光宝が特許訴訟で敗訴、540万米ドルのロイヤルティ支払い命令判決

2015-02-24 2013年
■ 判決分類:特許権

I 光宝が特許訴訟で敗訴、540万米ドルのロイヤルティ支払い命令判決

■ ハイライト
光宝科技股份有限公司(LITE-ON Technology Corp.、以下「光宝科技」)はコンピュータ向けディスプレイ関連特許をめぐる訴訟で敗訴した。裁判官は先日、光宝科技に対してInpro II Licensing SARL(以下「Inpro II」)にロイヤルティ540万米ドルとこれに対する2009年12月31日から支払済みまでニューヨーク市のシティバンクが提示するプライム・レートに年3%を上乗せした金利を支払うほか、訴訟費用を負担するよう命じる判決を下した。
光宝科技は日立からコンピュータ向けディスプレイ製造関連特許の実施許諾を受けたが、2010年4月に日立が該特許権をInpro IIに譲渡したため、裁判所は光宝科技に対してロイヤルティと金利をInpro IIに支払うよう判決した。
知的財産裁判所は判決書で以下のように述べている。本件の主な争点は、日立から光宝科技へのコンピュータ向けディスプレイ関連特許の実施許諾は、双方の契約第4.3条に基づき2008年12月31日に解約されているため、日立には光宝科技に2009年度のロイヤルティを請求する権利はないとする光宝科技側の主張に対して、Inpro II側は同契約に基づき光宝科技が受けた実施許諾に係る権利が解約されただけにすぎず、光宝科技のロイヤルティ支払い義務は解約されていないと抗弁しているところにある。

II 判決内容の要約

知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】101年度民專更(一)字第1号
【裁判期日】2013年6月28日
【裁判事由】専利権(特許権)実施許諾契約事件

原告 光宝科技股份有限公司(LITE-ON Technology Corp.)
即ち反訴被告
被告 Inpro II Licensing SARL
即ち反訴原告

上記当事者間の専利権(特許権)実施許諾契約事件について、本裁判所は2013年5月29日に口頭弁論を終え、次の通り判決する。

主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
反訴被告は反訴原告に対し、540万米ドル及びこれに対する2009年12月31日から支払済みまでニューヨーク市のシティバンクが提示するプライム・レートに年3%を上乗せした金利を支払え。
反訴訴訟費用は反訴被告の負担とする。
本判決第三項について、反訴原告は5400万新台湾ドルを担保として供託した後に仮執行を行うことができる。ただし、反訴被告が1億6200万新台湾ドルを原告(訳注:反訴原告の誤りであると思われる)に担保として供託したときは、仮執行を免脱できる。

一 両方当事者の請求内容

原告:
1.本訴部分:被告の原告に対する540万米ドルの債権は存在しないことを確認する。
2.反訴部分:反訴原告の請求と仮執行宣言申立をいずれも棄却する。不利な判決を受けたときは、担保を供託するので仮執行免脱宣言を申し立てる。

被告:
1.本訴部分:原告の請求を棄却する。
2.反訴部分:(1)反訴被告は反訴原告に対し、540万米ドル及びこれに対する2009年12月31日から支払済みまでニューヨーク市のシティバンクが提示するプライム・レートに年3%を上乗せした金利を支払え。(2)反訴原告は担保を供託するので、仮執行宣言を申し立てる。

(一)原告主張の理由:略。判決理由の説明を参照。
(二)被告答弁の理由:略。判決理由の説明を参照。

二 本件の争点
1.被告は日立から係争契約に基づいて生じた権利を譲渡されているのか否か。
2.日立から原告への係争特許の実施許諾は係争契約第4.3条に基づいて2008年12月31日に解約されているが、日立は原告に2009年度のロイヤルティを請求する権利はあるか否か。

三 判決理由の要約
甲.本訴部分:
(一)被告は日立から係争契約に基づいて生じた権利を譲渡されている。
日立は2010年4月14日に係争契約に基づくすべての権利と義務を被告に譲渡しているとする被告の主張については、すでに「Agreement to Assign Patent License Agreement(LITE-ON)」が証拠として提出されており、日立が意思表示を以って被告に権利を譲渡する真意を示しており、さらに調べたところ、係争契約は日立の譲渡行為を制限しておらず、日立の譲渡を禁止する公共政策もなく、日立の譲渡は実質的に係争契約に基づく原告の負うべき義務にはなんら影響を与えるものではない。米国デラウェア州の法律に基づき、日立は係争契約の権利を有効に被告へ譲渡している。上記米国デラウェア州法を引証し、契約の権利の譲渡は権利者が意思表示を以って即時に権利を譲渡する真意を示すだけで十分であり、該意思表示を契約義務者に対して示す必要はない。

