仲介業者10社の物件情報について検索結果を対比できるサービスを提供していたが、(上記10社のうち)台湾房屋仲介股份有限公司(Taiwan Realty Estate Co.、以下「台湾房屋」という)が初めて権利侵害で提訴した。知的財産裁判所は、住通科技が台湾房屋の情報を掠奪したことは、競争者の「著しく公正さを欠く」(行為に対する)公平交易法(訳注:日本の不正競争防止法や独占禁止法に相当)の規定に違反していると認め、30万新台湾ドルの賠償金を支払うとともに、台湾房屋のすべての情報を削除するよう命じる判決を下した。
3年の実績を持つ「住通搜尋系統」は会員制を採用し、会費として1ヵ月当たり個人会員からは3000新台湾ドル、法人会員からは4000新台湾ドルを徴収している。物件のエリア又は住所、価格、築年数又は坪数を入力するだけで、不動産業者各社の物件情報を同じ条件で検索でき、各社の仲介サイトへもリンクできる。
台湾房屋は住通科技を提訴し、以下のように主張した。住通科技は台湾房屋の同意を得ずに、所有者が台湾房屋に売却を委託した物件の情報を無断で使用した。時間も労力も投じることなく、台湾房屋の仲介担当者が苦労して収集した不動産取引情報を使用できるだけではなく、両社には提携関係があると消費者に誤解させてしまい、さらにはいずれも不動産取引に従事していることから、明らかに「著しく公正さを欠く」状況を構成しており、公平交易法に違反しているため、賠償金100万新台湾ドルの支払いを請求する。
一方、住通科技は以下のように抗弁した。(「住通搜尋系統」に使用されている)すべての情報出所はいずれも不動産仲介業者のサイトに公開されている情報であり、不当な方法で台湾房屋のコンピュータシステム内部から非公開情報を取得しておらず、不当に他人の努力の成果を剽窃していない。さらに住通科技は直接不動産仲介サービス業務に従事しておらず、台湾房屋の競合相手ではなく、公平交易法に違反していない。
知的財産裁判所は審理した結果、次のように指摘している。裁判所が試験的に住通科技の検索システムを使用し、検索条件を入力しコンピュータで対比したところ、台湾房屋が売却を委託された物件が見つかった。これにより、住通科技が自ら顧客を開拓することなく、コンピュータプログラムで台湾房屋とその他の不動産仲介業者が苦労して集めた情報を搾取して自身のサイトのコンテンツを拡充して利益を得たことは、「サービス」を競争の核心とする不動産仲介業者にとって「著しく公正さを欠く」状況を構成し、公平交易法規定に違反しており、30万新台湾ドルの賠償金を支払うとともに、台湾房屋のすべての情報を削除するよう命じる判決を下す。(2016年1月7日 工商時報 A16面)
II 判決内容の要約
知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】104年度民公上字第2号
【裁判期日】2015年11月19日
【裁判事由】公平交易法侵害排除等
上訴人 台湾房屋仲介股份有限公司(Taiwan Realty Estate Co.)
