「正当な専利権行使」の認定
2017/12/22 | 2017年 前のぺージに戻る    
■ 判決分類:專利権

I 「正当な専利権行使」の認定

■ ハイライト
上訴人(數字科技股份有限公司)は次のように主張した:被上訴人(好房國際股份有限公司)の法定代理人である林○貞が係争実用新案の専利権者(訳註:「専利」は特許、実用新案、意匠を含む)であり、被上訴人は専利法第116条に基づいて実用新案技術評価書を取得する以前に公平交易委員会(訳註:公正取引委員会に相当)に自社で開発したアプリが剽窃された嫌疑があると通報し、裁判所に権利侵害訴訟を提起したが、いずれも棄却されており、さらにその後係争実用新案は無効審判により取り消されている。被上訴人が競争目的で、実用新案が形式審査を採用していること、即ち専利権付与の手続きを利用して、係争実用新案の出願を手段とし、上訴人が係争実用新案の専利権を侵害している等の不実(訳註:虚偽の事実)の言論を悪意を以って流布し、上訴人の営業上の信用を害するという目的を達した。よって、専利法117条、公平交易法(訳註:不正競争防止法、独占禁止法に相当)及び民法等の関連条文により賠償を請求するものである。
それに対して被上訴人は次のように抗弁した:被上訴人は法定代理人の名義で係争実用新案の専利権を取得した後、訴外人である長江國際專利商標法律事務所に鑑定を委託し、専門技術の分析対比報告では上訴人のアプリ技術が係争実用新案に高度に類似していると認定されている。専利権侵害の対比報告でも係争專利権は上訴人に侵害されていると認定されている。よって、被上訴人による専利権行使の行為は、故意又は過失により上訴人の権利を非合法に侵害するものではない。
裁判所は最終的に被上訴人の行為は正当な専利権行使に該当し、上訴人に対する損害賠償責任を負う必要はないと判決した。

II 判決内容の要約

知的財産裁判所民事判決
【裁判番号】105年度民專上字第30号
【裁判期日】2017年1月12日
【裁判事由】不当な専利権行使による損害の賠償紛争等

上訴人 數字科技股份有限公司(ADDCN TECHNOLOGY CO., LTD)
被上訴人 好房國際股份有限公司

上記当事者間における專利権侵害の財産権に係る紛争等事件について、上訴人は2016年7月6日当裁判所104年度民專訴字第87号第一審判決を不服として上訴を提起し、当裁判所は2016年12月22日に口頭弁論を終えた。当裁判所は次のとおり判決する。

主文
上訴を棄却する。
第二審訴訟費用は上訴人の負担とする。

一.両方当事者の請求内容
(一)上訴人の請求:
1.原判決を取り消す。
2.被上訴人は上訴人に対し100万新台湾ドル及び2015年12月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3.被上訴人は費用を負担して添付資料1の謝罪声明を添付資料3に示される字体、位置、サイズで「好房網HouseFun」のホームページ(http://www.housefun.com.tw/)に1ヵ月掲載しなければならない。添付資料2の謝罪声明及び本件民事判決書の裁判番号、当事者及び主文欄を添付資料4の形式、位置、及びサイズで「好房網」のニュースチャンネル(http://news.housefun.com.tw/)に1ヵ月掲載するとともに、新聞半面サイズ(35.6cm×26.3cm)で「経済日報」、「蘋果日報」の全国版第一面に3日間掲載しなければならない。
4.第2項の請求について、上訴人は担保を供託するので、仮執行宣言を申し立てる。
5.第一、二審の訴訟費用は被上訴人の負担とする。
(二)被上訴人の答弁:
1.上訴を棄却する。
2.訴訟費用は上訴人の負担とする。
3.不利な判決を受けたとき、被上訴人は担保を供託するので、仮執行免脱宣言を申し立てる。

二.争わない事実の概要
(一)被上訴人の法定代理人である林○貞は2013年11月12に知的財産局に対して第476330号実用新案「不動産租售管理行動電子裝置(不動産物件賃貸・売買管理向けモバイル電子デバイス)」(即ち係争実用新案)を出願し、2014年4月11日に公告され、権利期間は2014年4月11日から2023年11月11日までであった。

