大陸地区専利権(実用新案権)の帰属確認に確認の利益あり

2016-11-28 2015年
■ 判決分類:実用新案権

I 大陸地区専利権(実用新案権)の帰属確認に確認の利益あり

II 判決内容の要約

知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】103年度民專上更(一)第7号
【裁判期日】2015年8月27日
【裁判事由】専利権(実用新案権)移転登録

上訴人  台湾緑牆開発股份有限公司(TAIWAN GREEN WALL DEVELOPMENT CO., LTD. )
被上訴人 馬〇旦
  
上記当事者間における専利権(実用新案権)移転登録事件について、上訴人は2013年1月4日当裁判所101年度民專訴字第37号第一審判決に対して上訴を提起し、最高裁判所による第一回差戻し審を経て、当裁判所は2015年8月13日に口頭弁論を終結し、次のとおり判決する:

主文
原判決の上訴人による後出の第2、3項の請求棄却部分、及び訴訟費用に関する判決をすべて取り消す。
経済部知的財産局中華民国M417768号新型専利(訳注:「専利」には発明専利(特許)、新型専利(実用新案)、設計専利(意匠)が含まれるが、本件では新型専利を指すため、本件専利を以下「実用新案」と記す)の実用新案権は上訴人台湾緑牆開発股份有限公司と被上訴人馬〇旦の共有であることを確認する。
中華人民共和国公告号CZ000000000U実用新型専利(実用新案)の専利権(実用新案権)は上訴人台湾緑牆開発股份有限公司と被上訴人馬〇旦の共有であることを確認する。
第一、二審及び差戻し前の第三審の訴訟費用は被上訴人の負担とする。

一.手続部分
(一)本事件は中国大陸地区の専利権対象に関わるもので、台湾地区與大陸地区人民関係条例(以下、「両岸人民関係条例」)が適用される。両岸人民関係条例第1条に「本条例で規定されていないときは、その他の関連規定を適用する」と定められている。つまり両岸人民関係条例に管轄権に関する規定がないため、民事訴訟法の規定適用を類推すべきである。
本件被上訴人は居住地がわが国域内の台湾地区であり、上記説明により、わが国台湾地区の裁判所が本件民事事件の管轄権を有するものである。
(二)また本件は専利法により生じた第二審民事事件であり、智慧財産法院組織法(知的財産裁判所組織法)第3条第1号規定により、当裁判所が法により管轄権を有する。
(三)両岸人民関連条例の第51条第2項には「権利を対象とする物権については、権利成立地(権利付与国)の規定による」と規定されている。専利権は準物権であり、上記規定の適用が類推でき、係争実用新案の許可及び成立地の規定を準拠法とすべきである。よって、本件において台湾地区の実用新案には中華民国の法律を、大陸地区の実用新案には大陸地区の法律を適用する。

二.実体部分
(一)事実概要
(上訴人の主張によると、)被上訴人が2008年11月にそれが所有する第M367678号実用新案を以って訴外人方智股份有限公司(EASTERN HORIZONS CORPORATION、以下「方智公司」)と共同開発プロジェクトに係る契約を結び、方智公司の株主と被上訴人は上訴人(会社)を共同で設立した。その後被上訴人は第M367678号実用新案について上訴人に実施許諾を行ったため、上訴人設立当初、被上訴人が上訴人の董事長(訳注:取締役会長に相当)兼総経理(訳注:社長に相当)に就任した。被上訴人は上訴人と実用新案実施許諾書(以下、「係争実用新案実施許諾書」)を結び、被上訴人が上訴人のリソースを利用して研究開発を行ったならば、研究開発成果は双方が共に享受すると約定した。ところが被上訴人は在籍期間中に上訴人のリソースを利用した研究開発成果について、上訴人の経費を使用して登録出願し、第M417768号実用新案「花槽(Flower tank)」(即ち「係争台湾実用新案」)を取得し、さらにこの実用新案資料に基づいて大陸地区で同じ内容の大陸実用新案(即ち「係争大陸実用新案」)の登録を出願し、取得した(係争台湾実用新案と係争大陸実用新案を併せて「係争実用新案」という)。被上訴人が上訴人の総経理を務めていた期間、その担当業務は管理のみならず、顧客の開拓、製品の開発等も含まれていた。2010年7月に上訴人責任者鄧〇仁が2010年上海国際博覧会(EXPO 2010 SHANGHAI)の展示会場を参観し、帰国した後、被上訴人に立体緑化製品の改善の方向性を伝え、2011年初めに上海国際博覧会で撮影した写真を会社のグラフィックエンジニア郭○○に渡して、郭〇〇に被上訴人に協力して係争実用新案を開発、完成するよう指示し、係争実用新案の明細書における図1と図2を除く図3〜9は郭〇〇が作成したものである。郭〇〇は作図した後、該考案の実施可能要件の有無を評価するため、生元模型企業有限公司(SIEN YIAN MODEL CORP., LTD.、以下「生元公司」)と連絡して模型を製作し、サンプルを送って模型が実施可能であることを確認した後、被上訴人は2011年4月19日に係争実用新案登録を出願した。このため、テスト、金型製作、作図、出願に必要な経費はいずれも上訴人のリソースが使用されている。係争実用新案実施許諾書の規定に基づき、係争実用新案は双方の共有として登録すべきである。民事訴訟法第247条規定により、(上訴人は)係争実用新案が上訴人と被上訴人の共有であることを確認するよう請求した。原審(第一審)では上訴人敗訴の判決が下され、上訴人はこれを不服として上訴を提起した。当裁判所の前審(第二審)でも上訴人敗訴の判決を行ったため、上訴人はさらに不服として上訴を提起し、最高裁判所(第三審裁判所)は同判決を破棄して当裁判所に差し戻した。