(二)原告は次の通り主張している。原告は訴外人の日立と2007年7月6日及び同年同月20日に係争契約に署名し、日立は原告及びその関係企業、関連する顧客が係争契約の発効日前に日立のコンピュータ向けディスプレイ関連特許(以下、係争特許)侵害で生じた請求、訴訟及び損害等の責任を免除することに同意するとともに、係争特許について原告及び関係企業がコンピュータ向けディスプレイを製造する、他人に製造させる、販売する等の行為を非独占的に許諾し、原告は係争契約第5.1条で約定する金額を支払うことに同意した。契約期間は2009年12月31日までである。その後原告は2008年にコンピュータ向けディスプレイに関するすべての業務、資産を緯創資通股份有限公司(Wistron Corporation、以下「緯創公司」)に譲渡し、係争契約第4.3条に基づき日立から原告への係争特許の実施許諾が2008年12月31日に解約されていること等の事情は、提出されている係争契約、営業譲渡契約書を証拠としており(本裁判所ファイル一第15~26頁)、被告もこれを争っておらず、真実であると信じることができる。本件の争点の一つは、日立による原告に対する係争特許の実施許諾が係争契約第4.3条に基づき2008年12月31日に解約されているため、日立には原告に2009年度のロイヤルティを請求する権利はないとする原告側の主張に対して、被告側は係争契約第4.3条に基づき原告が受けた実施許諾に係る権利が解約されただけにすぎず、原告のロイヤルティ支払い義務は解約されていないと抗弁しているところにある。

(三)係争契約第4.3条には「If after the Effective Date …(b) there is a disposition by Lite-On of the part of its business engaged in manufacturing Licensed Products, all future rights, releases, licenses and immunities hereunder will immediately terminate ipso facto…)」と約定されている。原告の主張によると、該約款から、原告がそれの製造するライセンス製品に関する業務を処分する際、「すべての」未来の権利等は「本契約に基づく」権利でありさえすれば、原告と日立のいずれが享有するにかかわらず、いずれもただちに解約すべきであり、とくにその約款後段では原告が処分する前の権利に影響が及ばないことを明確に保障しており(原文:「but in no way shall that affect the rights, releases, licenses and immunities of Lite-On piror to such acquisition or disposition)、同条前段の「all future rights, releases, licenses and immunities hereunder will immediately terminate ipso facto」に比べてこれらの「権利、免除、実施許諾及び免責」の主体が何者なのかが明確に約定されておらず、特別に「all」と「hereunder」を以って「一切の」「本契約に基づく」の権利等を網羅しており、該条前段の約定で解約すべきものは、係争契約当事者の一方に限られるものではなく、双方当事者の権利が含まれるべきであることが証明される等としている。しかし調べたところ、係争契約第4条のタイトルは「Further Limitation on Release, License and Immunities」であり、条文の開始部分には「Without prejudice to the generality of any other provision hereof, and notwithstanding anything herein to the contrary, the releases, licenses and immunities granted herein are subject to the following further conditions)」と記載されており、第4条全体の規範又は限制の対象は、原告が契約に基づいて取得した各権利であり、つまり原告が係争契約に基づいて享受できる「責任の免除、実施許諾及び免責」のみを含み、日立の契約権利に対して規定するものではなく、原告の上記主張は採用することができない。

(四)原告はまた次の通り主張している。係争契約第5.1(d)条では「$5,400,000 of Payment 4 is in consideration of the license under Clause 3 above for the calendar year 2009」と約定されており、契約の文言は「in consideration of」が用いられており、「先行条件」(condition precedent)の設定により某給付義務の発生は該先行条件の成就に関連するものとなっている。即ち、前出の係争契約約款に基づき、原告が5,400,000新台湾ドルを支払う義務は日立が2009年に実施許諾を「した」ことが先行条件であるが、現時点で日立は2009年に原告に対して実施許諾を「していない」。即ち、係争契約第5.1(d)条に定められる「2009年度の実施許諾」の先行条件を満足しておらず、原告には5,400,000新台湾ドルを支払う義務はない等、としている。しかしながら、係争契約第5.1(d)条は2009年度のロイヤルティがいくらかだけに止まっており、約款そのものは2009年以前に解約された場合については法的効力の約定がなく、その他の契約約款又は一般契約法の原則を適用して、その法的効力を決定しなければならない。したがって、係争契約第5.1(d)条だけを以って、原告が受けた実施許諾に係る権利が係争契約第4.3条に基づき解約された場合の原告によるロイヤルティ支払い義務の有無が約定されているとはいえない。