(二)被上訴人は2014年5月29日上訴人が「好房快租アプリ」機能を剽窃した嫌疑があるとして、公平交易委員会に通報した。公平交易委員会は調査を行い、2014年11月10日付で上訴人に公平交易法違反はないと書簡で回答した。

(三)2014年6月9日被上訴人は記者会見を開き、上訴人が自社の「好房快租」サービスアプリ等の機能を剽窃した嫌疑があるため、当裁判所に訴訟を提起する意向があると発表し、メディアで報道された。また被上訴人は当裁判所に上訴人が自社の専利権を侵害したとして訴訟を提起したと2014年7月31日にメディアで報道された。さらに被上訴人は少なくとも2014年10月13日の時点で、傘下の「好房網HouseFun」ホームページに上訴人に自社の専利権を侵害されたと掲載するとともに、サイトリンクの方式で上記テレビニュース、紙面メディア、ネットメディア及びSNS等の報道を引用した。

(四)被上訴人はその係争実用新案の専利権が上訴人に侵害されたと主張し、2014年7月30日上訴人に賠償及び侵害の排除と防止を求める訴訟を当裁判所に提起した。当裁判所は2015年6月16日に103年度民專訴字第60号判決を以って被上訴人敗訴の判決を行い(判決が)確定したことがファイルに記録されている。

(五)上訴人は2014年10月1日知的財産局に係争実用新案の請求項1乃至請求項10が進歩性を有しないとして無効審判を請求した。知的財産局は審理した結果、係争実用新案の請求項1乃至請求項10は進歩性を有しないと認め、2015年2月25日に請求項1乃至請求項10について無効審判請求成立により取り消す決定を行った。

三.本件の争点
(一)被上訴人の行為は専利法第117条、民法第184条第1項前段又は改正前公平交易法第22条、第24条規定に違反しているか。
(二)上訴人は専利法第117条、民法第184条第1項前段規定、改正前公平交易法第31、32条規定により、被上訴人に損害賠償責任を負うよう請求することに根拠はあるのか。本件損害賠償額はいかに算出すべきか。
(三)上訴人は改正前公平交易法第34条及び民法第195条第1項規定により、被上訴人に対して謝罪声明及び本件民事判決を掲載するよう請求することに根拠はあるのか。