(二)両方当事者の請求内容:
1.上訴人の請求:(1)原判決を取り消す。(2)経済部知的財産局中華民国M417768号実用新案の実用新案権は上訴人と被上訴人の共有であることを確認する。(3) 中華人民共和国公告号CZ000000000U実用新案の実用新案権は上訴人と被上訴人の共有であることを確認する。
2.被上訴人の答弁:上訴を棄却する。

(三)本件の争点
1.上訴人による本件訴訟の提起に確認の利益が存在するのか。
2.係争協議書は株主全体の署名捺印が有って始めて発効するのか。
3.係争実用新案実施許諾書は成立、発効しているのか。係争協議書が株主全体の署名捺印が無いことによって不成立とはならないか。
4.係争協議書の実施許諾関係は2012年11月17日に解約されているが、これは係争実用新案実施許諾書第4条の研究開発成果を共に享受する約定の効力に影響を及ぼすか。
5.被上訴人は上訴人のリソースを使用して本件実用新案を研究開発したのか。

(四)判決理由
1. 上訴人による本件確認訴訟提起に確認の利益が存在する:
雇用関係により生じた専利出願権及び専利権の帰属に係る争議は、まず民事裁判所に対して専利出願権及び専利権の帰属確認に係る訴訟を提起し、勝訴判決が確定した後、該確定判決を添付し、専利主務機関に権利者名義変更を申請できる(司法院2012年度知的財産法律座談会の結論を参照)ということは、(司法)実務において雇用関係以外の専利出願権及び専利権の帰属に係る争議にまで拡大適用されている。さらに当裁判所は法務部(訳注:日本の法務省に相当)を通じて大陸地区の最高人民裁判所に当裁判所が行う「大陸地区実用新案を双方の共有とする」という判決が大陸地区で執行できるか、大陸地区の関連機関が当裁判所の判決に基づいて実用新案権者を共有に変更できるかについて問い合わせたところ、大陸地区の最高人民裁判所から「『最高人民法院關於人民法院認可台灣地區有關法院民事判決的規定(最高人民裁判所の人民裁判所による台湾地区関連裁判所の民事判決の認可に関する規定)』の関連規定に基づき、当事者が大陸の関連人民裁判所に台湾地区関連裁判所の有効な民事判決を認可、執行するよう申請できる。人民裁判所が認可決定した台湾地区関連裁判所民事判決は、人民裁判所の有効判決と同じ効力を有する」との返事を受け、(2015)法助台請(調)復字第31号海峡両岸共同打撃犯罪及司法互助協議調査取證回復書(訳注:「海峡両岸共同打撃犯罪及司法互助協議(海峡両岸共同犯罪取締り及び司法相互協力協議)」は2009年6月に発効)が添付資料としてファイルされており参照できる。被上訴人は現在それぞれ係争台湾実用新案及び係争大陸実用新案の実用新案権者として登録されており、上訴人は本件訴訟を提起して、係争実用新案が上訴人と被上訴人の共有であることを確認するよう請求しており、被上訴人は否認しているが、上訴人には法律上の地位に不安な状況が確かに存在しており、さらに確定判決を以ってわが国及び大陸地区の関連機関に実用新案権者を変更することに関する上記説明から、この不安な状況は裁判所の確認判決で除去できることが分かるため、係争実用新案が双方の共有である状況を確認する上訴人の請求には、確認の利益が存在し、本件の確認訴訟を提起することができる。

2.係争実用新案実施許諾書はすでに成立、発効している:
契約関係の存在を主張する場合は、その契約締結の事実を証明できなくても、契約履行の事実により、その契約関係の存在を推定でき、契約当事者が理由もなく否認することは許されない(最高裁判所21年上字第3046号判例趣旨を参照)。本件被上訴人は製品と関連がない支出を差し引いた後利益の基準額として係争協議書で約定された15%でライセンス料を計算し、董事長の署名なしに無断で受け取ったことを認めており、双方の利益に対する計算式が異なったため、背任罪の判決が確定された等と述べていることから、被上訴人は主観的にも係争協議書を以って契約履行の基礎とし、被上訴人にはすでに係争協議書による履行の事実があることが分かり、被上訴人が本件訴訟において係争協議書の効力を否認することは採用できない。係争協議書はすでに発効しており、係争協議書が成立、発効していないため係争実用新案実施許諾書も成立、発効していない云々とする被上訴人の答弁は採用することができない。双方が係争協議書及び実用新案実施許諾書において被上訴人がM367678号実用新案権の実施を上訴人に許諾し、ライセンス料をどのように分配するか、上訴人のリソースを利用した研究開発は共に享受する等の契約に必要なポイントについてはいずれも合意に達しており、契約はすでに成立している。被上訴人は係争実用新案実施許諾書の効力を根拠なく否認しており、それが事実であると立証できないため、その主張は採用できない。