(五)係争契約第4.3条は原告が許諾製品(コンピュータ向けディスプレイを指す)を生産する部分の業務を処分する場合、すべての未来の権利、免除、実施許諾及び免責はいずれも即時解約されるとのみ約定されており、この時における原告によるロイヤルティ支払い義務の有無については約定されていない。さらに係争契約を通観しても、これについて約定されていない。客観的で理性的な第三者がこの部分について、当事者が単に約定しなかっただけであると理解できる可能性があり、この場合は一般な契約法原則を以って補填すべきである。また当事者が故意に排除し、原告がコンピュータ向けディスプレイの業務を処分することが原因で特許の実施許諾に係る権利が解約されるときに、なおロイヤルティ支払いの義務が継続するように契約をアレンジしたと理解できる可能性もある。この部分の契約文言には合理的で、正当に異なる解釈又は二種類以上の意味があり、契約の文義は不明確である。米国デラウェア州法「契約の文言は訴訟中の当事者の見解が異なる、又は当事者がその適当な解釈に同意しないことのみによって不明確であると認定されることはなく、争議のある条項に合理的又は正当に異なる解釈又は二種類以上の異なる意味があるときに、はじめて契約は不明確となる」(NBC Universal, Inc. v. Paxson Communications Corporation, No. Civ.A. 650-N. )を引証すると、契約の解釈を通じて当事者の真意を探求する必要がある。

(六)米国デラウェア州法では以下の通り定められている。裁判所が契約の文義が不明であると判断したならば、当事者が公開した陳述及び行為、ビジネス背景、当事者間の以前の取引、その他ビジネス習慣及び業界の慣習等を含むすべての客観的な外的証拠を斟酌する。契約の意味は、客観的で理性的な第三者が理解できるものでなければならない。契約の一方の当事者が契約締結の協議過程においてすでに明確に某契約権利を放棄していたならば、契約の異なる解釈を主張し、裁判所に対して該契約権利を改めて賦与するよう請求することはできない。原告と日立とが係争契約内容を協議する過程において、原告を代表するChris Neumeyerは2007年5月22日に第4.3條条文に「義務(obligations)」の文言を加え、「 …all future rights, releases , licenses, immunities and obligations hereunder will immediately terminate ipso facto …)」とすることを要求したが、この提議は日立を代表するMichael Spiroから明らかな反対を受け、原告が生産する許諾製品部分の業務を処分するとき、原告のロイヤルティ支払い義務の部分も解約されることに同意しないと明らかに表明したため、原告はこの状況を知りながら、さらなる協議、明確化、立場の表明を行わず、それ以上主張せずに契約第4.3条に「義務」の文言を加えないことを受け入れた。

(七)以上をまとめると、係争契約第4.3条では原告がコンピュータ向けディスプレイの業務を処分することにより原告のロイヤルティ支払い義務が解約されるとは約定されておらず、これは故意に排除されたもので、単純に約定されなかったものではないと認めるべきである。したがって、日立が係争契約に基づき原告に対して540万米ドルのロイヤルティの債権があり、日立はこの債権を被告に譲渡している。原告が起訴し、被告の原告に対する540万米ドルの債権が存在しないことを確認するよう請求したことには理由がなく、棄却すべきである。

乙.反訴部分:
日立は係争契約に基づき原告に対して540万米ドルのロイヤルティの債権があり、日立はすでにこの債権を反訴原告(即ち被告)に譲渡していることは前述した通りである。また係争契約第5.4条では「Lite-On will pay interest on all overdue amounts , for the period from the due date until the date on which full payment is received, calculated at the annual rate of 3 % over the posted prime rate in force from time to time of Citibank NA in New York City…)」と約定している。したがって、反訴原告が係争契約に基づき反訴被告(即ち原告)に対して、540万米ドル及びこれに対する2009年12月31日から支払済みまでニューヨーク市のシティバンクが提示するプライム・レートに年3%を上乗せした金利を支払うよう請求することには理由があり、許可すべきである。

双方のその他の攻撃防御方法及び証拠資料について、本裁判所が斟酌したところ、いずれも本判決の結果に影響するに足るものではなく、逐一詳述する必要はないことを、ここに述べておく。

2013年6月28日
裁判官 欧陽漢菁
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