四.当裁判所の判断:
(一)上訴人が提出した原告証拠4、5のニュース報道及び原告証拠6のサイト内容に関する部分:
1.調べたところ上訴人が提出した原告証拠4は、被上訴人が2014年6月9日に行った記者会見に関する紙面及び電子メディアの報道であり、そのタイトルは「好房網、591 租屋網互控侵權(好房網と591、賃貸物件サイトが権利侵害で互いに提訴)」、「網路租屋平台雙雄互槓(賃貸物件サイト大手2社が対立)」、「好房網控591剽App服務(アプリサービス剽窃で好房網が591を提訴)」である。それらの報道内容から、被上訴人が記者会見の中で、被上訴人の経営する好房網のアプリが「即拍即刊」(訳註:携帯電話で物件の写真を撮った後、資料を入力してアップロードすればすぐに掲載される機能)、「個人圖文備註」(注記:家を探す人が物件をみた感想を注記できる機能)というサービス機能を提供して間もなく、上訴人は機能とデザインが極めて類似する「出租刊發」、「看屋筆記」というアプリ機能を提供しており、被上訴人はすでに公平交易委員会に通報し、被上訴人はこの部分について商標又は専利を出願していないが、調べて好房網のいかなる知的財産権も侵害されていることが証明されたならば、すぐに関連の民事訴訟、刑事告訴を提起するなどと述べたことが分かる。上訴人は2014年5月26日長江國際專利商標法律事務所に好房快租のアプリと591房屋のアプリの同否について鑑定を委託しており、鑑定結果において「各種の客観的かつ明確な証拠から確かに『591房屋交易アプリ』は『好房快租アプリ』の機能を参考として、バージョンを変更する際にこれらの機能を追加した可能性がある」等の事情が認められた。長江國際專利商標法律事務所の鑑定報告はファイルに添付されており参考することができる。証人、即ち長江國際專利商標法律事務所の○○○経理(訳註:「経理」は部長に相当)は、被上訴人は「591房屋交易アプリ」と「好房快租アプリ」の同否の鑑定を委託し、被上訴人は正式に委託する前にすでに問合せをして関連資料を提出しており、2014年5月26日正式に委託した後、同事務所は鑑定報告を作成し、高度な類似を構成することが認められたなどと証言している。これから、被上訴人が2014年6月9日に記者会見を開く前には、すでに専門家に意見を求め、鑑定報告を取得しており、記者会見における主張は根拠がないものではなかったことが分かり、たとえその後上訴人と被上訴人のアプリが高度に類似している内容が真実であると証明できなかったとしても、被上訴人が提出した証拠により、被上訴人が上記の言論を発表した時点ではそれが真実であると確認できる相当な理由があったと認められる。言論の自由に関する説明からみて、被上訴人に民法第184条第1項前段に規定される故意又は過失により上訴人の営業上の信用を害する権利侵害行為、又は改正前公平交易法の第22条、第24条に規定される不実の言論を流布して他人の営業上の信用を害し、取引秩序に影響するに足りる不公正競争の行為があったとは認めがたい。さらに被上訴人が上記記者会見で双方のアプリが高度に類似していると主張しただけであり、上訴人が被上訴人の専利権を侵害したという問題には言及されておらず、被上訴人には専利権行使がなかったとの事情から、専利法第117条規定に違反していないといえる。
2.さらに上訴人が提出した原告証拠5は「蘋果日報」による2014年7月31日付新聞報道であり、その内容には被上訴人の○○○運営長(最高執行責任者)が弁護士を帯同して当裁判所に591租屋網が被上訴人の取得している専利権を侵害したとして上訴人に対する訴訟を提起し、○○○が被上訴人は「即拍即刊」、「個人圖文備註」アプリについてすでにそれぞれ専利権を取得しており、上訴人はわずか3ヵ月で剽窃したと述べた等の事情が記載されている。被上訴人は確かに2014年7月30日上訴人がその専利権を侵害したとして専利権侵害訴訟を提起し、被上訴人が前記メディア報道において行った主張は事実と異なるところはない。さらに、被上訴人が前記専利権侵害訴訟を提起する前すでに係争実用新案と上訴人の商品を長江國際專利商標法律事務所に送り専利権侵害の対比分析を行っており、分析の結果、「591 房屋交易アプリ」が係争実用新案請求項1乃至10の請求の範囲に入っていると認められ、被上訴人は提訴時の証拠として提出している等の事情があり、長江國際專利商標法律事務所による專利侵害鑑定報告及び被上訴人の訴状がファイルに添付されており、参照できる。さらに証人即ち長江國際專利商標法律事務所の○○○経理は、当該侵害鑑定報告は当該事務所法律部門が提出したものであること等を証言しており、これにより被上訴人が専門家に意見を求め、鑑定報告を取得してから始めて、当裁判所に上訴人に対する専利権侵害訴訟を提起し、蘋果日報の記者に前記のとおり述べたことが分かる。たとえその専利権侵害訴訟が裁判で敗訴し、かつその係争実用新案の専利権が事後に知的財産局から進歩性欠如を理由に取り消されたとしても、被上訴人が前記行為を為した時点で、係争実用新案が有効で、かつ専門家に意見を求めて上訴人の侵害を確認している。被上訴人が提訴前に係争実用新案が無効であることを知っていた、又は上訴人に権利侵害がないことを知っていたという事情があったことを上訴人は証明できず、被上訴人のこの行為には権利侵害と公平交易法違反の事情がある云々という上訴人の主張は採用できない。