3. 係争実用新案実施許諾書第4条の効力は係争協議書(の実施許諾関係)が2012年11月17日に解約されている影響を受けない:
係争実用新案実施許諾書は双方のM367378号実用新案に対する権利と義務について規定しているほか、被上訴人が上訴人のリソースを使用した研究開発成果はいかに帰属するかの問題も規定されており、これは即ち本件の係争実用新案が双方の共有に帰するかの争点に関連している。このため、たとえ双方がM367378号実用新案の実施許諾関係を2012年11月17日に解約したとしても、係争実用新案実施許諾書の係争実用新案権の帰属権に対する効力には影響しない。況してや契約解約はその後効力が生じたもので、係争実用新案は2011年4月19日に登録出願が行われ、その時点で係争協議書はまだ解約されておらず有効な状態にあった。双方はなお係争実用新案実施許諾書第4条の約定により係争実用新案権の帰属を判断すべきである。

4.係争実用新案権は双方の共有とすべきである:
わが国は専利出願権及び専利権の原始取得について、発明者、実用新案考案者又は意匠創作者が他人と約定してはならないというわけではなく、契約に専利法第9条規定のような無効の事由が無いならば、当事者はその拘束を受けなければならない(最高裁判所103年度台上字第1479号判決趣旨を参照)。また、大陸地区の専利法第6条と第7条によると、大陸地区は専利出願権及び専利権の原始取得について、所属組織の物質的・技術的条件を利用して完成するならば、所属組織と発明者は契約で専利権の帰属を約定してもよいと規定されている。
係争実用新案実施許諾書第4条には「甲方(即ち馬〇旦)が乙方(即ち台湾緑牆開発股份有限公司)のリソースを使用して研究開発を行うとき、研究成果は双方が共に享受するものとする。」と記載されている。その約定の真意は、被上訴人が研究開発した実用新案が上訴人のリソースを使用したものならば、該実用新案は双方の共有で登録すべきであるというものであり、これは双方が争うものではない(本裁判所ファイル第91頁)。該約定は上訴人のリソースを利用して研究開発が行われた時、実用新案権はどのように帰属すべきかを約定したもので、被用者が職務により完成した発明、実用新案又は意匠の権益を享受してはならないと約定するものではなく、わが国の専利法第9条の無効事由はなく、該約定は大陸地区の専利法第7条の規定にも適合しており、上記説明により、双方は上記約定の拘束を受けるべきである。
本件が次に審理すべきものは、即ち係争実用新案の研究開発が上訴人のリソースを使用したか否かである。被上訴人が係争実用新案の研究開発を行う前に、上訴人は上海国際博覧会への参加費用を支払っており、上訴人の営業部門も市場情報及び顧客資料を被上訴人に提供し研究開発の方向性を示している。さらにテスト、金型製作、作図、実用新案登録出願に必要な関連費用はいずれも上訴人のリソースを使用したものである等の証言、さらには係争実用新案の登録出願時の審査料、証書代及び1年目の登録料、専利商標法律事務所の代理手続料等はいずれも上訴人が支払っている等の状況を総合的に見て、係争実用新案は上訴人のリソースを利用して研究開発されたものと認めるべきであり、係争実用新案実施許諾書第4条及び双方の約定の真意により、係争実用新案は双方の共有として登録すべきである。

5.以上をまとめると、上訴人には本件確認訴訟提起に確認の利益が存在しており、係争実用新案実施許諾書はすでに成立、発効しており、「上訴人のリソースを使用して研究開発を行ったならば、研究開発の成果は双方が共に享受する」という約定はわが国の専利法又は大陸地区の専利法における無効の事由が存在せず、双方はその拘束を受けるべきであり、本件係争実用新案は上訴人のリソースを使用して研究開発が行われたもので、本件係争実用新案は双方の共有するものであると確認を上訴人が請求したことには根拠があり、原審が上訴人敗訴の判決を下したことは法に合うものではなく、上訴の趣旨で原判決のこの部分は不適切であると指摘し、(原判決を)取り消し改めて判決するよう求めることには理由があり、当裁判所は(原判決を)取り消し改めて主文第2項、第3項に示すとおり判決する。

以上の次第で、本件上訴には理由があり、智慧財産案件審理法(知的財産案件審理法)第1条、民事訴訟法第450条、第78条により、主文のとおり判決する。

2015年8月27日
知的財産裁判所第二法廷
裁判長 曾啓謀
裁判官 林秀圓
裁判官 蔡如琪
2015年9月7日
書記官 邱于婷
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