台達電子の前上級管理者、充電ステーション機密情報を盗み懲役2年の判決
J240730Y4 2024年9月号(J301)
台湾のIT大手、台達電子工業股份有限公司(DELTA ELECTRONICS,INC.)で2023年に産業スパイ事件が起きた。米国電気自動車大手のテスラとの「壁掛けAC充電ステーション」に係る機密研究開発プロジェクトにおいて、前上級管理者である阮憲熙が(営業秘密を)窃取して、その後再就職した中国のIT企業に持ち出し、台湾IT産業に大きな損失を与えた疑いがあり、桃園地方裁判所は阮被告人に対して、中国大陸での使用を目的とし、営業秘密法に違反したとして懲役2年の刑に処す判決を下した。
桃園地方裁判所は犯罪を認定した理由を次のように説明している。阮被告人はDELTAが研究開発したテスラ電気自動車の充電ステーション技術に関するファイルを複製し、それらはいずれもDELTAの営業秘密であり、秘密性(非公知性)、経済性(有用性)、合理的な秘密保持措置(秘密管理性)を有する。阮被告人は、ファイルをクラウドドライブにバックアップしたのは、個人的に残業するのに便利であるようにするためであり、ファイルを個人のコンピュータ本体にバックアップしたのは、DELTAから支給されたコンピュータのハードディスクが壊れてデータが失われることを防止するためであり、よって、個人のコンピュータにバックアップして保存したと主張した。また、公開されており検索できる法規関連資料を転職した中国大陸の会社が支給したコンピュータに複製して字典として使用しようとした時、誤ってDELTAのファイルを一緒に複製してしまい、主観的に営業秘密法に違反しようとする犯意はないと主張した。
(それに対して)裁判官は、次のように認定した。阮被告人が会社の機密ファイルを個人のコンピュータ本体に複製したことは、明らかにDELTAの情報安全規定に違反しており、DELTAは文書資料を家に持ち帰って残業したり、個人の記憶媒体を用いてアクセスしたりすることを禁じており、また個人のクラウドドライブにアップロードすることも禁じている。もし一時的に自宅で残業するのに必要となり、規定に違反して機密文書を個人のコンピュータに保存したのなら、残業の任務が終了した時、又は退職し、退職届に署名した時に削除すべきであることを斟酌すると、あろうことか、故意に会社の秘密保持措置に違反し、また機密ファイルを削除せず長期に保存していたことから、供述は明らかに責任逃れの主張であり、採用するには不十分である。
さらに、阮被告人がいうところの公開の法規関連資料は、だれでも合法的に取得できるものであり、阮被告人が中国大陸の企業に任職している間も、自らネットで探したり、その他の合法的にルートで取得したりできるもので、DELTAの営業秘密ファイルとともに再就職した中国大陸の企業が支給したコンピュータに複製するということがあるだろうか。経験法則と論理法則に照らして、阮被告人は検索や閲覧しやすいように、法規関連資料とDELTAの営業秘密を同じフォルダに入れて、中国大陸の企業に在職している間の参考資料としていたが、検察と警察が差押品の中身を調べて上記の事情を発見したため焦って作り話をした、という可能性がある。
桃園地方裁判所は、阮被告人がかつてDELTAの研究員であったことがあり、技術資料がDELTAの営業秘密であり、競合相手に使われたら、世界の充電ステーション市場におけるDELTAの製品の競争力に不利な影響をもたらし、わが国のハイテク産業の生命線に打撃を与えることを明らかに知りながら、なお中国大陸地区で使用することを目的として、DELTAの営業秘密を侵害したこと、そしてDELTAの陳述によるとそれらの営業秘密は自社開発を行い、長期にわたって繰り返してテスト、検証を行ってきた設計の成果であり、かつ電気自動車向け充電ステーション産業において独自性と技術優位性を有するもので、DELTAにとって極秘ファイルであり、他社が自社開発する設計は規格や技術が同じになる確率が極めて低いことを斟酌した結果、当該情報に一般的に関わる者が知り得るものではないものではないことを斟酌した。
そしてDELTAは本件に関わる営業秘密ファイルの価値について、1億3495万新台湾ドルの経費を研究開発と生産に投じたと見積もっており、かつテスラ第二世代の壁掛けAC充電ステーションに関するプロジェクトは年間売上高が1億6000万米ドルに達し、阮被告人の行為はDELTAに対して毎年巨額の営業損失をもたらし、それが侵害した法益ともたらした損失は甚大であり、かつ阮被告人は犯罪後に心からの悔悟の念を表しておらず、またDELTAの損失を賠償したり、許しを得たりしておらず、犯罪後の態度は良好だとは言い難いことを斟酌し、(桃園地方裁判所は)最終的に営業秘密法違反により懲役2年に処す判決を下した。(2024年7月)