3.上訴人が提出した原告証拠6は被上訴人が「好房網」サイトに貼り付けた、双方が互いに権利侵害で提訴した事に関する紙面又は電子メディアの報道である。それらの報道はいずれもニュースメディアが書いたもので被上訴人が書いたものではなく、かつそれらの報道はすでに各ニュースメディアによって対外的に公開されたもので、いかなる者も閲覧し調べることができる状況にあり、被上訴人が双方の権利侵害紛争に関するニュースメディアの報道を「好房網」サイトに載せることは客観的事実を呈示する行為であり、この行為が上訴人の営業上の信用を害する、又は不実の言論を流布して他人の営業上の信用を害し、取引秩序に影響するに足りる不公正競争であるとは認めがたい。
(二)上訴人が実用新案技術評価書を提示していない専利権行使の部分:
1.調べたところ、被上訴人が2014年6月9日に記者会見を開いた時(即ち原告証拠4の報道)、上訴人がその専利権を侵害したとは指摘していないため、専利権行使の行為がなかったことは前述したとおりである。被上訴人が当裁判所に上訴人に対する専利権侵害訴訟を提起し、蘋果日報の記者に上訴人が係争実用新案の専利権を侵害したと述べた行為(即ち原告証拠5の報道)は専利権行使の行為に該当するが、被上訴人はそれ以前に長江國際專利商標法律事務所の専利侵害鑑定報告を取得しており、主観的に上訴人が係争実用新案の専利権を侵害したと確信していた等の事情は前述したとおりである。たとえ被上訴人が前記行為を為した時点で実用新案新型技術評価書を取得しておらず、かつ係争実用新案の専利権がその後2015年2月25日に知的財産局によって進歩性欠如により取り消されたとしても、專利が当業者にとって出願前の先行技術により容易になし得るもので進歩性を有さないものであるか否かは、専門的な判断に属するものである。裁判所と知的財産局の間でもしばしば異なる認定結果が出され、本件は係争実用新案が業界の通常の知識により明白なもので取消事由が存在することを証明する証拠がないのであれば、専利権者には法により取得した専利権に対してこのように高い程度の注意義務があると責めることは難しい。被上訴人は専門家に意見を求め、自らが専利権を行使することに不当はないと確認しているため、被上訴人はそれが相当な注意義務を尽くして権利侵害の故意、過失はなかったことを証明できたと認めるべきである。前記説明から、被上訴人は民法第184条第1項、専利法第117条の権利侵害行為を構成していない。
2.調べたところ、本件被上訴人が2014年6月9日記者会見(即ち原告証拠4の報道)で行った陳述は善意の言論発表であることは前述したとおりであり、競争目的で他人の営業上の信用を害するに足りる不実の言論を陳述又は流布するという如何なる事情もあったとは言い難く、また被上訴人が当裁判所に上訴人に対する専利権侵害訴訟を提起し、蘋果日報の記者に上訴人が係争実用新案の専利権を侵害したと述べた行為(即ち原告証拠5の報道)は専利権行使の行為であるが、係争実用新案の専利権はその時点で有効に存在し、また被上訴人は事前に専門家に意見を求めていたため、正当な専利権行使の行為であると認めるべきであり、改正前公平交易法第45条規定により該法は適用されず、被上訴人が改正前公平交易法第22条、第24条規定に違反するという上訴人の主張もまた根拠がないものである。

五.以上をまとめると、被上訴人の行為は公の批評を受けることができる事項に対する善意ある言論の発表であり、かつ専利権行使という正当な行為であり、上訴人の権利を侵害しておらず、又は改正前公平交易法第24条、第25条に違反していないことから、上訴人は専利法第117条、民法第184条第1項前段規定、改正前公平交易法第31、32条規定により、被上訴人に連帯で100万新台湾ドルと金利を支払うよう請求するとともに、改正前公平交易法第34条及び民法第195条第1項規定により被上訴人に謝罪声明と本件民事判決を新聞に掲載するよう請求することには理由がなく、許可すべきではない。したがって原審による上訴人敗訴の判決には法に合わないところはない。上訴趣旨で原判決は不当であると指摘し、取り消して改めて判決するよう求めることには理由がなく、上訴を棄却すべきである。

六. 以上の次第で、本件上訴には理由がなく、智慧財産案件審理法(知的財産案件審理法)第1条、民事訴訟法第449条第1項、第78条に従い、主文のとおり判決する。

2017年1月12日
知的財産裁判所第二法廷
裁判長 李維心
裁判官 熊誦梅
裁判官 蔡如琪