被上訴人 住通科技股份有限公司
上記当事者間における公平交易法侵害排除等事件について、上訴人は2015年2月10日本裁判所103年度民公訴字第4号第一審判決に対して上訴を提起した。本裁判所は2015年10月15日に口頭弁論を終結し、次のとおり判決する。
主文
原判決における上訴人の以下第2項、第3項請求の棄却及び該部分に係る仮執行宣言申立の却下、並びに該部分の訴訟費用に係る裁判をいずれも取り消す。
被上訴人は「住通搜尋系統」(URL:「app.houseflow.tw:8001/01」)における検索条件の不動産仲介業者リストから「台湾房屋」の選択肢を削除し、該システムにおいて上訴人の物件情報を再び使用してはならない。
被上訴人は上訴人に30万新台湾ドル及びこれに対する2014年1月21日から支払済み日まで年5部の割合による金員を支払え。
その余の上訴を棄却する。
第一、二審の訴訟費用は四分の三を被上訴人の負担、その余を上訴人の負担とする。
本判決が支払いを命じる部分について、上訴人が35万新台湾ドルを担保として供託した後に仮執行できる。ただし被上訴人が195万新台湾ドルを上訴人に担保として供託したときは、仮執行を免脱できる。
一 事実要約
上訴人は不動産仲介業者で、不動産仲介業の経営様態は主に不動産取引の仲介サービスを提供することであり、当事者間を媒介して取引契約を成立させることにより、法定のサービス報酬を徴収している。被上訴人はシステムを開発し、会員から会費を徴収した後、会員がログインして、一定の検索条件(条件には物件の住所、不動産仲介業者、物件タイプ、物件の坪数、販売額、部屋数、物件の階数、建物全体の階数、キーワード等が含まれる)を入力し、検索ボタンをクリックすると、検索と対比をした結果が表示され、さらに各物件をクリックすると、該物件が掲載されている不動産仲介業者のサイトへリンクできる。被上訴人が上訴人の同意を得ずに無断で上訴人のサイトに掲載されている賃貸物件・売却物件の情報をまとめて盗用し、被上訴人が設置した「住通搜尋系統」(以下「係争システム」)内の資料として用い、他人が開発した物件情報を掠奪して、これにより利用者から費用を徴収して利益を得ており、この営利行為は不動産仲介業者の市場における公正競争を妨害し、不動産売買の取引秩序を破壊し著しく公正さを欠くこと等を以って上訴人が起訴したが、原審は上訴人敗訴の判決を下し、上訴人はこれを不服として、上訴を提起した。
二 両方当事者の請求内容
(一)上訴人の主張:(1)原判決を取り消す。(2)被上訴人は係争システムにおける検索条件の不動産仲介業者リストから「台湾房屋」の選択肢を削除し、該システムにおいて上訴人の物件情報を再び使用してはならない。(3)被上訴人は上訴人に100万新台湾ドル及び起訴状送達の翌日から支払済み日まで年5部の割合による金員を支払え。 (4)上訴人は担保を供託するので、仮執行宣言を申し立てる。
(二)被上訴人の主張:上訴を棄却する。不利な判決を受けたとき、被上訴人は担保を供託するので、仮執行免脱宣言を申し立てる。
三 本件の争点
被上訴人が有料の係争システムを構築した行為は、改正前公平交易法第24条(現行公平交易法第25条)の「取引秩序に影響を与えるに足る欺瞞的な又は著しく公正さを欠く行為」に該当するか否か。故意に善良な風俗に反する方法で上訴人に損害を与えたか否か。上訴人が被上訴人に侵害の排除と損害賠償を請求することは正当か否か。
(一)上訴人の主張:
1.被上訴人は上訴人の同意を得ることなく、無断で上訴人に属するサイト上に記載された賃貸物件・売却物件の情報をまとめて盗用し、直接被上訴人が設置した係争システム内の情報として使用したため、事情を知らない消費者に両者の間には提携の関係があると誤認させたり、さらには上訴人サイトの閲覧をスキップさせたり、上訴人の仲介を通さず、直接所有者と取引を行わせたりし易い。また被上訴人が設置した係争システムはいかなる情報も労力、時間、経費を投じて自ら開発しておらず、直接他人の仕事の成果を手に入れ、多くのシステム利用者が他人の開発した物件情報をこの方法で掠奪するよう導いており、さらにはこれにより利用者から費用を徴収して利益を得ており、この営利行為は不動産仲介業者の市場における公正競争を妨害し、不動産売買の取引秩序を破壊し著しく公正さを欠くもので、改正前公平交易法第24条規定に違反しており、また故意に善良な風俗に反する方法で上訴人に損害を与えるものでもあり、上訴人は損害を受けた。
2.改正前公平交易法第30条規定により被上訴人に侵害の排除を請求するとともに、改正前公平交易法第31条、第32条第2項、民法第184条第1項後段の規定により被上訴人に賠償責任を負うように請求する。係争システムにおける検索条件の不動産仲介業者はほぼ10社あり、上訴人はその中の1社である。よって上訴人に係る利益は年間4800新台湾ドル(48,000×1/10=4,800)である。被上訴人が2012年11月20日に設立を許可されてから約3年であり、控えめに推算しても、被上訴人は法人会員100社を有することから、利益額は約144万元(4,800×3×100=1,440,000)となり、さらに個人会員の部分を加えると倍増する可能性がある。よって上訴人が被上訴人に100万新台湾ドルの損賠賠償を請求することは正当である。
(二)被上訴人の主張:
1.被上訴人の係争システムが提供するサービスは、不動産仲介業界のサービス透明化、物件情報流通の効率化を促し、被上訴人が契約を締結する方法で中古物件取引仲介サービス市場を独占することなく、消費者により多くの選択の自由を提供でき、取引市場全体に影響を及ぼす理由も状況もない。
2.被上訴人はいかなる労力も投じずに他の事業者が努力した経営の成果である情報を搾取したということはなく、ネット技術や統計分析データベースを運用して、検索結果を対比している。被上訴人が使用している情報出所はいずれも上訴人及びその他の不動産仲介業者のサイトに公開されている情報であり、被上訴人は不当な方法で上訴人の内部から非公開情報を取得しておらず、不当に他人の努力の成果を搾取していない。よって他人の努力の成果を不当に搾取しているとはいえない。
3.係争システムは売却物件情報の収集、統合及びリンクの機能を提供しているだけで、直接的に不動産仲介サービスに従事しているわけではなく、上訴人と被上訴人のサービス内容は異なり、互いに同業競争関係にあるとは認めがたい。よって被上訴人には上訴人の業務上の信用に便乗する又は盗用する行為によって取引の相手方に両者が同一の出所、同シリーズの商品又は関連企業であると容易に誤認させる状況はなく、また「欺瞞的な又は著しく公正さに欠く」こともなく、取引秩序に影響するに足る欺瞞的な又は著しく公正さを欠く不正競争には明らかに該当しないため、改正前公平交易法第24条規定は適用されない。
四 判決理由の要約
(一)本件において上訴人が被上訴人に賠償を請求できるかについては、上訴人が主張する権利侵害期間によって各々適用する法律が異なる。上訴人が被上訴人に侵害排除を請求している部分については、排除を請求してもよい侵害は現在もなお存在しなければならない。損害するおそれの有無については、すでに存在する危険な状況について判断し、その認定は現行の有効な公平交易法規定による必要がある。
(二)被上訴人は、上訴人に属するサイト上の賃貸物件・売却物件情報に係る勧誘や重要情報についていかなる努力や投資も行っておらず、上訴人の同意を得ずに無断で上訴人サイトへのリンクを貼り、自身のサイト内容を大量に拡充して、上訴人のサイト機能に取って代わり、事情をよく知らない利用者に、上訴人と提携関係にあると極めて誤認させ易い。被上訴人が上訴人サイトに記載されている賃貸物件・売却物件情報を搾取し、自らのサイトの情報を拡充して自らの経済目的を達成する行為は、他人の努力の成果を搾取し、価格、品質、サービス等の機能競争の本質を中心とする取引秩序に影響するに足り、その他の公正競争の本質を遵守する競争者に対して著しく公正さに欠き、商業競争倫理の非難可能性を有しており、すでに改正前公平交易法第24条及び現行公平交易法第25条の規定に違反している。
(三)被上訴人が行った努力は、係争サイトを設置し、ネット技術や統計分析データベースを運用して、検索結果を対比したことであり、上訴人会社のサイトの物件に対してはいかなる努力もしていない。
(四)たとえ被上訴人が情報提供者であり、仲介に従事していなかったとしても、売買、賃貸を委託する消費者にとっては、上訴人(仲介業者)又は被上訴人(資訊服務業者)のルートを選択し、その物件の売買、賃貸の目的を達成でき、両者が属する市場には相違性があるが、ある程度の競争性はなおも存在している。
(五)以上をまとめると、上訴人は現行公平交易法第29条規定により侵害の排除を請求するとともに、改正前公平交易法第31条及び現行公平交易法第30条規定により被上訴人に損害賠償の責任を負うよう請求することには根拠がある。上訴人が会員数と不動産仲介業者の割合(訳注:1社/係争サイトで検索できる仲介業者数10社)を計算の基礎として算出した数字は、被上訴人が侵害行為で実質的に得た利益ではなく、またこれを以て上訴人が実質的に受けた損害を推定することは難しく、ここからも上訴人がその損害額を立証することが極めて困難であることがわかるため、民事訴訟法第222条第2項規定により、本裁判所はすべての情状を酌量して、得られた心証によりその額を定めることができる。本裁判所は被上訴人が2012年11月20日に設立されてから今までが3年であること、被上訴人が会員数約5、60人であると述べていること、会員は個人と法人に分かれており、会費は個人が3000新台湾ドル/月、法人が4000新台湾ドル/月であること、係争システムにおける不動産仲介業者は上訴人1社のみだけではないこと等の情状を酌量して、上訴人が上記規定により被上訴人に対して賠償金30万新台湾ドルの支払い請求を認めることが相当である。また本裁判所は改正前公平交易法第31条及び現行公平交易法第30条の規定により被上訴人は賠償責任を負うべきであると判決していることから、上訴人はさらに民法第184条第1項後段の規定により同じ請求を行うことができ、本裁判所は再び斟酌する必要はないことをここに加えて説明しておく。
五 関連条文抜粋
民法
第184条
故意又は過失により違法に他人の権利を侵害した者は、損害賠償の責任を負う。故意に善良の風俗に反する方法で、他人に損害を加えた者も同様とする。
他人を保護する法律に違反して、他人に損害をもたらした者は、賠償の責任を負う。ただし、その行為に過失がないと証明できるときはこの限りでない。
民事訴訟法
第222条
裁判所は、判決をするに当たり、弁論の全趣旨及び証拠調べの結果を斟酌して自由な心証によって事実の真偽を判断しなければならない。ただし別段の規定があるときは、この限りでない。
当事者が損害を受けたことを立証したが、その額を立証できないとき、又は立証が極めて困難であるであるときは、裁判所はすべての情状を酌量し、得られた心証によりその額を定めなければならない。
裁判所は自由な心証によって事実の真偽を判断するときは、論理則及び経験則に違背してはならない。
心証を得た理由は、判決に明記しなければならない。
第446条
訴えの変更又は追加は、相手方の同意を得ずに行ってはならない。ただし第255条第1項第2号乃至第6号の事情があるときは、この限りでない。
反訴の提起は、相手方の同意を得ずに行ってはならない。ただし但し次の各号の状況の一があるときは、この限りでない。
一 某法律関係の成立に紛争があり、本訴裁判がその法律関係を依拠すべきであり、(反訴の)請求がその関係を確定するものであるとき
二 同一の訴訟目的物に対して、反訴提起の利益があるとき
三 相殺を主張する請求に残高がある部分について、反訴提起の利益があるとき
第450条
第二審裁判所は上訴に理由あると認めるときは、上訴の趣旨の範囲内において原判決を取り消す又は変更する判決をしなければならない。
第466-1条
第二審判決に対する上告について、上告人は弁護士を訴訟代理人として委任しなければならない。ただし上告人又はその法定代理人が弁護士資格を有しているときは、この限りでない。
上告人の配偶、三親等内の血族、二親等内の姻戚関係、又は上告人が法人、中央機関又は地方機関である場合、その専属の人員が弁護士資格を有し且つ裁判所に適当であると認められたときも、第三審の訴訟代理人になることができる。
第一項但書及び第二項の状況については、上告提起又は委任の時に疎明しなければならない。
上告人が第一項、第二項の規定によって訴訟代理人を委任しないとき、又は第二項の規定によって委任したが、裁判所に適当ではないと認められたとき、第二審裁判所は期限を定め、補正を命じなければならない。期限を過ぎても補正せず、第466-2条の規定によって申し立てないときは、第二審裁判所は不適法を理由としてその上告を却下しなければならない。
知的財産案件審理法
第1条
知的財産案件の審理は、本法の定めるところによる。本法に定めのない場合は、民事訴訟、刑事訴訟若しくは行政訴訟の各手続に適用される法律による。